後付けミーニング
「ほーるけーきの日ィ?」
「はいっす!」
珍しく十四から獄さんの事務所に集合! と召集をかけられて向かうと、顔パスで踏み込んだ戸の先で楽しそうにドラムロールを口ずさんでいた。
応接用のソファに座り、テーブルに乗せたそこそこのサイズの箱をいそいそと開ける十四と、近くで立ったまま眉間を押さえる獄に、爆弾処理でもしてんのか? と聞けばケーキっす! とでっかい声が返ってきた。
なんでも一の下の八……カレンダー上で1をロウソクに、そのすぐ下の8をケーキの土台に見立ててホールケーキの日……とケーキ屋が決めたらしい。
そこそこのサイズの箱から出てくるのは当然そこそこのサイズのケーキで、そこそこに立派なホールのショートケーキは美味そうではあった、が——
バーカウンターのある所長室に広がる甘い香りに、眉間の皺をぴくりとさせて、俺には我慢ならないモンが……と言い出す獄を止める気にはあまりならなかった。
「一つ、暑いか寒いかはっきりしない天気。二つ、企業のこじつけ記念日に踊らされるやつだ!」
「あー、最近降ったと思ったらカンカン照りだもんな」
「空却さんは衣替えしたっすか? 自分迷ってて……」
「お前ら話を聞け……そもそも! 俺は仕事中なんだが?」
眉間とこめかみをひくつかせる所長様には申し訳ないが、洋菓子店の陰謀に見事に踊ってしまった十四の献上品は胃袋にしまわねばなくならない。
折よく、ボスよりもよほど物分かりのいい部下が一礼と共に茶を差し入れ、獄から仕事を奪うように引き継いで去っていった。
「仕事もなくなったし十四の奢りケーキ食うぞ!」
「……どっかのバカガキ共が襲来すると仕事になんねえって知れ渡ってるんだよ。ちったあ恥じろ」
「さっきの人、天国さん休憩して下さいって言ってたっすよ?」
「だあから、諦めてんだよ」
ぐちぐち言いながらもバーカウンターから皿とフォーク、ついでにナイフを出して、好きにしろとばかりにテーブルに並べられる。観念してソファに腰掛けたのにならって、空いた席にお邪魔した。
「三等分でいいっすか?」
「そんな食えるわけねえだろ……」
「んだよ、だらしねぇなぁ」
「ピースならともかくホールだぞ。勘弁してくれ」
とても食い切れないと宣う獄に合わせ、八頭分に切ったケーキをそれぞれ皿に乗せ、まずは一口。いただきますも言った。
「うめぇ」
「美味い」
「美味しいっすよね〜」
フォークを忙しなく動かしながらこのケーキとの出会いを語る十四は、たぶん獄の分までたいらげてくれるだろう。
すっごくみるきーと十四が熱弁するとおり、乳っぽいコクのあるクリームと、スポンジの間の具の多いいちごジャムでどんどん食える。
「しかし、ホールケーキなんざ祝い事でもなきゃ食わないからなあ」
「拙僧は祝い事つうと饅頭だったぞ。これと同じくらいデケェやつ」
「お寺さんって感じっすね」
「十四と獄と組んでからだな、こんなん食うの」
今も昔も菓子を貰うが、寺としても個人としてもあまり日持ちのしないものは貰ったことがない。寺というイメージもあって圧倒的に洋菓子よりも和菓子を貰う機会の方が多い。
一番最近が十四の誕生日祝いのケーキで、ほとんど黒のチョコレートコーディングに金粉が散りばめられ、薔薇だの蝶だのの飴細工が突き刺さっていた。十字架を模したロウソクをどかして切った中から真っ赤なソースがこぼれ落ちて、誕生日祝いがこれでいいのか? と獄が首を傾げていた。
思えばフォークを使わない菓子ばかり食っている——しみじみ噛み締めていると、じゃあ、と弾んだ声が降ってきた。
「まだまだ三人で色んなケーキ食べられるっすね!」
獄さんの誕生日も、空却さんの誕生日もあるっすよ、と何切れ目かを食い尽くしながら次のケーキの話をする十四に、獄が信じられないものを見る目をしている。
「今日はホールケーキの日だったっすけど……これから三人でケーキを食べる日は『家族』の日のお祝いってことにするっす!」
フォークを掲げて宣言する姿は勇ましく誇らしげで、頼もしいというよりは微笑ましい。肝心要では十二分に頼もしいから、バトルの時以外はこれくらいでいい。
「別に祝い事じゃなくたってケーキは食っていいだろ。まあ、ケーキ一年生の見習い坊主にはその方が食いやすいか?」
「一切れでギブアップしてるオッサンはしょっちゅうケーキ食うのはキツいんじゃねえの?」
「なんで喧嘩になるんすか!?」
それに比べてこの銭ゲバ弁護士ときたら。喧嘩になるのはこいつが安売りしたからに他ならない。
しょうもない言い合いをしながら新しいケーキに手を伸ばすと、ゾッとした顔をしてフォークを置いていた。
ともあれ、祝い事は多いに尽きる。
ましてや家族でケーキを食べるだけならば、何度でも。
「十四、このホールケーキの日っての毎月八日らしいぞ」
「そうなんすか!? じゃあ毎月八日は……」
「だからホールはやめろ! やるなら俺を巻き込むな!!」
「何言ってんだ獄、『家族』だろ」
「そうっすよ獄さん、一蓮托生っす!」
「『家族』なら俺の意志を尊重してほしいんだがなあ……」
2025/5/9
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