皐月乳繰猥談

 毎年五月末日は世界禁煙デーである。
 やべー葉っぱのおしゃぶりがやめらんねぇヤツのことは散々見てきたから止めないが今日一日くらいは我慢してもいいんじゃねぇの、という慈悲深い恋人の提案により、去年からこの一日だけは吸わないように努めている。
 去年は恋人が吸いたくなったらキスをしていい、と言うから、ほとんど一日中キスをしていたら大変不評だった。
 くちびるが痛いしキス以外のことまでした、とおかんむりだったが、触れるだけのキスでかわいらしくとろけて感じてしまったのは恋人である。
 それにくちびるが腫れてきたから別のところにキスをするようにしただけなのに、予定外に気持ちよくされたのが悔しいと怒られて心外なのはこちらの方だ。
 だから今年も禁煙するだろ、と持ちかけられた時は、去年のようにタバコの代わりにキスなどとは言い出さないと思っていた。



「ほい」
「待て、空却」
「ん? 拙僧はどっちでもいいんだが……」
「いや、どっちとかそっちとかこっちとかじゃなくてだな……」
「じゃあなんだ?」
「禁煙……なんだよな……?」

 週末の朝早くから訪ねてきた恋人は目覚めの一本も吸わせねぇからな、と玄関先でふんぞりかえっていて、たしかにちょうど眠気覚ましのコーヒーを用意しながら一本、と思っていたところだった。昔からこういうタイミングを完璧におさえてくるのに、信じはしないがスピリチュアルなものを感じなくもない。
 リビングへと招き入れた恋人はすでに済ませていると言うから、自分用に軽めの朝食とコーヒーを用意して今日の禁煙プランを頭を垂れてお伺いしてやる。
 身軽な恋人にしては珍しく大きな袋を持っていて、何かと思えば灼空さんからの差し入れという禁煙ガムやキャンディだという。禁煙やダイエット、ギャンブルといった事柄は檀家さんからの相談でも多いそうで、まずは少しずつ置き換えることから始めてみては、とのことだった。
 去年の浮かれたカップルの馬鹿丸出しな置き換えとはまるで違う、真摯な禁煙の提案が胸に響く。頭ごなしに禁じるのではなく無理なく進めていこうとする心遣いに、さすがに少しずつ本数を減らそうと決意した。
 思い返せば恋人も長生きしてほしい、と、いつになくかわいらしいことを言っていた。『家族』としては割と言ってくれるのだが『恋人』としてだとかわいらしい……というよりも頼もしく、力強いことが多い。一切の照れもなく「好きだ」「愛している」とは言うけれど、それは愛おしくともかわいらしいとは違う。
 ともあれどんな健康診断の結果よりも心を動かしたのは事実で、今日は一日吸わない、と腹を決めた直後——
 恋人がいつものスカジャンと作務衣を脱ぎ捨て、金太郎が着ているような前掛けの黒いものを纏っていた。
「……何着てんだ?」
「ん? ああ、腹掛けっつうの? めくりやすい方がいいから途中で切ってあっけど」
「……なんでだ……?」
「作務衣も前は開くけどよ、襟ンとこがびろびろに伸びんだよ。親父にだらしねえって怒られるし」
「……? なんでだ?」
「? 禁煙、すんだろ?」
「だからなんでそれでお前が着替えるんだ?」
「……? なんでって、煙草の代わりに吸うだろ?」
 乳首。
 そう言われて、そうそう禁煙するからには乳首だよな。準備してくれてありがとな。なんて言うヤツはイカれている。イカれていると思わないヤツがイカれている。たとえ世界中の俺以外の人間が俺をイカれていると言っても、禁煙するからといって代わりに恋人の乳首を吸うヤツはイカれていると俺は主張する。
「ほい」
 そんなこちらの戸惑いを知ってか知らずか、見てくれは極上だけれども頭のイカれ具合も極上の恋人が、臍の上あたりで切られた腹掛けをめくり上げ、乳首を御開帳してくれた。
