素体・立体・等身大!
昨今の異常気象でこれまでの暦が参考にならなくなり、空厳寺でも前倒し前倒しで衣替えを行なっていた。
年がら年中袖のない作務衣の暫定後継者にとっては同じ形の衣装ケースを入れ替えるだけの作業だったのだが、衣装持ちで着道楽の家族が増えてから、嵩張るようになっていた。
さすがにいくらか整理しないととひっくり返すと、奥底に押し込まれていた懐かしい代物が発掘された。
「それがコレ、と」
「たしか喧嘩しまくってボロボロだからバザーに出せねぇって言われて、じゃあ限界まで着潰してから捨てっか! と思って持って帰ったんだが……」
「直後に東都に行ったんだよなあ……」
「そう! そんで今日まで忘れてたんだわ!」
帰宅するなりジャージ姿の恋人にびんてーじモンだぞ! と叫ばれて、何が何だかわからないまま居間まで引きずりこまれた。最近渡した合鍵をさっそく活用してくれたようだが、よくよく見るとジャージ以外にも何か身につけている。
濃紺の、いかにも既製品の大量生産された衣服に機能性以外の美学は無いが、見目麗しい恋人が着用しているととんでもなく洒落て見えた。膝だの肘だのが破れているのはヤンチャの結果だろうが、ダメージ加工だと言われたら信じかねない。
加えて、体感では変化がないと思っていた恋人が、このジャージを現役で着ていた頃と比べれば育っているのだと視覚で味わえたのも大きかった。
袖も裾も寸足らずではみ出た手首足首の白さ、窮屈そうにおさまった身体がジャージを押し上げる様は、しみじみと成長を感じる反面、なんとも倒錯的だった。
前者はともかく、後者の育成には、自身も関与しているからだ。
「ジャージはわかった。……で、その頭のはなんだ」
「あぁ、これはジャージ出てきたから獄に見せるって言ったらくれた」
「誰が」
「オオスのメイド」
「お前はなんでそういうことをなぁ!」
幼い頃からオオスを庭にしている恋人は、いつまで寝しょんべんをしていただ、週九で親父に追いかけ回されて殴られていただのが知れ渡っている。
当然のごとく暗黙の了解のお付き合いも住人はご存知なので、メイド喫茶のバイトのメイドなんて新参者にすら「クーコーのカレシ」と呼ばれたりする。
「そう怒んなよ、ちょっと前に流行って今じゃすたんだーどらしいぜ、ジャージメイドってのは。エプロン着ける前に帰ってきたから頭だけだけどよ」
「ジャージにメイドのアクセサリーを合わせるスタイルなのか……。なんか中途半端で落ち着かねえな……」
「へぇ、ベンゴシセンセはちゃぁんとしたメイドさんのがいいんだ?」
にやにやと面白がって好みを探る仕草をするのに、そうではないのに、とため息がもれた。
「だから、別にメイドに興味はねえんだよ」
「知ってるぜ? 獄が好きなのは拙僧だもんなぁ」
でも普段は見ない格好ってのもイイだろ、と、サービス満点のウィンクされたら、それは、実際、否定は出来ない。
コスプレ趣味のように言われるのは我慢ならないが、ジャージ姿にぐっときてしまったのは事実なのだ。
なにより、一番大事なことをわかってくれているならそれでいい。
「……エプロンもつけてくれ。じゃないと良し悪しがわからん」
「お、ノッてきたじゃねえか! ご奉仕してやるぜ?」
手始めに夕飯だ! と台所へ走り出した恋人はジャージも頭の飾りも、よく似合っていた。
2025/5/10
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