よなよなしこしこ
寺で集まった日のこと、夏らしい怖い話をしようとなって、言い出しっぺの十四、空却とつつがなくどこかで聞いたような怪談を話し終え、獄へと順番が回ってきた。
いつもの客間をほんのり薄暗くし、机を退けて、部屋の真ん中あたりに車座になる。ろうそくはないが、畳というだけで雰囲気は出ていた。
ちなみに空却は『専門家による実体験に基づく話』が恐ろしすぎたため、それらは封印されている。
さしもの獄も怪談師を志したことはない。どうにも現実的な見方をするから、関係者は全員死んだはずなのにどうしてこの話を知っているヤツがいるんだとか、警察を呼べだとか、そもそも怪しい廃屋で肝試しする馬鹿が悪いだとか思ってしまう。
ちなみにそれらのツッコミは空却も含め、やはり封印されている。
すぐに出来る話はあるにはあるが、どこまで話したものか——
迷ったがそもそも困ってもいる。見習いとはいえ専門家もいるから相談ついでに『素人の実体験に基づく話』をすることにした。
「最近、ここ一ヶ月くらいのことなんだが……」
一ヶ月といっても毎日ではない。だいたい数日おき。たまに続くこともある。
それは夜の十時、日付が変わるよりも少し早いくらいにやってくる。
全体像は掴めないがともかく白い。あわい輪郭の真っ白い人影かと思ったら真っ白い肌だった。
頭のあたりを注視すれば顔がわかるかと思ったが、輪郭と同じくあわすぎて、白い肌以外は何も見えない。
ただ、目で見る以外の情報がどこかから与えられているのか、はたまた本能というような直感でか、視覚では知覚出来ぬかんばせがたいそう美しいのは不思議とわかった。
そうして小一時間、獄の隣にそっと佇むと、やがてすぅ、と消えていく。
「終わりだ」
「……あんまり、怖くないっすけど……ここ一ヶ月?」
「今日まで込みでだいたいな」
「……終わってなくないっすか……?」
「この話をした相手に感染るとかなら俺は『終わり』だな」
感染る、に、ぴぇぇ、と情けない声を出したものの、近くにいた空却が、はん、と鼻で笑った。
「感染りゃあしねぇよ。ソイツは獄に執着してんだ。じゃなきゃ一ヶ月も通いやしねぇ」
「ほ、本当っすか!?」
「ンなの聞くだけでもわかんだろ」
「いやいやいやわかんないっすよ!? 空却さんはお坊さんだからわかるかも知れないっすけど!!」
「坊主関係ねーだろ。ま、でもある日突然憑いたってんなら、いなくなんのも突然だろ。獄がソイツに変なことしなけりゃ行動に変化は起きねぇだろうよ」
意味深に流された金の目は全てを見透かしたようにきらめき、細められる。
何か悪いものならすぐ言うだろうが、そうではないのだろう。獄が一ヶ月間放置しているのも、これといって害はないからだ。
しかし、わかるのだろう。
獄が『話していないこと』が。
怪談は十四がリハに行くと言って二巡目くらいでお開きとなった。獄も帰ることにして、車を停めた駐車場で解散……のはずだったのだが。
十四を見送った後、獄が車に乗り込もうとした瞬間、運転席に空却が滑り込んだ。
「獄、話してねぇことあんだろ」
全部吐かなきゃここから動かぬ、と言われ、思わず息を飲む。
「図星か」
「クソ……」
「見た感じ……残った気配からすると取り憑き殺すようなタマじゃねぇ。でもなんかすんだろ?」
そうだ。それはただ獄の隣に佇むだけではない。
夜十時、獄がどこで何をしていようとも、そっと隣にあらわれ、そして——
「……扱かれる」
「は?」
「……その、ナニを、」
「……しごかれる……?」
ナニはナニである。皆まで言わせないでほしい。
そう、それは夜十時きっかり、獄がどこで何をしていようとも、そっと隣にあらわれ、獄のナニを扱く。
明日の仕事の準備に資料を整理していても。シャワーを浴びていようと。帰宅が遅れてタクシーに乗っていようと。