 季節外れの雪原は鍛錬で引き締まっているのに、むちりといやらしい肉づきをしていて、ぽてりとふくれた乳輪はうっすら桃色なのに、ぷっくりとした先端にいくほど濃く染まっている。
 めくられる前から隆起した胸筋と勃起した乳首には気づいていたものの、両手を使って献上するような姿勢で見せつけられるとは思ってもいなかった。
 照れも恥じらいもなく『禁煙するからには当然、代わりに乳首を吸う』という真面目な顔の下で、これまで散々吸うにとどまらず揉みしだき、つねり、引っ張り、転がし、しごいて育てた乳首がぷるぷるぴくぴくとふるえている。
 禁煙するのに乳首を吸うヤツはイカれているし、禁煙するから乳首を吸うと思っているヤツもイカれているが、恋人に乳首を吸ってほしいと見せつけられて吸わないヤツもイカれている。
 なんなんだこの状況。かつて恋人が中王区に真正ヒプノシスマイクで洗脳された過去は聞いているし、馬鹿みたいなアダルトコンテンツみたいなことは考えたくないが……そういう悪い何かに洗脳でもされているんじゃないのか。
「待て、空却」
「ん? 拙僧はどっちでもいいんだが……」
「いや、どっちとかそっちとかこっちとかじゃなくてだな……」
「じゃあなんだ?」
「禁煙……なんだよな……?」
 恋人と二人きり。本来ならば素直に乳首を吸っても何をしても問題がない空間で、禁煙対策として乳首を吸うように求められて一人で混乱している。
 恋人が心の底から禁煙するために乳首を吸うように求めているのか、俺がイカれているのか恋人がイカれているのか、それとも二人ともイカれているのかが知りたくて、問いかけた。
「禁煙だぜ? 去年も言ったろ、うぃんうぃんってやつだよ。口と違って、乳首なら二つあるし」
 あっけらかんとした答えに、それ以上も以下もなかった。イカれていたのは恋人で、俺ではない。そして何かに毒されたわけでもなく恋人はただ天然無添加そのままにイカれているだけだった。
 さぁ好きなだけ吸え、と乳首を差し出されたのはまだ朝食の時間帯の白くやわらかな朝日が眩しいリビングで、どうして気軽にタバコ代わりに乳首を吸うことが出来ると思ったのかを問いて説き伏せるより、ベッドルームに連れ込んだ方が早い。
 服をめくりあげたままの恋人の手を引いて、ずんずんとベッドルームへとむかい、寝起きのままのベッドへと放り投げる。
 ぼす、と、くしゃくしゃのシーツに着地してなおよくわかっていないままの恋人に見上げられると、自分がイカれていると言われているような気分になった。
「……獄、ここで何すんだ?」
「禁煙以外、何もしねえが?」
 もっとも、気分だけだったが。

 おかしい。こんなはずではなかった。いったい何がどうなっている?
 寝室のベッドの上に転がされ、軽く覆い被さった恋人にあらためて腹掛けをまくって乳首を出せと言われた。
 去年のキスのように求められたらすぐにこたえられるようにと用意した服だったが、もしや据え置きでお楽しみするつもりなのだろうか。
 たしかに、乳首を吸われるとキスと同じかそれ以上に感じてしまうから、うっかり禁煙どころではなくなるのを避けたかったのかもしれない。
 でもそれでは本末転倒だ。あくまでも日常生活を送りながら禁煙をさせたい。
「獄、仕事とかすんじゃねぇの?」
「お前が来るってわかってて仕事なんざ持ちかえらねえよ」
 適当に映画観るか、ゲームをするつもりだった、と言われて、じゃあそうしよう、と起きあがろうとしたら止められた。
「? 映画かゲームじゃねぇの?」
「なんでお前とベッドにいるのにそんなことすんだよ」
「なんでって……禁煙すんじゃねえの?」
「やべー葉っぱの代わりにおしゃぶりさせてくれんだろ?」
