ハッピー生き恥メモリアル
空却が二十歳になり、ついにセックスする、となった時、ベッドポジションでは存外に揉めなかった。
どうしても挿入れたいわけではないし、挿入される側に負担がかかるなら若い自分の方がいいだろう、もし挿入されたいなら任せろ、と言うから、挿入させてほしい、と若干食い気味に頼んだのは記憶に新しい。
しかしセックスは挿入が全てではない。挿入までの手間を考えたら、愛撫しあうだけでも十分に満たされるはずだ。
もし自分を気遣っているなら無理しなくていい、と割と乗り気な恋人に告げると、拙僧は尻でイク感覚に興味がある、と予想の斜め上の答えが返ってきた。
曰く、本当に尻でヨクなるのか疑問で、一度指を一本入れてみたらしいがひたすら異物感があっただけ。
判定し難い経験談に頭を抱えていると、恋人はアマグニセンセのテクに期待してるぜ、と人をセックス技能士のように宣ったのだった。
尻の中は臓器——グロテスクだが、事実だからどうしようもない。
とっととヤんぞ、と言うガキに自分の指一本すらみちみちのガキの尻穴を即座にイケるようになんて出来ない、と説き伏せて手順を説明した。
くり返すが尻の穴は臓器、排泄器官である。グロテスクだが、事実だからどうしようもない。
出来るだけ直接的な表現を避けたのに、クソガキ根性の抜けない恋人はウンコ汚ねぇもんな、で全てをまとめた。最悪だった。
けれども説明の甲斐あって、すぐにセックス出来ない理由はわかってくれたし、協力してくれるという約束にもこぎつけられた。
その日はキスと抜き合いだけで別れたが、恋人の最後の言葉は思い出してもどきりとする。
「お、獄。拙僧、準備してきたぞ!」
「おー……」
仕事の後に会う約束をしたはずの恋人が事務所に押しかけてきての第一声がそれだ。
準備してきた、って言ったらセックスしようってことで、と笑った恋人は、日々何かを企んでいるから、職員にも今度は何をするんですか、なんて聞かれている。
違う。違うのだ。今日のそいつは俺とセックスをするのだ。
もっともセックスと言っても挿入するのではなく、挿入のための準備で、穴自体は広がってきたものの、恋人が気持ち良さがわからないと首を傾げるから良いところを探している真っ最中だった。
修行や鍛錬などの自己研鑽を怠らない恋人だが、尻の穴は臓器、何もせず指を入れるな、と言い聞かせたせいか、自分で触ることに躊躇いがあるらしい。
とは言え下準備の洗浄はどんどん手慣れているから、何か玩具でも与えようか考えていた。
悶々としたままパソコンを切り、来客用ソファに転げる恋人に声をかけて事務所を出る。
隣で楽しそうに跳ねる恋人が抱かれる準備が万端など、誰も知らない。
帰宅早々、ドアを閉めるなりキスをされた。
重ねるだけでない、間抜けに開いたこちらの口の隙間に舌をねじ込み、ぬちぬち、くちくちと音を立てる。
未だ交わらない尻の代わりのような深いくちづけは、ずいぶんと達者になった。
上顎を撫で回すのと、舌を絡めて締めつけられるのが好きな恋人は、一生懸命に舌を動かしてこちらにもそれをする。俺が舌先の方が好きなのはまだバレていないようだ。
気持ち良くないわけじゃないが、覚えたてのキスをしたがるのがかわいい。最初は開けていた目がだんだんととろんととけて、ついには閉じ切ってしまったのもかわいい。そのかわいさがキスでの快感を上回り、キスに疲れた恋人が半開きの口の端から涎を垂らす方がキスそのものより逸物に効く。
「……勃ってる……」
密着した状態だから互いの身体のことはよくわかる。キスをしながらとろとろととろけた恋人は、こちらに縋りつきながら若茎をふくらませ、ゆるゆると腰を振っていた。
俺は恋人の教えてもらったことをやりたがる子供の仕草で勃起しているのだが、おそらく恋人は自分の仕掛けたキスで勃ったと思っている。かわいい勘違いをわざわざ教える無粋などはしない。いずれわかることだ。
「獄……、拙僧」
「準備してきたんだろ」
「……あんま嬉しくねぇ?」
「なんでだ」
「最初に会った時から反応が鈍いから」
「職場で恋人に大声でセックスに誘われてどう反応したらいいんだよ」
「そんなん、拙僧らにしかわかんねぇのに」
「だとしても、だ」
覚えたて、知りたてでやってみたい盛りの恋人は、自分ばかりが先走っているようで不安らしい。
これも歳の差の弊害か。なにせ一緒に手探りしていくというよりは、育てる喜びの方が近い。
さっきのキスももっと乗ってやれればよかったが、一生懸命に口を動かす恋人があまりにもかわいくてそれどころではなかった。
「空却、俺のちんぽはどうなってる?」
「へ、そりゃ、ガッチガチに……」
