貝にたとうる肉の孔

 天国獄は極めてノーマルな嗜好の持ち主で、セクシーランジェリーなどの類を馬鹿らしいと思う反面、その時々のパートナーが『獄に喜んでほしい』と装着した姿を見せるのには素直に喜んだ。
 大事なのは『パートナーが獄のためにした』という部分で、ただ単に見目麗しくスタイルの良い人間が小さな布切れで局部を隠していても面倒くさそうに目を逸らすばかりの男だった。

 そして今、そんな天国獄の前に、今生最後のパートナーである空却が、自宅のベッドの上で大の字で転げていた。
 人の気配に敏感で、他人が近づけばすぐさま目を覚ます空却が、それはそれは無防備にすやすやと寝入っている。
 ひとえに獄への愛と信頼——なのだが、生命力の塊のような恋人にはエアコンをつけてもなお暑いらしく、サイズを誤って買ったという紫のTシャツ一枚だけ纏って眠りこけているのは、たいそう目の毒だった。
 袖は肘のあたり、裾は太ももの半ばあたりまで。下に何か着ていればオーバーサイズファッションになるが、引き締まりながらもほどよく筋肉のついた四肢を剥き出しに放り出されるのはひどく際どい。
 大の字という色気も素っ気もない格好だから、不良坊主でありながら規則正しい生活をおくる恋人の就寝時間に思いを馳せるにとどまっていられる——のに。
 恋人ときたら、ん、と小さくむずがると、片膝を立て、そのままぱたん、と足を横に倒してしまったのだ。
 膝を立てた拍子に捲れた裾は足のつけ根へと収束し、わずかに纏っていた布の端すら失った太ももは、横に倒れたことでつけ根から太ももの内側という、恋人でもなければ見ることのない場所を晒しあげている。
 獄は恋人の日に当たっても白い肌の、日に当たらぬからなお白い肌を知らないわけではない。まさに今、恋人が転がるベッドの上、何度となく暴き、くちづけ、舐め、食んだ場所に、最も馴染みがあるのは自分だという自負もある。
 誘い惑わすような肌と仕草にぐらつく頭を叱咤して、はしたなく開いた足を隠すべくブランケットを手に取ろうとした瞬間、は、といっそう気づいてはいけないことに気づいてしまった。
 これほど大胆に足を開いているのに、下着が見えない。ましてや恋人が好むのはボクサーパンツだから、つけ根まで晒して生地の端も全く見えないのはおかしい。
 こいつ、まさか履いていないのか。いやしかし——口に出さず、頭の中で独りごちる言葉は混乱していて、同時に浅ましい期待にも満ちていた。
 恋人の成人を機に身体を重ねはじめて数年。日々の研鑽を欠かさぬ勤勉さは色事にも及び、逞しい筋肉はほのかに甘いやわらかさを帯びはじめた。常日頃はがっしりと硬く力強いのに、二人きりとなるとむっちりとやわく弾む。
 今の恋人の身体は後者で、下着を履いていない——ように見える——のだ。オーバーサイズに見えなくなった裾をほんの少し捲り上げれば、答え合わせが出来る。
 どくどくとうるさい心臓をエロ本しか知らないガキのようだと自嘲しても、赤の他人ならいざ知らず、恋人の扇情的な姿に無反応なのはおかしいだろうと開き直る。何よりもここは両手足の指でも足りないくらい、共に過ごしたベッドの上だ。
 どんな答えが待っていても裾を捲るだけ。みっともなく乱れた裾を直してやるだけだ。

 下心をなるたけ隠し、つけ根にたまった裾を摘む。指で持ち上げた生地はほどよく伸び、加減がわからず思ったよりも強く捲り上げてしまった。
 はじめからそのつもりだったろう、と頭の中で自分と同じ声がせせら笑うのを無視をして、うっかり見えてしまった、という素振りでちらりと中を覗く。
 裸も見た、それどころか本人すら知らぬ胎の奥まで暴いた、履いてようがいまいが、何があっても驚くものか、と言い聞かせ、そして——
 捲り上げた裾を、直してやれなかった。
 それは履いていると言うにはあまりに頼りなく、かといって裸と言うには装っていて、少なくとも、これを普段使いの下着にすることはない、とは思わされた。
 窮屈そうに茎と玉を収めた白い逆三角形の布地は今にもはじけ飛びそうで、それをどうにか身体に括りつけているのは千切れそうに張り詰めた黒いレースの紐でしかない。何よりも目を疑ったのは、むちりとした尻たぶのあわい、縦に割れた秘裂に沿うように丸いパールが並んでいたことだ。
 濡れた濃いピンク色の割れ目にしゃぶりつかれているのか、自ら食い込みにいっているのか。連なった白いパールが肉縁からあふれたねっとりとした透明な汁にまみれ、てらてらと光る。用意周到なことに寝転がった尻の真下にだけ吸水シートが敷かれていた。
 一人で遊ぶつもりだったのか、それとも健気に帰宅を待ち構えていたのか。健やかに寝息を立てる恋人の真意はわからない。
 思いもよらぬ光景から目を離せずにいると、ひくひく、と濡れた縁がふるえ、逆三角形の布地がぐ、と張りつめた。
「やぁらしぃんだぁ……ベンゴシセンセ」
「こっちの台詞だ、淫乱坊主」
 こちらを見上げる眼差しはまだ少し寝ぼけながらも愉快そうに細められ、罠にかかった獲物に舌舐めずりする獰猛さが香る。
 はぁ、と悩ましげに吐き出された吐息に合わせて形の良い若茎が首をもたげると、ちゅぱ、と行儀の悪い水音を立てて、パールが一つ、紅くぬめる淫腔へと飲み込まれた。

2025/8/2


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