自宅に一人だろうと、外で他人といようと、服を着ていようといまいと、獄のナニを扱く。
「……ここ最近は夜十時には風呂に入るようにスケジュール調整をしている……」
「うわ……」
「扱かれ待ちみたいな状況も我慢ならんが、事務所で緊急の案件の対応中に扱かれた時なんざ……」
「うっわぁ……」
最初に聞いたときには若干の笑いを浮かべていた空却も、獄のげんなりとした様子を見て憐れみを上書きしていった。
扱かれた後のことは言わないし、聞かれないが、もちろん扱いたからには達するまで離してくれない。
急な体調不良のフリをしたり、とっさに荷物で隠したり、望まぬ隠蔽工作が上手くなっていくのに嫌気がさして、それならまだ扱かれ待ちの方がマシだと思った。
「……どうにか出来るか?」
「出来るけどよぉ……獄が扱かれてるとこを拙僧も見ることになるぜ?」
空却曰く、悪意や害意のない、執着だけが薄く残るていどのそれを追うのは難しい。
行動パターンがわかっているなら張り込めばいい。今回だってそうするのが一番早いだろう。しかし。
「そうなるだろうなあ……」
「ま、獄のナニを掴んだ瞬間にふん捕まえちまえばいーんだよ。そしたら扱いてるとこ見ねぇで済むし」
「俺だって見られたくねえよ……」
「じゃ、さっそく行くか」
善は急げ、と珍しくまともなことを言った空却が、助手席へと移り、シートベルトを装着する。
こうなったらこのクソガキは止まらない。
「十時までまだあるが」
「拙僧はいらねぇけど獄にゃ準備がいるだろ」
「お気遣いどうも……」
踏ん反り返る空却にか、待ち受ける白い人影にか。ため息をつきながら車に乗り込み、走り出した。
灼空さんに雑……乱暴……ともかく後できちんと連絡しよう……と頭を抱えるような連絡をした空却を連れて、獄は自宅に到着した。
食欲の失せた獄を尻目に、空却が当たり前に出前を頼もうとするから、これ以上知らん人間に家に来てほしくないと言えば、しょうがねぇなと勝手に買って置いたらしいインスタント食品を作り出す。寺だとうるさい、とのことだ。
一応勧められたが、このあとに扱かれる(寸前)のを見られると思うと気も胃も重い。
ナニだけ見られるならともかく扱かれるのを見られる——獄には露出癖も、それに準ずる特殊な嗜好もないから拷問である。
救いといえば、空却が正式な依頼を受けた仕事でも小遣い稼ぎのお手伝いでも、引き受けたならばきちんとこなしてくれることで、特に専門職としての自身の能力の認識に過剰な驕りも卑下もない。
ナニを扱かれるよりも緊急性が高い仕事も、危険度が高い仕事もあったろう中で、一瞬ナニが握られたのを見られるだけ。汚れてもいいくたびれたスウェットと、同じくくたびれはじめた下着に着替え、煙草とコーヒーを飲んだ。
「しかし十時ねぇ、また微妙な……。拙僧はなんもなきゃ寝てんなぁ」
「今日は寝るなよ」
「寝るわきゃねーだろ。さっき獄が親父と話つけたから、コレは正式な依頼になった。家族サービス含めてしっかりやってやるよ」
真剣な目は澄んだ刃のような美しさがあって、灼空さんの言うムラっけをひしひしと感じる。
あの目ならば獄のナニが扱かれようと、よしんば獄のナニが大変なことなっても大丈夫。そう思えた。
現在時刻、夜の十時過ぎ。
件の白い人影はといえば、姿を見せなかった。
元より毎日ではない、と言っていたから、空却も気にしていなかった。
こちらにはわからぬ出現条件を満たしていなかった。近くにいるのが獄の状況を知らない一般人ではなく、獄から依頼を受けた専門家だったから来なかった。突然の出現と同じく、突然消えたか——指折り告げられた理由はどれもありそうで、だから一週間ほど通って様子を見る、と言われ、了承をした矢先だった。