「勃起してんだろ? お前が、俺のために準備して、キスしてくれたからだよ」
「そいつはどーも……」
「誰が嬉しくないって?」
「……むっつりすけべ」
そのむっつりすけべが大好きで、抱かれるための準備をして、キスまで仕掛けたくせによく言う。
解けていい誤解が解けたのを確認して靴を脱ごうとすると、恋人に待ったをかけられた。
「ここでしたい」
「は? 待て、せめてゴムとローションくらい……」
「拙僧が、持ってるから……」
俯き、目を反らしながらポケットを漁る恋人が、見たこともないゴムとローションを取り出す。よくよく見れば試供品、と書かれたそれに、隠された恋人の目を追うと、はく、と開いた口から信じられない言葉が飛び出した。
「尻用の、オモチャ……買ったら、ついてきたヤツ……」
そんで、オモチャは尻に入ってる、と、かわいいかわいい恋人に続けられて、平静を保てるなんてことはあるだろうか。少なくとも、俺には無理だった。
「だから玄関でキスしたのか」
尻に入ったオモチャが気持ち良くて、ベッドまで我慢出来ないから——
責めるというよりは事実確認をして擦り合わせるような声で、持っていたゴムとローションを奪われ、下着ごとパンツを下ろされた。
買ったのは初心者向けだという小さい俵型のオモチャで、本体からコードが伸びている。うっかり奥まで入っても取り出しやすい、と聞いてゾッとした。
広がりはしているものの、正直奥などまだ考えられない。気持ちいいとも思えないのに、取り出せなくなるほどの、奥。いつかはそこまで恋人のちんぽが入るのだと思うとゾワゾワするが、それがどういう気持ちと感覚かもわからない。
ともかく、オモチャ本体を全て尻に入れて、コードは足に絡めて怪我用テープで止めた。はじめは違和感があったけれど、気づけばだんだん馴染んでいき、全く気にならなくなっていた。恋人と、会うまでは。
恋人と会ってからはもう、ずっと落ち着かない。恋人とセックスするために、下準備どころかオモチャを入れて、街を歩いて、人に会って、なんて、ものすごく変態のシタいヤツみたいで恥ずかしくなってきた。
事務所では大人しくしていたけれど、恋人はいつもどおり落ち着いたままで、自分ばかりがオモチャなんか入れてきて、期待してしまったようでいっそう恥ずかしい。帰り道の車の中も、恋人の腕と車の性能でほとんど揺れないから余計にわずかな振動が気になってたまらない。
我慢ならなくなってキスをしたのに、恋人ときたらまるで響いた様子もないのもまた我慢ならない。自分ばっかり盛り上がって、気持ち良くなっている。教わったとおりのキスしか出来ないからか、気分じゃないのか。
がむしゃらなキスを終える頃、恋人も勃起していたからつい安心して声に出したら、表情を変えないままびく、とちんぽが反応していた。こいつ、むっつりすけべだ。
どうやらやる気はあるらしい、と問いかけると、ほんの少しだけ焦った顔で堂々むっつりすけべ宣言をするものだから、気が抜けた。気が抜けたら、もう、いよいよ我慢なんて出来なくなって——
買ってから一度だけ電源を入れたオモチャは、ブィィ、とサイズに見合わぬ音と激しい揺れをするからすぐ止めてしまった。
こんなもの、本当に自分の尻の中に入れて動かすのか? と自問自答しながら、結局尻に入れたものの、動かすことはしなかったオモチャが、今、尻の中でぶるぶるとふるえている。
「ひ、ぅ……っ、ふぃ……」
玄関扉に寄りかかり、出来るだけ尻の穴が見えるように腰を突き出すと、開いた足の間にかがんだ恋人が入り込んだ。
ぶるぶるとふるえるオモチャのせいなのか、尻がいつもと違う。なんとなく触られていると感じるだけで気持ち良いとは言えないのに、今日はむずむずとこそばゆい。ちんこもおかしくなっていて、ぶるぶるとゆさぶられるたび、どんどん硬くなっていく。
「お前なあ……こんなやらしい格好で人の職場来てたのかよ」
「やらしく、ねぇ……っ、はいってたの……わすれてた、し……」
「ふうん……じゃあ中でぶるぶるしてんのがイイのか?」
「わかんね……っ、でも、へん……っ、なんか、へ、んっ」
足ガクガクじゃねえか、と笑う恋人の顔は見えないけれど、声はひどく楽しそうにはずんでいる。
紐を引っ張られると、少しだけ中でオモチャがズレて当たる場所が変わり、それにも声が上擦ってしまう。中がむずむずとして、どくどくと騒がしい。ちんこもおんなじで、爆発しそうに熱いのにくすぶったまま終わらない。これが気持ち良いということなのか。わからない。
「ちんこも萎えてねえしなあ……振動が上手いこと届いてんのか?」
「わか、ね、けどぉっ……! しり、も、いつもと、ちぁうぅ……っ」
