あまぐにひとやくん さんじゅうごちゃい

 四十物十四が神と師と慕う家族は、傍目にはそうとわからないけれどお付き合いをしている。
 中学生の師に迫られても頑として断り続けた神が、師が突然に東都に出奔し、二年後に帰宅するまでの間に腹を括り、師の父に頭を下げたのは一部では有名な語り草である。
 法律上、成人年齢は十八歳に下がったものの、煙草も酒も嗜めない子供と一線は越えないと書面に起こして誓った神を、師は意気地がないと不満気に愚痴るが、十四は誠実で実直な神が誇らしかった。
 だからかわからないけれども、お付き合いをしているはずの二人は非常にさっぱりとして見える。
 ところかまわず互いを求め合うようなことは神も師も好まないだろうと思うものの、果たして本当にお付き合いしているのだろうか……? と疑わずにはいられなかった。

「連休の予定? ツーリングだな」
「拙僧は山」
 春先に思わぬ収穫があった場所にまた行くのだ、と愛車に乗るイメージを膨らませた神の手は、ご機嫌に無いハンドルを握っている。
 師は師で、盛りの花があるから眺めが変わっているはず、と山の主のような眼差しで山頂からの光景に思いを馳せていた。
 連休なのにデートとかしないんだ、と思ったものの、自分は自分で野外ライブの予定がある。
 家族でバラバラなのだから恋人でバラバラでもおかしくはない。
 以前に二人でツーリングや山登りをしないのか、と聞いたら神も師も心底嫌そうな顔をして、試しに一回やってみたがこいつはなんもわかっちゃいない、と同時に吐き出した。
 つくづくバラバラであるものの、息ぴったりに互いへの不満をぶち撒ける姿は自分達を繋ぐものを感じなくもない。
 ともあれ良い休日を、と言って解散したのだ。

 さて連休、事件は起きた。
 B.A.Tが好きなら四十物十四のSNSをフォローしろ、と言われるていどに神はガードが固く、師はきまぐれだ。
 弁護士事務所のアカウントは広報メイン、以前に出した書籍専用の公式アカウントがあるがそれすら十四のSNSにタグやリンクをつけている。
 代わりにwebメディアや雑誌へのコラムやエッセイなどは受けていて、事務所のバーカウンターへのこだわりだけを語った回はPV数トップ値を叩き出してしまい、いまだに記録更新されていないという。
 一方の師は、個人アカウントを持ってはいるものの更新しない。フォロワー数自体は多いものの、投稿は十四に促されてようやくという有様で、ファンから自アカウントのまめな投稿と、師への進言のお礼を言われる始末である。
 ただフットワークが軽く、物怖じしない性格により、ファンや一般人からの目撃投稿やツーショット投稿だのが多い。他ディビジョンのSNSへの出現率も高く、師のファンは嫌でもパブサが上手くなるという。

 そして事件は起きた。
 初夏らしい陽気の中で執り行われた野外ライブは大盛況に終わり、ほどほどに乱れた姿のまま、されど最低限の化粧直しはして、終演後の楽屋写真を投稿した。
 待ってましたとばかりに殺到するリアクションの数々はライブの成功を伝えてくれる。良かった、嬉しい、また絶対にやろう、そう噛み締めながら増え続けるコメントを追っていると、気になるものがいくつか流れてきた。
 どうやら師が久々に自発的にSNSを更新したらしい。だんだんと加速していくコメントをどうにか追っていくと、何があったのかわからないけれど、ともかく投稿された写真に神が写っているという。
 ツーリングと山。神の目的地の一つに山があるというのは聞いていたけれど師の目的地の山とは違うはずだから、どちらかが予定変更でもしたのだろうか。
 ともあれ師のSNSの写真は十四も好きなので、さっそく確認することにしたのだ。

 師——空却のSNSは風景写真が多い。
 交際相手の神——獄が口を酸っぱくして他人の顔が出た写真は載せるな、と言い含めた結果、面倒がって寺の写真や庭に咲いた花、よく遊びに来る猫が被写体として抜擢された。
 ほのぼのとした写真には一言が二言だけが添えられていて、それはやはり獄が余計なことを書くな、と散々に言って聞かせたからである。
 最後の投稿は、またきた、というたった一言に寺に顔を出しはじめた新入り猫の写真で、白地に黒ぶちの猫が庭の草木の間から顔を覗かせているのが愛らしい。
 被写体への親しみと愛情に満ちた眼差しがそのままカメラを通して切り取られたような空却の写真は、B.A.Tは知らないけれど猫が好きという一部の層にも人気がある。
 そういえば空却が獄を撮った写真はまだない。自分で撮るよりいいと、スタッフがいたらスタッフに、誰もいない場合は十四か獄に投げていた。
 猫や風景で感じた空却の眼差しが、恋人である獄に向いた時、一体どんな写真が撮れるのか——
 そんなの、気にならないわけがない。
 わくわくとしながら空却の投稿を探す途中、もしかしたら第三者がいて、その人が撮ったのかも知れない、と思い至るものの、どちらにしろ貴重なSNS更新には変わりがない。
 自分へ届くコメントやメッセージをかき分けてたどり着いた空却のアカウントを開くと、ぱ、と最新投稿が表示される。差し入れとしてもらったレモネードを一口含んだ直後、とんでもないものが目に飛び込んできた。
「……っ何やってるんすか空却さん……!」
 危うく吹き出しかけたレモンピール入りの甘酸っぱいドリンクをどうにか飲み込んでの第一声に、バンドメンバーがついに炎上か? と縁起でもないことを言う。
 炎上はしない。しない、けれども……。



「ンだよ、獄の言ってた山ってうちの山の隣近所のトコかよ」
「……全然近くないと思うが?」
「五時間歩きゃ着くんだから近いだろ」
「ごじ……いや、いい、お前に一般常識を求めるなんて愚行、俺はもうしない」
「思わぬ場所で会えたカワイイ恋人に言うことがそれかよ」
「熊注意なんて看板見た後じゃなきゃ俺だってもう少し感動した」
「獄、そこで止まれ」
「なんだ急に」
 怪訝そうに振り向く獄の顔が自分に向けられたスマホカメラに気づいて、悔しそうなのに楽しそうな変な形に歪む。
 ばか、と叫んで大きく口を開いた瞬間にボタンを押せば、ブレもなく綺麗に撮れていた。
 目当ての花は盛りを迎えていて、白い花が垂れ幕みたくしゃなりと咲いていた。棘に守られるように花開いた野花をいくらか撮った後、獣道の手前あたりにいた獄に会ったのだ。
 えすえむえすに投稿するのは花の写真のつもりだったけれど、たぶん、拙僧らのファンは花より団子だろう。
 ええかっこしいの男らしからぬ、どっちがガキだかわからない顔をお裾分け——もとい、見せびらかしてやる。
 カワイイ、カワイイ、拙僧のカレシを。

2025/5/16


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