悪いものに甘いもの
お決まりの文句と共に事務所に突撃してきたクソガキ二人を所長室に押し込め、塩を撒くように菓子を撒こうとした時だった。
「ん……?」
派手派手しい仮装をしていると踏んでいたガキ共が、思うよりも控えめな装いだったのだ。
見慣れたいつもの服で、頭にだけテーマパークの土産のようなカチューシャが刺さっている。ふわふわとした動物――猫――の耳の周りを、デフォルメされたゴーストや、ジャック・オー・ランタン、棒付きキャンディなどの菓子の小さなマスコットが飾っていた。
空却はともかく十四は気合いの入った仮装をしていることが多いのに、という疑問が顔に出たのか、聞いてくださいっす〜! と泣きつかれた。
「今年のハロウィンのために衣装お取り寄せしたんすけど……届いてみたら色味が全然違ったんすよぉ!」
スマホの画面で見た時はもう少し紫がかった感じだったのに実物は真っ黒でぇ……と、目をうるませながら鼻を鳴らす。雫が落ちていない分は成長しているが、罪悪感と庇護欲を駆り立てる憂い顔は変わらない。
「んで、あーんまべしょべしょ泣いてうるせぇから宥めてたら、じゃあこのカチューシャつけてくださいっす! って」
若干悪意を感じる声真似をしてげんなりした様子を隠さない空却は、本人の意志に反してカチューシャがよく似合っていた。二人とも華やかな顔立ちだから、ゴテゴテした飾りに負けないのだろう。猫耳が似合っている――というのは黙っておく。
「本当は三人でお揃いの死神マント着たかったっす……」
このカチューシャは本来、どうしても死神の仮装を拒まれた時用だったらしい。本格的な仮装よりも着脱のしやすいカチューシャならば、とこちらが折れることを見越したアイテムは、なるほど一番弟子に甘い空却が装着している。
「届く前もうるさかったのに、届いてからもうるせぇのなんの……」
「だって! せっかく空却さんが着てくれるって……!」
二人でお揃いで突撃したら、きっと獄さんも着てくれたっす――そう、恐ろしいことを小声で漏らすのを聞き逃さなかった。
「……俺には我慢ならんもんが二つある。一つ、アポ無しで事務所に襲撃するガキ共。二つ、サプライズで馬鹿騒ぎに巻き込もうとするガキ共だ!」
「それもう拙僧と十四って言った方が早ぇからな?」
聞き飽きたとばかりに耳をほじるクソガキ一号は、また着りゃいいだろと鼻をほじり、菓子をよこせと手を出した。
「汚ねえんだよ」
「エアほじりだから汚くねーよ」
「何がエアだ。穴に入ってたらアウトだアウト」
「二人の会話が一番汚いっすよ……」
何かと荷物の多い鞄からウェットティッシュを取り出して、野生児のごとき師匠に手を拭くように促す十四は、少なくともエアほじりとか言い出さないだけ可愛げがある。
「ほれ、拭いてやったぞ潔癖弁護士」
「お前が気にしなさすぎるんだよ」
再び乱暴に差し出された手のひらに、ばらばらと菓子を撒いてやる。
朝早く開店し夜遅く閉店する量販店で買った賞味期限間近の驚安セール菓子でも、高級デパートの地下深くにうやうやしく鎮座した老舗の菓子でも、同じように有り難がって受け取るのは、この子供の数少ない美徳だ。
あんがとな、と目を細めて口角が上げるのに、傍若無人な言動の全てを許してしまう。
「十四」
「はーい!」
あえて大声で名前を呼ぶと良い子の返事が返ってきた。
さっきよりも二回りは大きな手のひらにばらばらと菓子を撒くと、こそりと声をひそめて囁かれる。
「……空却さん、押せばけっこう着てくれるっすよ……」
あのカチューシャも最初は渋ってたけど獄さん好きそうっすねって言ったら一発っす、と聞き捨てならない情報を流し込むと、晴々とした良い笑顔で空却の方へと向かって行った。
断じて浮かれた仮装をさせたいわけではない、が。見目だけは麗しい恋人を着飾りたい欲望がないと言ったら嘘になる。
大人の見栄をとっぱらって甘えたら、可愛くないところがかわいい恋人は叶えてくれるだろうか。
いたずらに甘んじるしかないよう、二人きり、菓子を食べ終わったら聞いてやろう。
2024/10/31
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