寄りかかった背中がずり落ちるのをこらえながら足を踏ん張ると、尻の穴がくぱ、と開いてオモチャがぬる、と下に引かれてしまう。それを見逃さなかった恋人に、ちんこときんたまを撫でさすられ、ズレたオモチャを深々と押し込められた。
もうわけがわからない。体を支えようと力むと尻とちんこがおかしくて、尻とちんこをこらえようとすると体がくずれ落ちる。どうしていいかわからないまま、恋人が押し込んだオモチャに揺さぶられた。
「ふ、あうぅぅぅ……っ」
「なあ空却、気持ち良くねえのか?」
「わ、かね……ぇ……っ、しり、も……っ、ち、んこも、へんっ……」
「たぶん、それは気持ち良いんだよなあ……」
「わか、ねぇ……っ、わかん、ね、からぁ……っ!」
「しょうがねえなあ……」
「ひ、ぃっ!」
休む間もなく、今度は押し込められたオモチャを引き抜かれ、代わりにじゅぶん! と恋人の指が入りこむ。
いつの間に用意したのかコンドームをまとい、ローションをまぶされた指がオモチャでかき回された尻の中で暴れて回る。
まだオモチャの振動の名残でびくびくとしているそこを容赦なくほじられ、のけ反り、指をぎゅう……っと締めつけてしまう。
それが何かのヒントになったのか、恋人が指を腹側へと向けてごりゅりゅ、と動かした。
途端、ずっとむずむずとして、こそばゆい、よくわからなかった感覚が、『快感』として襲いかかる。
「ひ、あっ! あ! ゃあぁぁっ……!」
わかった。いま。いまわかった。これがきもちいい、だ。 のけ反ったまま、突っ張った足ががくがくぶるぶるふるえるのを無理矢理に床に突き立てる。そうやって他に力が入るほど尻から力が抜けて、腹をほじられて、それが気持ち良くて尻が締まる。ちんこも射精したい、とのたうち回っているのに、一向に何も出せないままでいる。
どこからも力が抜けなくて、今すぐどこもかしこも力が抜けそうで、気持ち良くて、気持ち良くて、頭がおかしくなりそうで。
「空却、支えてやるから。尻に集中しな」
「ふ、ぁ……?」
「足しんどいままだとイけないだろ?」
「ひぉゃ……」
だからもうイっていい、イけ、と言われて、自然と力が抜けた。
ずっと踏ん張っていた足ががくん、とくずれ落ちて、のけ反って戸に寄りかかったままずり落ちる。
恋人が空いた手で腰を支えてくれたからゆっくりと落ちたものの、尻の中はずっとごりゅ、ぐりゅ、と刺激されていた。
「ひぉや、て、て、とめれ……っ、しり、へん、きもちぃ、くて、へん、らから……!」
「だから気にせずイけって……ちんこもずっとぶるぶるしてるし」
尻だけでどうにかなりそうなのに、恋人が顔のすぐそばにあるちんこへ、ふう、と息を吹きかける。それだけでさきっぽがくぱくぱとして、きんたまがぐん、と迫り上がった。
同時に尻も散々ぐりぐりとこねまわされた所を宥めるように優しく撫でると、一際強くごりゅん! と指を突き立てられたのだ。
「ひぉゃ! や! ゃぁっ! ゃぁあぁぁあぁぁっ!」
力まなくてよくなった足の分、尻の快感を貪るように仕向けられた体は、与えられる刺激の全てを素直に受け入れ、絶頂を迎えてしまう。
ぎゅぅぅぅ……っときつく指を食い締めながら、ばちばちと目の裏側が弾けるような錯覚をして、硬く張りつめたちんこからぴゅる、ぴゅぅ……と弱々しい射精をする絶頂は初めてで、またよくわからなくなる。
ただ、くり返し指を締めつけて、達した瞬間を再現するために気持ち良いと教えられた場所をほじる体は、完全に尻での快感を刻み込まれたのだと、うだる頭でもわかった。
「良かったなあ、尻でイけて」
「しり……」
「そうだよ。尻でイッたからちんこからちょろちょろしか射精しなかったんだよ」
これからはそうやってイく方が多くなる、と小さくつぶやくのを聞かなかったふりをして、へぇ、とだけ返す。
お互いにだいたい落ち着いた頃合いで指を抜かれて、少しだけ床に転がると、さすがに土間はまずい、と、あがりかまちに運ばれた。
「……玄関で初ケツイキ……」
「言っとくが俺はベッドに行こうとしたからな」
「責めてねぇよ。……ちょっと、これから出入りするたびにここでケツイキしたんだな……って思うだけで」
「お前なあ……俺なんかここに住んでんだぞ!?」
「良かったな、毎日を拙僧のやらしい思い出と共にあれて」
「……そりゃ、悪くないけどなあ……」
「……マジか?」
そして嘘をついてどうする、俺の愛を舐めるな、とよくわからない開き直りをした恋人に、風呂場に連行されてまた一悶着あるのだが——それは言わないでおく。
2025/6/10
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