うつろのまことがみのるまで
拙僧の代わりに寺を継いでくれ——
と師匠に言われて驚き、すぐに嘘と気づき、かたわらの恩人と各自リアクションをした後。
あれは空ちゃんがねぇ、と頷く年配のご婦人。
くーこーがわるい! と合唱する子供達。
空却くんがやりすぎたね、と笑う男性。
その場に居合わせた人は皆、エイプリルフールでも限度がある、と師匠を咎めていた。
だからあらためて自分も言わせてもらった。
「空却さんが悪いっす!」
「わぁってるよ……拙僧がわりぃよ……」
ぐったりとした様子の師匠にいつもの覇気はない。大義そうに転がる姿はひどく気怠げで、指一本動かすのすらしたくないとばかりに畳に張りついていた。
それにだいぶ暖かくなってきて、師匠ならば作務衣一枚で過ごすことも多いのに、珍しく上からさらに一枚、パーカーを着ている。フードをかぶっていても伝わる弱り具合にはほんの少しだけ同情した。
「でもよぉ……後継が欲しいなら作ってやるもおかしいだろ……!」
「おかしくはないっすね。空却さんと獄さんは結婚してるっすから」
「獄も十四もなんで同じこと言うんだよ……拙僧は男だから孕まねぇっての……」
「獄さん、恥だのプライドだの言ってられねえ、寂雷に協力してもらう……って言ってたっす」
「……声マネうま……」
「ありがとうございますっす!」
褒めてねぇ、と頭を抱えて丸くなった師匠は、畳の上から動かない。動けないが正しいのかも知れないけれど、自業自得だからしょうがない。
俺はもうお前とこの寺を継いでいくつもりだったのに、とプラチナの瞳が怒りで燃え上がったのを、あの日あの場に居合わせた全員が目撃している。
さしもの師匠もその剣幕に飲まれ、あー、とか、その、とかしどろもどろになっている間に、がっちりと腰を掴まれて拐かされてしまった。
誰も、それこそ騒ぎを聞きつけて来た灼空さんすら、審判の炎を纏った獄さんを止められなかった。
「なんであんな嘘言っちゃったんすか」
「んなの、冗談だとしても拙僧の家族であるお前らになら任せられるって思ってるからに決まってんだろ」
「それは、わかるんすけど」
「来年は御本尊が巨大ロボになったぐらいにしといてやるよ」
「今度は灼空さんに怒られるっすよ……」
「親父は簀巻きで説教かチョーパンして説教かで済むからいいんだよ」
きゅ、とフードを押さえる手と、ちらりと覗いた耳がほんのりと赤かったのは、見えなかったことにした。
師匠の可愛いところを見た、などと恩人に知られたら、今度こそ師匠は十月十日、外に出られなくなってしまうから。
2025/4/6
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