かわいい猫には棘がある

 222で猫の日だから、と軽く浮かれた空気を適当にかわして、恋人のいる寺に来たらば。

「よっ!獄!お前も猫耳つけっか?」

 めちゃくちゃ浮かれた恋人が、猫耳をつけて待っていた。



「猫の日だから幼稚園で作ったの〜って言われたんだよ。未来の檀家さんを袖には出来ねえし、慣れると邪魔じゃねえし」
「そうだな、お前の歳ならまだ大丈夫だろ」
「遠慮すんなよ、三十路だって猫耳つけてにゃんにゃん言う権利はあるんだぜ」
「そんな権利いらん!」

 いつも通される客間で事の次第を話される。百均のカチューシャだのを組み合わせたらしいそれは、近くに寄ればなるほど子供の工作だ。わざわざ空却に合わせてか赤く作られているから、遠目から見ると髪の毛に紛れて妙なリアリティがある。
 しげしげと眺めていたら余計にもらったのか三毛猫柄のものをさされそうになった。振り払うとつまらなそうにされたが、すぐにニヤリと笑って、ごろりと足下に転がる。
 座布団にあぐらをかいた目の前、ホンモノの猫が眠るときのようにまあるくなって、恋人は言った。

「じゃあ、カワイイ〜ネコちゃんをかわいがる権利、ほしくねえ?」



 もしも見られたり、気づかれたら恥ずかしいから、と寺ではキスとハグぐらいしかしないことになっている。それだって十分恥ずかしいと言われているが、全面禁止にすると変に盛り上がってしまうのが人間だ。
 なので今、しているのは、けして、キスとハグの範囲は超えていない。

「ん……む、うん……」

 ちゅ、ちゅぱ、かぷ、ぺろ、ちゅ、とわざとらしく立てられる音は、転がったままの恋人の口から出ている。
 撫でろと言わんばかりにのけぞってさらされた喉をくすぐってやると、そのまま仰向けになってすり寄ってきた。手足を折り曲げて、じゃれつく猫の真似をしながら。
 調子に乗って喉から顎下、頬、ホンモノの耳とくすぐってやると、だんだんとろん、と金色の瞳がとろけて、まぶたがうっすらと落ちてきた。ずいぶん気持ちよさそうにしていたが、猫というか赤ん坊のようでもある。最後に頬をひと撫でして、なんかかけるものでも探そうとしたら、ぱく、と指を咥えて引き止められたのだ。
 眠そうにとろとろとした金色は焦点が曖昧なままこちらを見つめ、口の中で指を弄んでいる。ちゅうちゅう吸ったかと思えば、かぷかぷと甘噛みをし、ぺろぺろと噛んだところを舐める。別に美味しくもないだろうに、熱心にちゅぱちゅぱとしゃぶられるのが不思議な反面、どうにも落ち着かない。直球で言うとムラムラする。
 そろそろ指もふやけてきた頃合いで、このままだと出っ張ったものがおさまらなくなりそうだった。なのでまあ、非常に残念だが、惜しいのだが、ここが寺ー恋人の実家で数百メートル圏内に身内がいなければ、指でないものをお願いしたかったがそうもいかない。

「オラ、空却。ねぼけんな」
「ん、む……」

 半分寝た子を起こすべく声をかけ、指を引き抜こうとすると、行くな、とばかりに舌が絡みつく。きゅ、とやわく締める感触にどきりとして、あわてて指を引き抜く刹那、指の腹で舌をぞり、とえぐってしまった。やわらかくぬめるそこは、思うより深く沈み、どこか痛めてやしないかと血の気が引く、がー

「ふぁ……っ」

 半開きの口からもれたのは甘く媚びた嬌声で、眠気でとろけていたはずの目も熱を帯びたものに変わっていた。
 びく、ぴく、とふるえる体は、自分を抱きしめるようにきゅ、とまるまって、足の指がもじもじと空をかく。

「ひとや……」

 くり返すが、ここは恋人の実家で、恥ずかしいからキスとハグ以上はしないことになっている。
 さて、この猫をこのままかわいがることはルール違反になるだろうかー?

2021/02/23


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