金と釣り合う羽根を捧ぐ

 そんな生娘にスルみたいにしなくていい、と言ったら、それはもうおっかない顔をされた。
「あのなあ……そりゃあお前は可憐な乙女とはほど遠い暴れ猿だが」
「その暴れ猿抱こうとしてるテメェはとんでもねぇゲテモノ食いってこったな」
「……ああ言えばこう言うガキが……」
「カワイクねぇ暴れ猿のガキにちんこおっ勃ててるオッサンがなぁに言ってんだか」
 へっ、と吐き捨てた先に広がる白いシーツはおろしたてで、視線をずらすと目に入る黒い枕カバーだっておんなじだ。そんなさらっぴんの匂いがする布にまみれて初夜だなんて、やってられるか。

 二十歳になるまでは、と誓った恋人が、誕生日が近づくにつれそわそわとするのに気づいていた。
 なんかまた面倒くさいことを考えたりしているんだろうなぁと思いながらも、すでに二十歳になるまでという宣誓を立てられた時点で諦めていた。
 空却の貞操にそんなに価値を見出しているのは獄だけだと言っても、お前は自覚が足りないだとか意識をしろだとか説教されるだけだから黙っているが、今だって考えは変わらない。空却の貞操を値千金だと思っているのは獄しかいない。
 幼い空却にお菓子を上げよう玩具を上げようと誘った変態も、中坊の空却に汚い言葉と暴力をふるったチンピラも、東都にいた頃の空却に衣食住を提供する対価として交渉してきた獣も。皆みんな、空却を都合のいい穴っぽことしか思っちゃいなかった。
 もちろんそんな者共に何一つ許したりしなかったが、同時にそれはひどく正しくも感じられたのだ。所詮、今生限りの肉と皮に、そんな大それた価値なんぞ無い。
 たまさかに生まれ持った見てくれは、空却が望んだわけでも勝ち取ったものでもない。歳月を重ねれば失われるような脆弱な物体を、大事大事にするのも坊主の仕事ではない。
 それだというのに、目の前で眉間にシワを寄せながらちんこを勃てるオッサンときたら。
「……いつもどおりでいいってのに」
 今日のためだけに用意されたのは寝床だけじゃない。ここにたどり着くまでの道すがら、全部ぜんぶが今日のためだけに新しく誂えられて飾られて装われてきた。
 空却自身だって、朝一で予約していたというサロンだの服屋だので頭のてっぺんから爪先までピカピカにされたのだ。
 たかだか二十歳になった空却を抱くためだけに。
「今さら照れるなガキンチョ」
「はぁ!?」
 これだからヴァージンは面倒くさいと聞こえるようにひとりごちた恋人に、文句をつけようと開いた口を塞がれて、そのまま舌までさらわれた。
 触れて重ねるだけのくちづけしかしてこなかったのに、いきなりに一回り大きな舌に口中を暴いて回られる。漫画だと歯を立てて抵抗したりする、けれど。
「は、ぁ……」
 ようやく解放された口の中は自分のものか恋人のものかもわからない唾でいっぱいで、閉じ方を忘れた端っこから垂れ落ちたのが真新しいシーツにシミを作る。窮屈になった股間が似たような状態なのは確認しなくてもわかった。
 ざわめく体を落ち着かせたくてもぞもぞとしていると、くちづけが終わっても離れてくれなかった恋人に真正面から見据えられる。
「これから、俺とお前のいつもどおりを作るんだよ」
「獄と、拙僧の?」
 そうして告げられた言葉を鸚鵡返しすると、またくちづけをされた。今度は頭からくちびるまで、触れるだけのものをなぞるように降り注がれる。
「空却、お前が自分をどう思ってるか知らないがな、俺はお前が大切で大事だから、嫌な思いも痛い思いもしないようにして抱きたいんだよ」
 何もかも初めてだと言う空却と同じに、全てをまっさらにして抱きたかった、と傅いて手を取られ、今日贈られたばかりの——言ってもいないのにサイズがぴったりの——ペアリングに、ちゅ、とくちづけられた。
「……二つばかし前の元号のドラマみてぇなことすんのな」
「そんな男に惚れて抱かれたいって言ったのお前だからな」
 鋼色の瞳は空却と同じで自分を譲らない。ペンと同じくらい強い、剣のような眼差しに観念しよう。
 手始めに生地の匂いしかしない上等な布切れを自分達の何もかもでボロ切れにするために、もう一度深いくちづけをねだるのだ。

2025/8/29


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