リビングのソファに座っていた獄の傍に立って控えていた空却が、ぺたん、と座り込んだのだ。
「どうした!?」
不可思議な事態が起こらなかった直後、白い人影からしたら目障りな存在であろう空却の異変。
思わず出た声は獄自身も驚くほど大きく、慌てていた。
俯き、座り込んだまま動かない空却に呼びかけながら、身を乗り出して肩を揺さぶろうとした瞬間、おもむろに獄の太腿へとのしかかってきた。
一転、獄を見上げるようにした空却の目は澄んだ輝きのまま水面に似たゆらめきで掴みどころがなく、いつもならば寄った眉間のシワも伸び、挑戦的につり上がった口元も笑みを描いている。
明らかにおかしい。空却と付き合いが浅ければ騙されるかもしれないが、一蓮托生を誓った仲は伊達ではない。
おそらく、空却は獄に執着する人影に操られるか取り憑かれるかしているのだ。
薄く、けれども蠱惑的に細められた目と、やわらかく、かつ淫靡に引き結ばれたくちびるは、どだい空却には作れない妖しい色気を放ち、そのまま、すぅ、とあらぬ場所に手を伸ばした。
「待て!」
言って聞くわけがない。空却もそうだが白い人影も。これまで言葉で、身体で、あるゆる抵抗をしてきたけれど、握ったナニが果てるまで白い人影は絶対に手を離さなかった。
さすがにまずい。いくらなんでもまずい。ナニが扱かれるのを見られるのと、ナニを扱かれるのは全く違う。
しかしソファから逃げるより早く、股間が押さえられてしまった。
見慣れた装飾のほどこされた爪と無数のリングがついた指はまごうこと無く空却のもので、猛烈な拒否感でスウェット越しに握られたナニは縮こまっている。
「やめろ……! その身体はお前のものじゃないだろう!?」
名前も顔も何であるかもわからないものへ向けて、通じているかもわからぬ言葉を投げかける。意味があるかわからないが、終わった後に『望まぬ行為に抵抗した』という証拠が欲しかった。
そうでないと、上目遣いでナニを扱き出した空却は『好かれている』と勘違いしそうなほど、陶然とした顔を愛おしそうにほころばせていたのだ。
ナニに添えられた手の仕草、ナニを見つめる眼差し、ナニへと向けられた熱い吐息……その全部が嘘なく恋慕に満ちている。油断するとほんのりと桃色につやめくくちびるが、スウェットを剥いてしゃぶりつきそうで恐ろしい。
約一ヶ月の成果で獄の弱点を知り尽くした白い人影の手管は、身体を奪われた空却にも継承されており、しゅ、しゅ、とリズミカルに扱かれる。
根っこからきゅぅ、と搾るように締めつけられたまま、裏筋やくびれを指輪でごろごろと刺激され、先端のくぼみを爪先でぐりゅ、とえぐられる。
「……っ」
息を詰まらせて耐えると、見下ろした先で空却が見たこともない表情で歓喜に打ちふるえていた。
自分の手淫で感じているのがそんなに嬉しいのか——獄にはまるで理解出来ないまま、あの白い人影もわからないだけでこんな顔をしていたのだろうか。
よそ見をするなと言うように、ナニへの扱きがより強く、速く、激しくなる。くたびれたスウェットと下着を限界まで伸ばして膨張するナニは止めどなく先走りを垂らし、しゅ、しゅ、という規則正しい衣擦れに、ぬちゃ、にちゃ、と粘ついた水音が混じり出した。
クソ! イく、イく……!
シミが目立つ色ではないが、さすがに諸々がこびりついたまま捨てることは出来ない。そもそも本来ならば万が一扱かれた時の対策に着ている服で、服に射精すつもりはさらさらなかった。だというのにこの異変に襲われてから数度遭遇した、夢精をしてしまった時のような気持ち悪さをこれからまた味わうハメになっている。
どれだけ腹に力を込めてこらえても、約一ヶ月間、扱かれ待ちまでしていたナニは隅から隅まで知り尽くされて、耐えれば耐えるほど、意地悪く責め立てられてしまう。
射精せ、射精せ、射精せ……!
