フィアンセにしてあげる
じゃらじゃらとアクセサリーをつけた恋人は、上等なものからオモチャのようなものまで、たくさんの種類を有している。
なんでもまあ自分で買う以上に「くうこうくんはそういうのがすきなこだから」と老若男女問わず檀家さんから貢物があるのだという。
貴重な金色の折り紙で作ったネックレスから、福袋に入っていた趣味じゃなかったピアス、果ては形見の指輪ーなんとも多彩なラインナップだ。
寺に行ったらば、珍しく自室で大人しくしているから、何をしているのかと思えばそれらをズラっと並べて整理していた。
「だいたい好意でもってくれたもんだからな。形見の指輪は本来の持ち主を亡くされて、供養したり自分で持ってることもできないって渡されたんだけど」
「へぇ、どんな指輪なんだよ」
「シンプルなシルバーのリングだよ。いわゆる結婚指輪ってヤツ」
「……ふぅん……」
「ヒャハ、妬いたか?」
「妬かせようと思ってるクソガキの術中にハマってんのにムカついてんだよ」
「つまり妬いてんだな」
愛い奴め、とニヤニヤ笑う恋人が小憎らしい。
どこかのだれかの、弔うことも抱えることもできなかった思いの塊を、ケースから取り出して指先でつまむ。
小さくほそい、繊細なリングは簡単に消えてなくなってしまいそうだった。
「安心しろよ。こんな小さい指輪、拙僧にはつけられん」
それにつけるつもりもない、と再びケースにしまいこむ。
もとより渡してきた相手が亡くなったら供養するつもりだし、返してほしいと言われたら返すつもりだと。
「空却くんはすごく幸せそうだから指輪に幸せをわけてあげてほしいって」
一度しかつけられることのなかったというリングは、一体どんなシチュエーションで持ち主の指におさまったのか。
結婚が幸せの象徴なんて時代はとうに終わったが、公明正大な愛の証としての意味合いはまだ強い。
感情に名前をつけて形を与え、他人にしらしめて誓い合う。そのためだけに用意され、身につけられたのだとしたら、リングは誓いの先を知らない。
「お前はいつもバカみたいに幸せそうだからな」
「そうなると獄もバカってことになんぞ。さっきの言葉には"弁護士先生と一緒にいる"が前につくんだからな」
「……ホンット、お前は……」
「素直に妬いてくれる獄のこと、拙僧だ〜いすき♡」
今度お揃いの指輪買いに行こうぜ、とにんまりとした恋人の左手薬指は、珍しく何も嵌められていなかった。
2021/02/26
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