燔祭の作法

 空却は家族や友人が自分よりも——そして平均値よりもだいぶ大柄なのもあって、何かと小柄に見られがちだが実際はそう小さくもない。
 真に小柄と言うべきは空却よりも一回り近く小さなシブヤ・ディビジョンのリーダーのはずだ、と訴えると、にべもなく「お前は態度がでかいから身長よりも大きく見える。その分のギャップだ」と獄——恋人——に大変失礼な言葉で切り捨てられた。
 近くにいた十四まで「わかるっす! 空却さんって大きく感じられるんすよね」と我意を得たりとばかりに膝を打つものだから、拳をばき、と鳴らしてやると、ひ、と息を飲んで黙り込んだ。
 全く、何がギャップか。

 空却にとって面白くもない話から数日。恋人としての逢瀬に、けなげにも獄の家で帰りを待っていると、ばたん、と扉が開くと同時にただいま、と声が上がった。
 これまたけなげに玄関まで出迎えに行くと、上り框に座り、ふう、と大きなため息をついて、シャツのボタンを外していた。
 日中に比べれば涼しいとはいえ、朝晩も暑いは暑い。太陽が沈んでもその余韻は強く、開いた胸元から封じられた熱気がむ、とあふれ出す。
「居間と寝室は冷えてんぞ」
「ありがとな……」
 眉間にシワを寄せ、げんなりと俯く顔の輪郭をなぞるように汗が伝い落ち、ぽたり、とシャツに小さなシミを作る。それにまたはあ、とため息を一つこぼす。
 ため息は聞いていて気分がいいものではない。普段ならば伝播した苛立ちで説法の一つでもしてやるのだが、今日のような場合はつい、手を緩めてしまう。
「空却?」
「ん、あぁ、水持ってくるか?」
「いやいい」
 ぼうっと自分を見つめていた空却を心配してか、恋人がおもむろに立ち上がる。エアコンの冷気の届かぬ場所にいたせいでうだったと勘違いしたのだろう。歩き出すと速い後ろ姿を追いながら、けれども誤解は解くことは出来ない。
 いくら空却が空気を吸うばかりで読まなくとも、疲労困憊した恋人にぐらりとするほど魅せられている、などとは言えないのだ。
 着こなしもあって着痩せする恋人は、立ち居振る舞いもあってスマートに見えるが存外にがっしりとしていて、今日のように着崩すと目が離せなくなる。特に夏場はこもった熱気を帯びた姿がいつにない野味を匂い立たせ、二人きりの秘め事を思わせるからたまったものではない。
 しっかりとエアコンを効かせてなお、けぶるような熱の充満する寝床は、おそらく想像におさまらず現実になる。
 上等な仕立ての下、さらに一枚、紳士ぶった面の皮をかぶった恋人にギャップを説かれるなど片腹痛い。
 鼻からもれた笑いを耳聡く聞きつけるのに、なんでもない、と返して居間へと向かう。
 廊下へと通じる戸を閉めれば、そこはもうけだものの腹の中だった。

2025/7/8


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