愛の灰燼

 きらきらと輝く指輪は、小さく本物のダイヤモンドが埋め込まれていた。
 永遠の愛、なんてなんともベタで面白くなってしまう。わざわざ通された個室でヒィヒィ言いながら腹を抱えて笑っていると、店員さんが胡乱な眼差しで恋人を見た上、ぼそりと「結婚指輪でいいんですよね?ちゃんとお話されました?」と確認をとられていた。誠に申し訳ない。
 普通、超高級店のどう考えてもVIP専用ルームで「結婚指輪でござい」とダイヤモンド付きの指輪を差し出されたら、感極まって泣くところなのかもしれない。
 残念ながらそんな普通はしったこっちゃないし、一緒にお揃いの指輪を買おうとは言ったが、何もこんなかしこまったところのつもりもなかった。
 いつもどおりでよかったのだ。なんなら缶詰の形の指輪のガチャを回して、パイナップルが出たら押しつけようと思っていたくらいだったのに。

「拙僧愛されてんだなあ……」

 ようやく笑いがおさまって、はあ、と大きく息をつくのと一緒に漏れ出た言葉は、静まりかえったVIPルームにだいぶ大きく響いた。
 呆気にとられた店員さんと、頭を抱えた恋人に、すまんすまんと言うと、再び商談がはじまる。
 サイズは聞いておりますが一度お試し下さい、と渡された指輪は、怖いくらいピッタリだった。



 きらきらと輝く指輪は今、空却の左手薬指に嵌まっている。
 今日のために、と普段つけているものを全てはずし、マニキュアも落とされた、正真正銘、裸の指に、一つだけ嵌められた華奢な銀の輪。
 折に触れてはそれを眺める姿は、常より幼く見えた。
 自分の指の同じ位置にも同じものがおさまっているが、恋人の指で輝く方がまぶしくうつる。

「思わずキモいって言ったけど、すげえな。いつの間にサイズ測ったんだよ」
「ああ……あんな反応されると思わなかったが、簡単だ。いつもつけるのがあるだろ。あとは触ったときの感覚だ」
「なるほど、いつもつけてんのを目ざとくチェックして、感覚で詰めてく、かあ。何人その手でオトシたんだか」

 モテモテだった、アマグニセンセ。とからかうように笑う。
 指輪以外、服でもアクセサリーでもなんでも、恋人でも仕事相手でも、相手の細かな情報を手に入れて、利用するのなんざいくらでもやってきた。
 それを空却も知っている。知っているし、特になんとも思っていない。ただ獄を悪いオトナだとからかっているだけだ。
 言外に悋気でも感じられれば可愛かったが、そんなもの微塵もない。こんな物言いをされるときは少しばかりそんな気配がにじむものだが、これまで一度もない。
 檀家さんが獄にイイオトコね、と空却に渡すより多く饅頭を渡したとき、獄に嫉妬していた。あのネエさんの饅頭は美味いんだぞと。なんでだ。

「お前は、嫉妬とかしないな」
「なんだ。してほしいのか?」
「これ以上面倒になられても困るからしなくていい」
「じゃあいいじゃねえか」

 しなくていいのだ。全然。
 ただ、なんとなく、

「面白くないか?」

 どきりとした。
 そう、なんとなく面白くないのだ。
 自分ばかり嫉妬しているのが、大人げなく、みっともなく感じてしまう。

「でもな、獄、拙僧はもう燃え尽くしてんだよ。獄を口説き落とすまでの間に、全部、全部燃えたんだ。だって嫉妬したって、泣いたって、獄は拙僧を好きにならないだろ?」

 とっくに自分は全て焼け落ちた後に残った消炭なのだと笑う顔は、無邪気で、無垢で、恐いくらい綺麗だった。
 ダイヤモンドも、焼き尽くすほどに。

2021/02/27


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