二度寝の王国

 ツンと尖ったツリ目、触ると存外にやわらかい髪、くるくると飛んで跳ねる仕草、人懐こいが媚びない姿勢——全てが近所のアイドル地域猫を思い出させる恋人は、久しぶりの過ごしやすい気温を堪能している。

「暑ィとなんもしたくねぇからなぁ……」
「今もなんもしとらんだろうが」
 冷房をつけずとも涼しい風が通り、爽やかな、少しばかり肌寒いくらいの空気がリビングに漂っている。かつての夏の朝はこんなではなかったろうか。
 ダイニングテーブルで軽い朝食をすませながら、足元でごろごろと転がる猫、もとい恋人——空却に視線をやる。
 昨晩から滞在している空却は、冷感クッションでは寒すぎる、と、ブランケットを引きずり出して巻きつけると、ちょうど良くなったらしい。少し大きめのクッションに抱きつくようにして丸くなっている。
「ばぁか、英気を養ってんだよ。どうせまたすぅぐ暑くなんだから」
「そりゃあ今は夏だからな」
「だろ?」
 夏用ラグの上でクッションにじゃれつく肢体は去年お揃いで買った甚平を纏い、濃紺の生地の隙間から焼けない白磁の肌を見せつける。
 いわゆるペアルックなのが気恥ずかしく、空却が着ている時はあえて着ないのだが、夏の涼を満喫する姿が少しだけ羨ましい。
「獄」
「なんだ?」
「飯、終わったらこっち来いよ」
 寝転がったままこちらを見上げる金色が、当然来るだろうとばかりにきらめく。数秒すると、つ、と手がゆるく上がり、おいでおいで、と指が揺れた。
「食べてすぐ横になると逆流性食道炎になる」
「なんだよそんなもん、拙僧の隣空いてんぞ」
「俺たちしかいねえのに空いてなかったら怖いだろうが」
「いちいち細けぇなぁ……そんな物欲しそーな、羨ましそーな目ェして見られんの、いい加減くすぐってぇっつぅの」
 おわかり? と下からなのに上から目線で歯を剥いて微笑まれ、ぐ、と喉が詰まる。
「ほれほれ、拙僧と極楽に行こうぜ?」
「なんつう悪僧だよ……」
 悪態をつきながらも、足は誘われるがまま、ふらふらと空却の方へと向かってしまい、ついには隣にごろりと転げてしまった。
「かわいいかわいい良い子の獄クン、よく出来ました……ってな」
 悪僧の誘惑に逆らえなかった悔しさで目を閉じて不本意さをアピールしていると、寄った眉間にちゅ、ちゅ、とくちびるが降ってきた。
 まだセットしていなかったとはいえ、頭を抱かれ、髪をくしゃくしゃに撫でられる。
 それは恋人へというよりは……。
「……俺は犬じゃねえぞ……」
「ヒャハ、犬に失礼だっつの。こぉんな欲深ぁい生き物、人間様しかいねぇってんだ」
 そう言うくせに鼻先へと触れたくちびるを捕まえて、自分のものと重ねさせれば、満足そうに目を閉じた。

2025/7/12


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