 それ、と、転がされた拍子に隠れた乳首を指さされる。ぐしゃりと乱れた腹掛けでも、ぴん、と尖っている二箇所はよくわかってしまうのを今さら恥いることはない、が。
「……獄、正気か……?」
「なんで俺がお前に正気を疑われてんだよ!」
「そりゃ……拙僧は禁煙の協力として乳首を提供しに来たんであって、獄とセックスしに乳首持ってきたわけじゃねぇから……」
「恋人に禁煙させるためなら乳首を吸わせるけど、恋人とセックスするのに乳首を吸わせることは出来ねえって普通逆だし、意味がわからないからな? あと乳首持ってくるってなんだ。お前の乳首は着脱式か?」
 やれやれと言わんばかりの態度だが、やはりこいつは禁煙ではなくセックスをしようとしている。この恋人は一度ベッドに入ったら、ゴムやらローションやらの補充——それすらこちらがわざと数をいじらなければ完璧に管理している——以外で出て行くことはない。加えてセックスをしようがしまいが、ベッドの中でも外でも吸うことはない。
 セックスすれば煙草自体吸わなくなる。でもそれじゃあ日常生活での禁煙にならないだろうが。
「やっぱ禁煙じゃなくてセックスすんじゃねえか!」
「俺はセックスの最中に煙草を吸わないだろうが!」
「だからダメなんだろ」
「なんでだ? 禁煙になるだろ」
「セックス中はいつも吸わねぇんだから禁煙になんねーだろ! だからダメだ。セックスはしねぇ! 今日はケツも準備してねぇし、絶対ヤんねぇからな!」
 こんなこともあろうかと挿入だけは阻めるようにしておいた。カワイイカワイイ恋人を真綿で包んで愛玩したいタイプの男は、入念な下準備をしなければ絶対にコトに及ばない。 こちらが同意しなければ押し切ることも、無理矢理に準備をしようともしないから、禁煙からの逃げとしてセックスをすることは絶対にないのだ。
 恋人が自らの信念を曲げれば話は別だが、山より高く海より深いプライドの持ち主がそれをするのは生命がかかりでもしない限りは絶対にありえない。
 セックスへの道程は閉せたろうと、乱れたシーツと腹掛けをぐいぐいと伸ばしながら睨めつけると、しかめ面をしていた恋人に、一転して、ふ、と鼻で笑われた。
「……わかったよ。そんなに言うならお前の言うとおりの『禁煙』をしてやる」
 言うや否や、見慣れた降参顔をした恋人は覆い被さるのをやめ、ベッドから退いていく。
 納得したようには見えなかったのに、ずいぶんとあっさりとした引き際に首を傾げると、扉をわざわざ開けて出るように促された。
 妙な丁寧さが不気味で、真意の見えない目をじ、と見つめながら寝室を出て行く。少しして静かに戸が閉められ、恋人が後ろから着いてきた。
「ちゃんと役目を果たせよ」
「当たり前だろ」
 居間へと戻る短い間、交わしたのはそれだけで、呑気にも何度も同じ廊下を行き来するのが可笑しいと思っていた。

 ゲームだと二人プレイ中に吸いたくなったら一旦中断になるし、かといって一人プレイだと一方が手持ち無沙汰だから映画を観ることになった。
 中断させた朝食とコーヒーの残りを下げ、新しくつまむものだのを用意してテレビの前のソファに並んで座る。見慣れたサブスクのメニューから、ああだこうだと言い合いながら選ぶのは特別に言ったことはないけれど楽しい。
 リモコンを握って新作一覧を順ぐりに見ていくと、煙草を咥えた男が大写しのジャケットに当たった。ずいぶん渋いなと思っていると、古い作品を綺麗にしたものらしい。へえ、懐かしい、と隣でつぶやく声が聞こえた。
「これにすっか」
「いいのか?」
 お前の好みじゃないだろ、と言外に問われるものの、明らかに今日見た中で一番反応がいい。他に気になるものもないし、いい、と頷きながら、ロクにあらすじも読まずにそのまま再生ボタンを押す。
