掃除 AV 約43000件

 天国獄は雑務をしない。
 職場でもそうだし自宅でもそうだ。
 職場はしかたない。なぜなら彼にしかできない仕事があって、それを十全にこなせるように他の人間がいるからだ。職員全員それがわかっているから、獄がたまったシュレッダーのくずを放置しても、少なくなったコピー紙の補充をしなくても許してくれる。
 なにより獄は折にふれては本当にすまなそうに「いつもありがとう」と頭を下げて、さしいれをしたりする。そこに打算があったとしても、当然だろうとふんぞりかえられるよりずっといいのが雇われる者の本音だ。
 しかしながらプライベートはそうはいかない。

 波羅夷空却は雑務を欠かさない。
 生きることは全て修行であるから、外見と言動に反してなんやかんやと忙しくしている。サボろうとしては父親に叱責され簀巻きにして転がされているが、なんやかんややっている。やらされているのかもしれないが。
 なんであれ幼少期から現在まで、多少のブランクはあれど叩き込まれた生活の習慣はそうは抜けない。本人の性質もあって強めに言い含められた分、余計に。
 よってこうなるのである。

「何度言っても弁護士先生は排水口の掃除忘れんなあ」
「すまん……本当に反省してる……」
「そのセリフも何度目だろうなあ」
「台所は……」
「そうだな。台所はよくなったな」
「だろ!?だから……」
「風呂場」
「……」
「獄の毛と拙僧の毛。まだらに混じり合って、なんつうんだ……きたねえ紅白なますみてえだったわ」
「想像さすな気持ち悪い!」
「獄がそうしたんだろうが!」

 ぐぅの音も出ない。
 同棲はしていないがしょっちゅう上がり込んでいるから、とちょいちょい家事をしてくれる。してくれるが「拙僧はお手伝いさんでも部下でもねえ。立つ鳥跡を濁さずってだけだ」とのことで、自分がいない間に生活をおろそかにすればご覧のありさまである。
 しかも風呂場は「拙僧はあんま見れないから獄がちゃんとしろ」とよくよく言い聞かされていたのだ。

「久々に一緒に風呂入る元気があったってのに……」
「本当に悪かった!だから……」
「はぁ?!まだヌメリ取れてないんだが?!」
「代わらせてくれ……!」

 風呂場の掃除が獄に一任されているのは、簡単に言えばセックスの後始末が一任されているからで、年下の体力の有り余る恋人を毎度毎度ねちっこく抱き潰しているせいだ。
 翌朝になっても余韻で身悶えるような空却には風呂場の掃除なんてできない。今回はたまたま体力と意識が残っていたから一緒に入って、つい習慣で排水口の蓋を開いて現在である。

 獄としては全身キスマークまみれの色気ダダ漏れの身体を惜しげもなくさらして、スポンジと洗剤片手に浴槽の縁に腰掛けるのをやめてほしい。
 顔だって怒ってはいるが、泣き喘いだ目元は赤く腫れているし、吸いすぎて紅をはいたようなくちびるはぷるぷるとしている。
 なにより本当の本当に、ついさっきまで獄の腕の中にいたのだ。舌打ちしつつ、がなり立てながら掃除しているが、ふとした瞬間、悩ましげに眉をひそめて動きが止まる。
 そんな姿を見せつけながら怒り心頭で掃除されてもなんにも頭に入らない。マニアックなシチュエーションAVか?とすら思う。絶対言わないが。

「……言っとくが、いま獄がムラムラしてんのまで含めて罰だかんな」

 言うまでもなくバレバレだった。
 こうなったら空却はテコでも譲らない。切なげに身をよじりながら甘い吐息をもらしつつ、がしがしとスポンジでゴミ受けを磨くのを風呂場の入り口で見守っていた。全裸で。

2021/02/02


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