溶けて消えてはやらないが
雪が降った翌日、恋人の家を訪ねるとなんとも言えない有様だった。
「よぉ獄!」
「元気だな……お前」
広い広い寺の雪かきの手伝いと差し入れに来たのだが出遅れたらしい。
兄弟弟子や檀家さん、近所の人達にあらかた綺麗に片付けられ、残るは人の通らない所ばかりだった。
カイロや茶、軽食に菓子。コンビニで買った袋を渡せば、サンキュ、と笑い、雪かき協力のお礼として配りに走りだす。
ぎゅ、ぎゅ、と踏み締めるように駆けるのは、転ばないためだろう。
いつもと違う雪靴を履き、マフラーにコート、手袋——厳重に着込んだ恋人を見送り、ふとその足跡を追った。
「元気すぎんだろ……」
「どした獄」
「もう、戻ってきたのか?」
早すぎる帰還にやはり元気が有り余っている、と少々怯えるも、けたけたと笑いながら否定された。
「ちげぇよ、旦那待たせんなって檀家様に差し入れ奪われたんだわ」
どうせ空ちゃんに良いとこ見せたくて来たんだからとっとと戻ってサービスしてやれ、とか言いたい放題だ、とぼやくフリをして、つぃ、と流された視線は色っぽい誘いを孕んでいる。
「庭中の雪に足跡つけて、まあだ動けるのか?」
恋人の体力の心配などするまでもない。これは単純に檀家さんに煽られた恋人が、どこまで本気かを確かめるための言葉遊びだ。
「獄も踏みたかったか?」
「そりゃもちろん」
「悪ィことしたな」
問いに問いで返される。
まだ真意の見えない恋人の目は色づいて楽しげなまま、どうとでも受け取れそうに振る舞う。
恋人の周りだけ湯気が見えるような熱を放ちながら、きゅ、と腕に絡みつき、身を寄せられた。
「お詫びに、拙僧のカラダ……いっくらでも痕、つけていいぜ?」
首でも背中でも。そう言ってちらりと覗かせたうなじは、ほてって汗ばみ、うっすら赤く色づきながらも雪のように白い。
その程度のことでぐらついたのがわかったのか、恋人が満足そうにせせら笑う。
「ヤァダセンセ、簡単すぎねぇ? 覚えたてのガキでもあるめぇし」
「俺しか知らねえガキのクセに……」
「獄以外、知っちゃってイイのかァ?」
どんどん露骨で下品になる誘惑は答えそのものだ。
まだ片手でおさまるほどしか抱いていない恋人こそ覚えたてのガキで、簡単だ。
かわいいかわいい自己紹介にたかぶる心を抑え、みっともなく歳下の恋人にがっつく三十路男を演じてやる。
「やめてくれ。想像するのも嫌だ」
哀れっぽくため息をつけば、嬉しそうにさらにこちらへと身を寄せる恋人がかわいくてかわいくてたまらない。
お互いどこまで演技で駆け引きかは、後で答え合わせとしよう。
2025/2/12
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