悪意も害意もなく、獄に射精を促し、果てるまで扱き上げるだけの存在は、空却の身体を、身につけたものまで使いこなして、絶頂間近のナニを仕留めにかかった。
根っこから先っぽまでの下から上への搾り出しをくり返し、びゅ、びゅ、と先走りが重たい音を立てはじめたら、先っぽだけをぢゅぷ、ぢゅこ、と擦り上げる。
獄自身がぬとぬとに汚した下着の中に閉じ込められた先っぽは、そのまま、ぢゅぼぉっ、ぢゅぅ……っ、とねっとりとした先走りをまぶされ、果てるまで扱かれる。
うるおい、ぷりゅぷりゅとした肉壁とは違うのに、的確に弱点を押さえた扱きが、ぬめる下着の中という擬似的な密着感を底上げしてしまう。
それは無意識に腰が揺れ、布越しの空却の手のひらへとナニを押しつけ、擦りつけるほど心地良く、その分だけ獄をげんなりとさせた。
果てた後、自分自身への失望と嫌悪で最悪な気分になるとわかりながら、それでも腰をふる勢いは増していく。
「……く、ぅっ」
いくらかして、これ以上ないほど強く、ずん、と空却の手のひらを突き上げると同時に、びゅる! びゅぅぅうぅぅぅ……、と射精をした。
染み出した精子はきっと空却の手を汚しているし、スウェットも下着も大惨事と化している。
何よりも憂鬱なのは、白い人影から解放された空却の反応だ。
自分が見るのも嫌がっていた行為をさせられていたなんて、どう伝えても気持ちが悪かろう。
獄だって本意ではなかったし、どうにか止めたかったことだけはわかってほしい。
射精すものを射精した脱力感と、後始末を思って、はぁぁ……と深く重たいため息を吐いた。
夜の十時を迎えても、何も起こらなかったのは不思議ではなかった。元より獄から毎日ではない、と聞いていたし、空却のような者がいると引っ込む輩は多い。
想定範囲の出来事に慌てるわけもなく、一週間くらい通いで様子見を約束した直後、空却の意識はぷつん、と途切れた。
攻撃された? いつの間に? 潜伏していた? そんなに強い存在ではなかったはず……あらゆる可能性を考慮して頭を巡らせるも、空却の制御を受け付けなくなった体は座り込んだまま動かない。
最悪、本当に不味くなれば父親が察知して来てくれる。獄からの連絡で正式な依頼となったこれは、見習い格安価格かつ住職フォロー付きなのだ。
口にするもの憚られる状態になろうとも生命だけは守られる。生命以外の、獄が大事にしていそうな誇りだとか尊厳だとかは難しいかもしれないが。
ともかく今は状況を把握して解決の糸口を探すしかない。恐らく目的達成に邪魔な空却を封じてナニを扱きたいのだろう。
運悪く目の前に獄のナニがあるような状態の上、目を閉じることも出来ないから、お互いに見たくない・見られたくないものを見せられたり見られたりするハメになるが仕方あるまい。
未熟者と叱られ、見習いの文字が消えずとも専門家として腹を括った空却はしかし、さらなる想定外の事態に陥った。
獄のナニを、何故か空却が扱いているのだ。
体の制御を奪われたまま、感覚だけはそのままに、獄のナニを扱く。
しゅ、しゅ、と空却は知らないけれども、空却の体を操る相手は知っている獄の性感帯を、丁寧に丁寧に、空却に教えるように手を動かされる。
約一ヶ月の積み重ねは、簡単に獄のナニを最大値まで育て上げ、空却の手のひらにはびくん、びくん、と暴れ回る、長大な逸物が、射精したい、射精したい、と先走りを噴いていた。
獄はどうだかわからないが、服越しで良かった、と心底から思う。今でさえ凄まじい気まずさなのに、直だったならばどうにもならなくなっていた。
それにしてもこいつは一体なんなのか。
獄に射精させることへの執念は凄まじいが、それ以外はまるでない。獄の顔や逸物、扱いたときの反応を見て嬉しそうに、愛おしそうにしているから好意はあるはずなのに。
後で、この気まずいことこの上ない時間が終わった後で、獄にここ一ヶ月に出掛けた先や、会った人間を洗いざらい吐いてもらわなくてはならない。その中におそらく、獄を憎からず思っていて手コキでイカせたくてしょうがないヤツへと繋がる糸口がある。
……どんなイカれたヤツだよ!