 すぐに再生がはじまり、最初のシーンからいきなり煙草の箱が映った。そしてジャケットを飾っていた男が登場するなり煙草を吸った。煙草の箱。それを一本取り出しジッポで火をつける男。焦点が煙草と男にだけ絞られていて、いつのどこでだれなのかわからないまま、ただ煙草を吸っている男が画面いっぱいに映っている。
「なんだこれ」
「やっぱりあらすじ観てなかったな。これは煙草を吸う男へのフェチを拗らせた監督が、ヘビースモーカーの男の日常をテーマに撮影した怪作なんだよ。だから煙草を吸う瞬間は煙草と男しか映らないし、音もジッポーで火をつけたり呼吸だったり、煙草を吸うのに必要な音しかしなかったろ」
「……変態映画か?」
「ある種の変態が撮影した映画なのは間違いないが、酒の席では氷がグラスにぶつかる音が入ったり、寒空の下では空気が上へと伸びる様子を引きで映したり……絶妙に吸いたくなる、そそられる演出が多くてな。劇場で観て耐久を強いられた喫煙者が続出した伝説の作品でもある」
「なぁるほど、今の獄にうってつけってワケか」
 画面の中の男はどうやら起き抜けの一本——自分が今日まさに恋人から奪ったもの——を吸っていたらしく、寝起きのぼんやりとした顔が全く覚醒するそぶりもなく、それでも起きねば、と自らを鼓舞するように灰皿に短くなった煙草を押しつけ、憂鬱そうに煙を吐き出した。
「獄もこんなんなるはずだったってことか」
「俺はコーヒーも飲んでるからこいつより寝覚めがいい。それより空却、仕事だ」
「仕事?」
「忘れるなよ……俺が煙草吸いたくなったら乳首吸わせてくれるんだろ?」
 画面の中の男は嫌々と身支度をはじめ、一応俳優だから見てくれは悪くないが、覇気のないままパンを齧り、時計を確認すると食後と、おそらく出勤前の一本を、それはそれは美味そうに吸って、家を出ていく。
 短い時間の間にあっという間に二本目が吸われ、そういえば獄もこんな感じでスッパスパ吸うな、と思い出していたところだった。
「早くねぇ? まだ開始五分くらいだぞ」
「ばあか、お前が来たのが六時、今は九時。映画のこいつは起き抜け数分だが、俺は目覚めてから約三時間禁煙してる」
「一日のうちの八分の一ぽっちで禁煙したって名乗れんのか……? やっぱやべー葉っぱじゃねえか」
「いいから乳首を出せ」
 あんまりな乳首強盗発言に麻薬と同じに煙草も取り締まった方がいいんじゃねえかとハマの警官が頭をよぎる。言い出しっぺは自分だから腹掛けをめくるも、強盗じみた言い草だけはなんとかしろ、と訴えた。
「じゃあ名前を呼んでからキスをする」
「まどろっこしいだろ、名前呼ぶだけでいいぜ」
「いや、キスもする」
 名前を呼んだら乳首を出すのが習慣になったらどうする、と真剣な顔をされて、そんな馬鹿なことあるわけないだろうと言ったが恋人は頑として譲らない。
「空却」
「ん」
 めんどくさい、と思いながら呼びかけに応じると、頬に触れるだけのくちづけが落とされる。今回は先にめくっていた腹掛けは、以降はくちづけの後にめくるように厳命された。
 頬へのくちづけは、映画の男と同じにヘビースモーカーの恋人の昨年の反省を活かしてのことだろう。一ヶ所に集中しないよう、頬から顎へ、なぞるようにくちづけられた。
 映画の中の男は恋人の嫌う公共交通機関に鮨詰め状態で通勤し、いっそうくたびれた様子で出勤し、その足で真っ先に喫煙所へと向かっていく。手にはもう煙草とジッポが握られていて、堪え性がなさすぎて笑ってしまった。
「ん……っ」
 それを咎めてか、ちゅ、と乳首にきつく吸いつかれる。軽く勃ってはいたものの、生あたたかく肉厚な、しめった舌で唾液をからませて吸いしごかれると、簡単に硬く尖ってしまった。
