突撃!隣の恋のから騒ぎ
「浮気〜?」
「するわけないだろ」
「ですよね〜!」
DRBのミーティング、という名のダベリ会。
十四にとって恩人と師匠である二人がお付き合いしているというのはわりとすぐに教えられた。
というか隠していないのですぐわかった。
いわゆるカップルオーラは出ていないけれど、二人でいるときの空気が自然なのだ。てんでバラバラに忙しく動き回っていて、会えば即ぎゃあぎゃあと喧嘩するのに、最後には綺麗におさまっている。
それだけなら長い付き合いなんだなあ、で済んだのだが、ふとした瞬間、こちらが恥ずかしくなるほど甘く蕩けた雰囲気になるのだ。大衆食堂にいたはずが、急にスイーツショップになっていて、え?っと思ったらまた元の場所に戻っている。このジェットコースターで変わるムードに未だについていけない。
いちおう二人には言ったのだ。もしかして二人って付き合ってます?と。もしそうなら急にラブラブ〜ってなるの控えてくれませんか?と。
『付き合ってるけど……ラブラブ?』
『ちゃんと灼空さんにも話して、頭下げて、書面におこして実印押して、将来設計の定期相談会もしての極めて真剣な交際ならしてるが……ラブラブ?』
獄さん、苦労したんすね……と言ったら、わかってくれるか……こいつ本当むちゃくちゃで俺はと泣き崩れる恩人と、はあ?お前をオトすのに拙僧がどんだけ大変だったかと怒り心頭の師匠に挟まれ、自分も泣くハメになった。
考えてみれば空却をむちゃくちゃだと言いながら、そのむちゃくちゃな相手と『真剣交際』するため、過剰に感じるほどの手順を踏むことを選んだのは獄自身なのだ。
空却が先に惚れて、おそらくとんでもない猛攻を獄が受けたのは想像に難くないが、結果としては同じくらいズブズブにハマっている。
目の前で怪獣大決戦さながらの言い合いをする二人を前にそれに気づいた十四はしかし、やっぱラブラブじゃないすか……とはとても言えなかった。
そんな二人にたいして浮気などという愚問。
したことがあるか、とか疑ったことがあるか、とかではなく、どう思うか、が聞きたかったのだが。
「獄がするわけねえだろ。親父にお宅の息子さんとお付き合いする上でウンチャラカンチャラって作った書類に浮気はしません〜ってあったからな」
「こいつは腐っても坊主だからな、不貞はしないさ」
同時に双方の職業的信頼に基づく答えが返ってきた。
こういうときに好きだから、とか愛し合ってるから、とか言わないから急なギャップに戸惑うのだ。
でもこれだって、お互いの仕事、選んだ道へのリスペクトがあっての言葉だ。死ぬまで歩む道からけして背かない相手だと信じている。
もしかしなくても、自分はずっと無意識ラブラブバカップルの無意識ノロケに付き合わされていたのか。そしてこれからも付き合っていくのか。
十四に不退転の心はあるが、一度「え……死んでも切れない縁の二人が終始放つ無自覚ノロケにさらされ続ける宿命……?!」と思ったら「本人達がそんなつもりないなら気にしなくていいか〜!」なんて思えるほど図太くはない。急にスイーツショップばりに甘くなるムードにだって慣れていない。
「でもアマグニセンセはおモテになるかんなぁ……」
ぼそ、と師匠がつぶやいた。
からかうつもりで失敗したような、うっかり口から出てしまったような、憂いをはらんだ声だった。
「お前だってモテモテだろうが」
すかさず恩人が応戦する。
鷹揚な中にかすかに悋気をにじませた、包み込むようなのに火傷しそうな熱を帯びた声だ。
あ、はじまった。
予告なしのスイーツショップ転移。
こうしてみると、今まで気づいていなかった無意識ノロケは、なんやかんや二人が自らを律することができるからスルーしていたのだと強く感じる。きっとどんなときでも当たり前に、自然にあれるようにしている。そうするだけの時間と経験を重ねてきたのだ。
いま目の前で起きているのは、制御しそこねた感情がたまたまこぼれ落ちた結果なのだろう。
空却が獄をからかうのにモテだのなんだのと言うのはよくあることで、だから真実『失敗』したのだ。
十四の知らない『大変だった』ことが、十四の言った『浮気』で揺り起こされて、あんな切なげな声を上げさせた。
そうなったら獄が引きずられないわけもなくーもしくは意図的に引きずられたのかー非常にスイートな空気になっている。
これ、自分のせいもあるんすかねえ……。
遠い目で、けれども少しの羨望と憧憬を込めて、やたらしっとりした恩人と師匠を眺めていた。
「なるほど、これか」
「そうだな、これだな」
「どうしたんすか?」
本日のスイーツショップが閉店して、いつもの雰囲気に戻ってから数分後、何やらわかったことがあるらしい。
「前に十四言ってたろ、急にラブラブになるなって」
「あ、はい。でも別に……」
「いや、これから三人でDRBに挑んでいくんだ。そこはちゃんとしないといけないからな」
「はあ……」
師匠と恩人、交互にうんうんと頷きながら話を進められる。有無を言わさないところがそっくりだ。
「で、だ。さっきなんとな〜く『お、これが十四の言ってたラブラブってやつか……?!』ってわかったから、これからああいう空気になったら拙僧と獄をブッ叩け」
「ブッ……え?!」
「一番巻き込まれることになるからな……。今までも悪かった。遠慮なくいってくれ」
「獄さんまで!?」
長く一緒にいると性格や外見が似るというが、向上心の高さと変なところで思い切りがいいのは二人とも元々の性質で、相乗効果でカッ飛んでしまっている。
オロオロとする十四に、どこから取り出したのか笑顔で警策を渡す師匠の耳がほんのり赤い。
もしかして照れ隠し……?と思ったけれど、はたから見ると自分が一番変な人に見えるから、と丁重にお断りした。
2021/02/05
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