叫べたならば苦情がくる大きさで叫んでいたが、あいにくと今は獄の逸物を扱くしか出来ない。
その獄は空却が完全に乗っ取られて意識がないと思っているらしい。未だ正体不明の存在への悲壮な呼びかけから察した誤解はお互いのため、そのまま利用させてもらう。
……それにしても格好つけの男の余裕のない顔はなかなか悪くない。別に獄にムラついたわけではなく、現状では空却に打つ手がないからだ。
今回のように一つの目的に特化し、絶対にそれを遂行するタイプのものは、幅広くなんでもしてくるタイプよりも強制力が強い。『目的』が生命に関わるならば悠長にしていられないが、危ういのは獄の誇りと尊厳だけだし、空却が優しい嘘をつけばさらに軽傷で済む。
最初の一回目だ。こういうこともある。体を乗っ取られたついでに、獄に執着するヤツが何を考えているかを探ることにした。
空却とて獄とはそれなりに長い付き合いで『家族』だから、お互いにダサくてみっともないところも見せたし見せられたりしているが、ナニを扱きあったりはしていない。今生する予定など一切なかったのを強制的にさせられているのだが、目を背けても扱いてしまった現実が変わらないのなら、扱いてしまった現実を刮目した方がマシだろう。
大仰に言ったが、空却には全く無い視点で見た『家族』の新たな一面は、たまらんヤツにはたまらんかもしらん、という答えを導き出したのだ。
B.A.Tを応援するメッセージも一人だけ三十路の獄のアダルティさが際立って良いというものもあった。同じくらい十代二人に負けないエネルギッシュさも評価されていたが、人間は落差に弱い。
半分くらい無の気持ちになるよう努めながら、空却は獄の逸物を扱き、自分と同じように眉間にシワが寄ってもなんかやらしく見えんなぁ……と思っていた。
何事も始まりがあれば終わりがある。実際に流れた時間よりも遥かに長く感じる時間を過ごした二人に解放の時が訪れた。
獄がイキそうなのである。
わけのわからんくらい膨張した逸物はスウェットを突き破りそうだし、とっくにあらぬ汁が染み出して手のひらを汚しているし、獄はもしかしてセックスのときもその勢いか? と疑うくらい腰を振っている。これでイカなかったらいっそその方が怖い。
イッたら今日、今この瞬間は一旦、終わる。これから一週間、空却は原因究明のため、もしかしたら二度三度と獄の逸物を扱くことになるかもしれないが、今日を糧に対策は立てられる。
あんまり手の方に意識を集中してこなかったが、終わるとなると意識してしまう。
なにより、普段あんだけええかっこしいの男が、聞いてもいない美学をとうとうと語る男が、空却の手のひらに向かって必死に腰を振っているのが、なんだか妙に可愛らしくて、愉快な企みを思いついた時のようなぞくぞくとした感覚が背を走った。
今、獄の逸物を握る手のひらにこめた力とこもる熱は、本当に操られているからなのか。問われたら違うと断言出来ない自分がいる。
そして、ぞくぞくと背を駆ける欲が誰のものかわからないまま、一際強い突き上げと熱い飛沫を受け止めた。
たいそう気持ちよさそうだったのに、えらく憂鬱そうなため息をつく獄に、さて、空却はどう対応したらよいか。
優しい嘘をつく準備は出来ているが、目下最大の問題は、吐精する獄の噛み殺し損ねた低く甘いよがり声に、空却のナニがぴく、と反応したのをどう隠したらいいかだった。
2025/8/15・16
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