 つられて吸われていない乳首もぴくん、とうずき、恋人に快感を教え込まれた身体はすぐに熱を帯びていく。
 画面は観えないけれどジッポの音と空気を吸って吐く音がしたから、きっとさっきの続きだろう。
 画面の中の男が息を深く吸うと、合わせてちゅぅぅぅ……と長く乳首を吸われ、ソファに触れた場所が汗ばんでいく。画面の中で男が煙を吐けば、乳首もちゅぽ、と解放され、両手でまくった腹掛けが恋人の顔に被さってしまった。
「まんぞく、したか……?」
「かがむとキツいな」
 だからソファに正座してくれ、といたく真剣な顔で続けられる。人の乳首をしゃぶっておいてごちそうさまもありがとうもないのかこいつ。
「おっまえなぁ……! ひとのちくびすっといて、かがむときついってなんだよ!」
「なんだ急に。いいだろ気持ち良かったんだから」
 そりゃあ気持ち良かった。なんてったって乳首で感じるようにしたのは恋人で、その恋人にちゅうちゅうと吸われて気持ち良くならないわけがない。でも気持ち良かったからなんだ。
「せっそうのちくびにたいするけいいがたりねぇっ!」
「腰が砕けて動けないならそう言え。舌も回ってないみたいだしな」
「こんの……っ、もうちくびすうな!」
「さっき役目を果たすって言ったのに? ありゃ嘘だったのか?」
「うそじゃねぇけど……っ」
 人の乳首を吸う態度がなっていない、と続けたかったけれど、それは出来なかった。恋人が再び乳首をしゃぶり、今度は空いた方の乳首を指でこねくりまわしはじめたのだ。
 さっきも吸われていた乳首をまた口の中に閉じ込められ、ぢゅぅぅぅぅ……っといっそうきつく吸いつかれる。敏感になった乳首をさきっぽから根本まで搾るように締めつけられ、舌で丁寧にしごかれると腰がじんわりと熱く、重くなって、ゆらゆらと揺れてしまう。散々暴かれた尻も穴のふちから奥の奥までひくついて、今日はしないと宣言したはずの行為を恋しがった。
 指でこねくり回されている方はしゃぶられている方に動きを合わせ、吸われている時は指先で引っ張られ、しごかれたらさきっぽへとしゅ、しゅ、と擦られる。舌で、指で、乳首を弄ばれて、腹の中がぐずぐずとうずいて止まらない。下着はとっくに我慢汁でびしょびしょで、尻をもじもじとさせてしまう。
「ぅ、ふうぅぅ……っ」
 声を出さないようにこらえても、噛み殺した唸りさえも感じまくっているのが隠せていない。射精も尻での絶頂もしていないけれど、ずっと甘イキをし続けている体は全身がどくどくとうるさくなっている。
 乳首を吸われているだけなのに体はもう完全にセックスする気満々で、何も無いのに腰を振り、そのわずかな摩擦でどうにかイこうとする浅ましさにすら興奮してしまう。
「ふ、ぅ……ぅ、う……っ」
 どうにか腹掛けを握って踏ん張っていたものの、いよいよ揺れて止まらぬ腰が支えきれなくなってきた。
 かがむとキツいと言ったクセに、ちゅっちゅちゅぱちゅぱぐにぐにころころと乳首を弄ぶ恋人もわかっているのだろう。
 ぐらぐらとする腰にそっと手が回され、腹掛けを持つ手が髪のセットを崩すようにもたれかかっても愛撫の手は止まない。
「ぅ、ゃぁ……っ、ゃ、ぅ……も、ゃぁ……っ」
 ぐずぐずになった腰をときおりさすられ、たまった熱を逃すために突き出した尻もあやすように軽く叩かれる。そんな穏やかでゆるやかな刺激すらたまらなくて、びくびくと跳ねた後の下着の中はバケツをひっくり返した有様になってしまう。
「……よくもこんなやらしい乳首、煙草の代わりに吸えなんて言えたよ」
「ひ、ぁ……っ、ぁ、ふぁぁぁぁ……」
