天国式軟禁リゾート
獄曰く、世界一の朝食——というそれはそれは御大層なふれ込みの食い物屋があるらしい。
「そりゃすげぇな、どんなんだよ」
「パンケーキ屋だと」
「ぱんけぇきぃ? 拙僧はパス。んな菓子みてぇなもんで腹が膨れる気がしねぇ」
「そうだろうよ」
涼しい居間の食卓に腰掛け、ず、と熱い日本茶を飲むと、腹の底からあたたまる。冷房をつけないわけにはいかないが、ずっとあびていると体が冷える。冷たくした部屋で温かいものを飲む。とんでもない贅沢だが、外気はもう耐えられないほどに熱い。正しくは空却だけなら耐えられるが、獄がそれを許さない。
心地よい風が吹いているから、と窓だけを開けてすごしていたら、帰宅した獄に死ぬ気か、と、えらくおっかない顔で叱られたのだ。さすがに冷房をつけるか、と考えはじめていた頃合いではあったが、そんな汗だくで何を言う、と比較的涼しい朝晩しか許してくれなくなった。
なので空却は夏の昼間に起きたら熱い日本茶を淹れる。体はだるく、重たいから、とりあえず茶を飲む。
「……だりぃけど、だからってぱんけぇきって気分じゃねぇな」
「わかってるって」
唐揚げ専門店をデリバリーしてやる、とスマホを差し出され、思いつくままにカートに突っ込んでいくのは気分がいい。なんたって獄の奢りである。
用が済んだスマホを返してやると、一瞬目を見開き、カートを確認して、眉間にシワを寄せながらも注文ボタンを押したらしい。
「パンケーキ何皿分の唐揚げを食う気だ?」
「昨日、獄に食われた分を取り返せるだけだなぁ?」
獄ががっつかなければ、世界一の朝食デートでもなんでも付き合ってやれた、と付け加えれば、降参とばかりに手を上げた。
こういうのもたまには悪くない。有り体に言えば、お前と共にする全てが世界一、というやつだが、調子に乗るので言わないでおく。
2025/7/10
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