囀る小鳥も皆、消えて
体温を軽く凌駕した気温に慄いたものの、最大の恐怖はまだ七月になったばかりということで、思わず重苦しいため息をついた。そうやって吐く息すら熱い。
突き刺さる日差しも痛いほど暑い。アーケードの中とはいえ、一歩歩くごとに外側から燻され、内側から煮え立たされるような熱気にうんざりする。
「はぁ……」
「やっぱ食うか?」
「いらん」
横から白い塊を差し出したのは、この暑さに文句を言いながらも楽しげに跳ね回るクソガキ——空却で、つい数分前にナゴヤ初上陸! のうたい文句のソフトクリームを買ったばかりだ。
特殊な製法のマシーンだというだけあって、見た目は見慣れたものとは形が違う。天を突くようなドリル型ではなく、丸い花……マイクにも似て見えた。
口をつける前に一口、と勧められたのを断った手前もあり、がふがふと齧りつく空却によってもはや原型は留めていないものを今更貰う気にもなれないが、隣で甘ぇ、冷たい、うめぇな、などと言われると、じりじりとうだっていく体が勝手に唾を飲み下す。
「やっぱ食えよ」
「だからいらん」
再びずい、と差し出されたソフトクリームは、申し訳程度に塊を残してずいぶんと平たくなっていた。それすらこの真夏日のせいでどろどろととろけ落ち、コーンのふちからこぼれそうになっている。
「いいから食え!」
「やめろって! こぼれるだろうが……!」
ぐいぐいととけかけのソフトクリームを押しつけてくるのを避けながら歩くのはひどく困難で、目立つ。ねぇねぇあれ、と黄色い声が上がりはじめるのに、餌付けに必死なバカガキは気づいているのかいないのか。
こそこそとスマホを構えはじめるやつが見えた瞬間、空却を隠すように背を向けて、力一杯口を開けてソフトクリームに食らいついた。
思うよりもしなびていたコーンを歪に噛みちぎり、とろけたソフトクリームを啜る。ぐしゃ、ず、と上品ではない音が響いたが、乳製品がこぼれて散る被害はほぼ出なかった。
口いっぱいのソフトクリームとコーンを咀嚼し飲み込むと、多少ぬるくなっていたとはいえ、やはり芯の部分はひんやりとしていて心地いい。口の端のべとつきは舌で舐め取り、残りは汗を拭いていたハンカチでざっとぬぐう。
これでスマホを構えていたやつらには背中しか写っていないし、食え食えとやかましかった空却も満足だろう——そう思って半分以上消失したコーンを握る手の方を見ると、空却がぽかん、とした顔でこちらを見上げていた。
「ああー……悪かった、盗撮しようとする連中がいて、ソフトクリームもこぼれそうだったから、つい……」
「別に、気にしてねぇよ」
「そうか? 仕切り直しに後で何か奢ってやる」
「……拙僧は、誰にも見られないところで、こいつみたいに食われてぇなぁ……」
ぼそりと声をひそめて呟かれた誘い文句に、声を抑えて見つめ返せば、残ったコーンがにんまりと開いた口の中、赤くほてってぬめる舌に絡め取られ、みし、と小さな断末魔を上げ、消えた。
2025/7/3
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