 つぽん、と熱くぬめる口内から乳首を吐き出されるのすら痺れるほど気持ち良くて、何十度目かの乳首での甘イキに腰と尻への慰撫が加わると、いっそう突き出したそこを、そのまま恋人の手のひらへと擦りつけて、浅ましくもっと、もっと、と無意識にねだっていた。
 本当に、ただ、一つしかないくちびるより良いと思っただけだった。
 乳首は二つあるし、どんな時でもプライドが高くええかっこしいの恋人なら、禁煙のために乳首を吸うなんてしたがらず、父親の差し入れの飴だのをしゃぶると思っていた。
 ベッドに連れて行かれ、セックス——となりかけた時は信じられない反面、予想以上に恋人が乗ってきてどうしようかと混乱した。
 そして今、映画を観ながら乳首を吸われている。
「俺は『吸い終わった』から、乳首しまっていいぞ」
「ん……っ」
 胸元から抜け出し、腰やら尻やらからも手を離した恋人は、ふぅ、と本当に一本吸い終えたときと同じ仕草をして元の席に着いた。
 そうされたらこちらも乳首をしまうしかない。
 腹掛けを下げ、言われた通りに正座をするも、散々吸われてしごかれた乳首は腹掛けを押し上げてしまうし、ひくつく腰と尻を叱咤してもはしたなく突き出しがちな姿勢は直りきらなかった。
 久しぶりに観た画面の中の男は、何かをしでかしたのか真夜中と言ってもいい時間なのに一人で職場に残り、作業をしている。やがてひと段落ついたのか、くたびれた雰囲気が増しているのに目だけはらんらんとさせた男が、力強い足取りで喫煙所に向かっていった。
 恋人もよく仕事が煮詰まると煙草を吸っている。灰皿の許容範囲を遥かに超えた首塚めいた物体を片付けて、さすがにゾッとしたのがキスだの乳首だのの発端だと、おそらく当人は知らない。
 画面の中でジッポの火が着いた。
 暗闇に灯る希望に似た光を、恋人も何度となく見たのだろうか。
「空却」
 おセンチにひたる間も無く、恋人からお声がかかる。
 横を向くとすぐにくちびるにキスをされたから、腹掛けをめくり上げれば、両方の乳首をくりゅ、と摘んで引っ張られた。
「んっ……ふ、ぅ……んっ、んぅ……っ」
 キスからはすぐに解放されたものの、乳首はしゃぶられず、ずっと手でいじられている。
 手のひらで胸をわし掴み、指の股で乳首を挟む。揉みながらしごく愛撫はセックスを思い出させ、おねだりに揺れる腰が止められないまま、突き出した尻が甘く達してふるえた。
 じわぁ……とこれ以上なくぐっしょりとした下着の中をさらに重たくさせて、なお射精も深イキもしていない。
「ふぁ……」
 くちびるを離されたから、物足りなさを隠せない甘ったるい声が静かな部屋に響いた。
 もっとも完勃ちした乳首とおねだり腰でとっくに感じまくっているのはバレバレだけれど。
「……やっぱ、禁煙にかこつけて乳首でイキたいだけじゃないか?」
「ちぁぅ……っ、ほんとに、ひとゃが、しんぱぃりゃかりゃ……っ」
 訝しげな顔のまま、胸を揉まれ、乳首をこねる手は止められない。下から持ち上げた胸筋を手のひらでたぷたぷと揺らされ、挟んだ乳首をきゅぅ、と潰される。
「ふ、ぅぅうぅっ、ん……っ」
「本当かあ……?」
「ほ、んろ……っ、ほんろ、にぃ……」
 痛いくらい潰された乳首を今度は優しく撫でられ、先っぽのくぼみを爪先でこしょこしょとほじくられた。揺さぶられたままの胸筋ごと、恋人の手のひらに押しつけるように前のめりになっているから、説得力がないのかもしれない。
「ふうん……」
「ひぁっ……、ぁ、ぅあ……」
 あからさまな疑いの眼差しを向けられたまま、乳首にぢゅ、と吸いつかれた。胸筋を持ち上げる手はそのままに、さっきまで爪先でほじくられていたくぼみを、今度は舌でぐりゅぐりゅとこそげられる。
 硬く尖った乳首の中のやわなすぼまりへの刺激は、尻の奥深くやちんこの先っぽにされるのに似ていて、ほんの少し撫でられただけなのに泣き出しそうなほど気持ち良い。
