毒を盛り髪を切り針で刺す

 待ちきれない、と、がなる子供をどうにか鎮めるために、綺麗なまるい額にくちづけたのがはじまりだった。
 中学生と付き合えるか、と断ってから数年。元々の素材を活かして立派に成長した子供が、すっかり大人と呼べるようになって、ようやく額ではなくくちびるにくちづけられる、となった日のことだ。
 見上げる上目遣いは期待に満ち満ちていて、くちづけの後でどうなってもいいように、と、ほんのりとした明るさにセッティングした寝室のベッドの上に大人しく転げていた。
「キスだけだぞ」
「わぁってるよ」
 セックスにはきちんとした知識と準備がいる。だから今日はキスと、せいぜいが昂ったモノを慰め合うだけ、と決めていた。
 こんな時でもまっすぐに見つめてくる視線が痛いほど刺さってまぶしくて、せめてもう少しだけ、夜明けのような虹彩の半分だけでも幕を下ろしてほしくてくちづける。
 ちゅ、と音を立ててまぶたにくちびるを落とすと、良い子にぱちりとまぶたを下げた。くすぐったそうな仕草は色っぽいというよりもかわいくて、ふ、と薄く笑ったら、ご機嫌ななめに眉を寄せる。
 どうせならもっと艶っぽい理由でしてほしくて、ぎゅ、と寄ったシワにちゅ、ちゅ、とくちづければ、ふにゃふにゃとほどけていった。素直で良い子の恋人がかわいくてかわいくて、笑いが溢れて止まらない。
 不思議そうに首を傾げるのも当然かわいくて、そのまま額へとくちびるを伸ばす。ちゅ、ちゅ、とわざと大きくリップ音を響かせると、白くすべすべとした肌がじわじわと熱を帯びて赤く染まった。
「はやく、シロよ……」
「キスならしてるだろ」
「くちにシロっていってんだよ!」
 痺れを切らした恋人を煽るため、ちゅ、ちゅ、とさらに派手に音を立てて、額へとくちづけを深くする。時折、舌先でくすぐってやったり、べろりと舐めてやれば、ひ、と息を飲んだ。かわいらしいことに、額どころか顔中、耳まで綺麗にまっかっかだ。
「いっつもしてるキスでこんなになってるのにか?」
「ふ、ぁ……?」
 何をされて、何が起きているかわからない——そう言いたげな眼差しは、最初の希望どおり、とろりととけてまぶたをひどく重たげにしている。
 重く吐き出す息についた疑問符は、"いつもしている"へだろう。それはそうだ。いつもはあんなキスしていない。同じ場所へ同じものを重ねている。言葉の意味だけなら同じで、内情はまるで違う。
 聞かん坊な子供にキスをしているという満足感を与えるためだけのものと、まっさらな恋人を自分好みに染め上げるためのキスが同じなわけがあるまい。
 額への優しく軽いキスに慣れきった恋人が、迷子のような目でこちらを見上げるのに、おとなげなくぞくぞくする。
 さて、このままくちびるを奪ったなら、何が目覚めるのだろうか。

2025/5/23


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