 乳首は片方が吸われ、ほじられ、甘噛みされる間、指でしごかれ、ほじられ、潰される。互いに互いをなぞるように愛撫される内、だんだんと二人に増えた恋人に両方の乳首を吸われているような錯覚を抱いて、そんなわけない、と思いながら腹掛けごと恋人の頭に両手で縋り、胸を突き出してねだってしまう。
「ふぁ……っ、あっ、ぁ、ぁあぁぁ……っ」
 馬鹿な思い込みはどんどん加速して、乳首を愛撫される内、だんだんと似ている、と感じた尻の奥、ちんこの先っぽもひどくうずき出し、腰と尻も激しく揺さぶりはじめてしまった。
 ちんぽを思い出してぎゅうぎゅうと尻奥を締めつけ、ちんこの先っぽはぬとぬとになった下着へと擦りつける。足りない分は、快感で馬鹿になった頭が乳首への刺激をそうだと刷り込んで、いつしか頭の中では何人もの恋人に抱かれていることになっていた。
「ひとゃ……っ、ひぉ、ゃぁ……っ! ゃ、あっ、ぁ、ふぁっ……ぃく……っ、ぃくぅぅうぅぅ……っ」
 両乳首とちんこと尻——本当に触れられているのは乳首だけなのに、目の前の恋人に全身愛撫されている、という想像で絶頂してしまう。
 いく、と、なき喘いだ瞬間、びん、と硬く勃起した乳首を歯と指で甘噛みされ、快感でのけ反り、背を引いたせいで、伸びた乳首がびぃん……っとふるえる。前のめりに下着へと突き立てたちんこは、完全に勃ち上がったまま後ろに引くことで先っぽと裏筋をしごかれ、我慢汁ではない、重く煮詰まった精子を吹き出した。尻などはもうほとんど全くの想像で、脳と体に刻まれた恋人の逸物を思い出し、乳首とちんこへの刺激を重ねながら中を締めつけ続け、未だに腹の奥と浅瀬のしこりがひくん、ひくん……っと達した悦びに脈打っている。
「ひ、ぉゃぁ……」
 ちくびはなしぇ、と、乳首をしゃぶったまま離してくれない恋人の頭を、腹掛けごとぐしゃぐしゃに抱きしめて解放を訴えるも、返事は指と口の両方での乳首責めだった。
「ゃぅぅぅううぅぅっ……!」
 イったばかりの乳首全体を包みしごかれ、それでびくびくと感じるのだって恥ずかしいのに、体が勝手に我慢汁と精液でぬとぬとの下着にちんこを擦りつけてオナニーしてしまうのも、乳首とちんこの快感を勝手に尻の中の性感帯と結びつけて締めつけオナニーしてしまうのも恥ずかしい。
 なにより、こんな姿を恋人に見られるのが恥ずかしくてたまらない、と思うのに、みっともない乳首イキオナニーを見られていることにも感じまくってしまうのが恥ずかしい。
 乳首を愛撫されながら、口先ばかりいや、やだ、と言いつのり、下着の中に種付をして、挿入ってもいないちんぽを想像しながらイく——嫌なのに、恥ずかしいのに、ドキドキとして、またイッてしまう。
「あ、あっ、やっ! ゃあ……っ! ぃくっ、まひゃ、ぃくぅっ……」
 ぐん、と突き立てた下着の中にびゅ、びゅぅぅ……っと二度目の射精をして、締めつけ絶頂から解放された尻がぶるぶるとふるえる。硬くしこった乳首もさすがに口と指から離してもらえた。
「……俺の禁煙より、お前が禁欲をした方がいいんじゃないか?」
 そうして腹掛けの下から出てきた恋人に、服をまくり上げた下のふくれた乳首、ぐっしょりと濡れた股間とぴくぴくとふるえる尻というどこから見てもいやらしい姿ををじっくりと眺められた後、言われるセリフとしてはたいがい失礼だと思う。
「ひとのちくび、さんざんうまそうにしゃぶってたくせに……」
「お前だって散々気持ち良さそう〜にイキまくってたろ」
 こちらの抗議に対し、いかにも遺憾そうにじぃ、と視線で全身を撫でられ、イッたばかりの体がざわりと泡立つ。
「……っゃらしぃめ、すんな!」
「言いがかり……じゃないな。俺がやらしくしたんだから」
「はぁ!?」
「これに懲りたら二度と乳首吸え、だの、乳揉むか、だの、絶ッ対に言うんじゃねえぞ」
 思わぬ語気の荒さに気圧されていると、原因が目の前にあることに気がついた。
 自分がイキまくっていたからわからなかったが、恋人の股間もだいぶ窮屈そうにテントを張っていたのだ。
 なるほど、この剣幕も理解出来る。
「ひとや」
「なんだ、映画なら終わったぞ」
「そうじゃねぇ。……きょう、せっくすはできねぇけど」
 くちとかすまたとか、と言う途中で頭を抱えられた。盛大なため息を吐き出す姿は、股間を腫らした男が恋人に誘われてしていい顔ではない。
「そのかおなんだよ!」
「うるさい。さっき言ったばっかなのに口だの素股だの馬鹿言いやがって」
「……ぱいずり」
「……っ、そんな言うほどないだろ……」
 あ、こいつパイズリされたいんだ。たぶん散々乳首いじったのにパイズリじゃなくて口とか素股とか言ったからため息ついたんだ。むっつりすけべだ。
「そりゃねーちゃんどもみてぇにはねぇけど、ひとやがいーっぱい、しゃぶってくれたちくび……ちんぽともなかよくできるとおもうぜ……?」
 乳首を見せつける格好のまま上下に体を揺さぶると、ゆさ、ぷる、と胸と乳首も揺れる。
「……なぁ、せっそぉ、ちくびにひとやのちんぽじるびゅぅ〜ってされたい……」
 ご機嫌ナナメを装いながら、しっかりと胸と乳首を見ていた恋人をトドメとばかりに煽ると、ちぃ、と聞き慣れた金属音がした。
 わざと素知らぬフリをしていると、す、と立ち上がった恋人に頬をはたかれる。
「ふぁ……」
「……ちんぽでビンタされてやらしい声出すな」
「じゃあ、そのちんぽでふさいだらいいだろ?」
 頬に当たる、熱く、硬く、太いちんぽに、ぐりぐりと先走りを擦りつけられ、腰がずくん、と重たくなる。
 いつも、このちんぽに奥深くまで暴かれていると思い出すだけで、セックスの時のように激しく腰が揺れてしまう。
「自分でセックスしないって言っといて……ちんぽ見たら恥ずかしいくらい媚びた腰振りするじゃねえか」
「らてぇ……っ、ぁ、んん……っ!」
 張りつめたちんぽを自分がされたみたいにしゃぶってイカせてやりたいのに、出来上がってしまった体はセックスをなぞってちんこを擦り、ずっしりと重たくなった下着に三度目の射精をしてしまった。
 こんなことならセックスの準備をしてくれば良かった、なんて後悔してもどうにもならない。
「人のちんぽでオナニーすんじゃねえよ……」
「ぁ、ふぁ……」
「ったく、しょうがねえなあ……」
 何十度の甘イキと三度の射精でうだった頭でもわかる、そう満更でもない声の恋人がテレビの電源を切ると、そのまま体をソファへと押し倒された。
 見上げた先、やれやれだとか、しょうがないだとか言う口ぶりの割に、恋人はひどく悪い顔をしている。
 バレバレの演技で戸惑った顔をしていると、顔面近くに跨るようにして、完全に勃起したちんぽを突きつけられた。
「散々、俺でオナニーしたんだ……俺のオナニーにも付き合ってくれるよな?」
 有無を言わさぬ口調に、もちろん否と言う気は毛頭ない。
 返事の代わりにちゅ、とちんぽにくちづければ、下着の中が可愛いくなるくらい、頭のてっぺんから爪先まで、ぐっしょりと濡らされてしまった。



「まぁた禁煙失敗だな」
「一日もったろ」
「拙僧とやらしいことしてる間しか禁煙出来ねぇの恥ずかしくねぇ?」
「馬鹿言え、法廷でもDRBでも吸ってないだろ」
「そういうことじゃねえんだよなぁ……」

2025/5/31


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