淫業一本管
空却の恋人——獄は空却の目がお好きらしく、よくよく見つめてくる。
それがくすぐったい時もあればざわざわとする時もあって、今——獄のベッドの上に寝巻きで向かい合っている時——はどきどきとしていた。
「獄……」
空却は獄にくちづけの時に目を閉じろ、と言われたことがない。漫画だのドラマだのでは目を閉じろと求められたり、自然と目を閉じているのだが、むしろ獄は空却が閉じようとすると不満げにした。だから空却は一生懸命に目を開いているのだが、それは結構、かなり、大変なのだ。
くちびるが重なる寸前、言外に目を開けていられないかも、と匂わせて名前を呼んだものの、素知らぬフリをしてそのままくちづけられた。
恋人と自分の、存外にやわらかいくちびるが重なり交わるのは心地よい。ふにふにと歯を立てずに貪り合うだけなのに、どちらのものとも知れない唾液でちゅぱ、ちゅ、と水音がするのが恥ずかしい。
心地よさと恥じらい、その両方で目蓋が降りかけるも、狭まった視界に不満そうな恋人が映る。そうなると、空却は恋人の顔を曇らせたくないのと、負けず嫌いとで火がついて、一生懸命に目蓋を上げるしかない。
ちゅ、ちゅぱ、とくちびるを食みつ食まれつすると、だんだんくちびるとくちびるの小さな隙間を探すように恋人の舌が動き出す。身長と同じに一回りくらい大きな舌が、ぬ、ぬぅ、と空却の口内に入り込もうと、尖らせた先っぽで突いてくる。普段なら感じない差を、こうして密着するとたしかにあるのだと諭すように動きが激しくなっていく。
あっという間にくちびるのあわいは暴かれて、閉じられなくなった口の端っこから飲み下し損ねた唾液が滴り落ちた。不規則に溢れる液体が、顎を伝って痒いから拭いたいのに、足と足の間に置いた両手で踏ん張っているから出来ない。
必死で開いている目蓋と同様に、両手も頽れそうなのを耐え忍んで突っ張らせている。理由も同じ。激しく、深くなっていくくちづけに、身体が教え込まれた快感をきちんと思い出し、より耽溺出来るようにと余計な力を抜こうとしているのだ。
懸命に持ち上げている目蓋はぴくぴく、ぷるぷるとふるえ、恋人と合わせたままの目の端には、口と同じに抑え損ねた雫がたまっては弾けている。にじみ、きらめき、とけ落ちた金色は、野生動物に似た鋭さも、宝石のような堅牢さもない。ひたすらに甘く香り、無遠慮に貪られる黄金色の蜜として食らい尽くされるのを待っている。
ぢゅ、ぢゅぼ、ぢゅぱ、と鼓膜をゆさぶる水気を纏った口腔への愛撫に対し、空却とてされるがままなわけではない。真珠色の歯列をあっさりと越えた舌先に、挨拶代わりにべろりと舐められたのに応戦して、自らの舌を突き出して弾き返した。この時ばかりはとろけた目もき、と強い光を灯したけれど、すぐに一回り大きく、肉厚で、房時に慣れた恋人の舌技に翻弄され、よりこっくりと甘そうな有様になってしまった。
舌だけでなく、上顎、下顎、口壁から歯のつけ根、恋人の舌で届く全てを余さず舐め、つつかれ、撫で、吸われ、抉り、くすぐられ——気づけばぼんやりと目を開いたまま、胎をきゅうきゅうと疼かせ、腰を弱々しくふっていた。
とっくにくちびると口腔は性感帯に育て上げられていて、はしたなくねだる仕草をするのは初めてではない。そのままくちづけだけで胎で達し、ふりたくった腰を突き出して股間を濡らしたことだってある。今日もきっとそうされる。深く交わっているとはいえ、指一本触れられないまま、くちづけだけで絶頂する。
想像というよりも予感であり確信は、性感帯どころか性器そのものへと研ぎ澄まされた感覚を押し上げる。このまぐわい以降、胎や尻とおんなじになる場所が増えるのは、空却のうだった頭でもわかっていた。
ぢゅ、ぢゅっ、ぢゅぽぉ……、ぢゅぅぅ……といっそう下品に響く交接音に、しゅ、しゅ、という衣擦れも混じり出した。性器と化した口腔での交尾に高められた身体が、いつものように無意識に動いているのだろう。
腰を突き出すたび、ぐ、と張られる胸元にぽっちりと二つの粒が浮き上がり、それらをわざと生地に擦りつけ、どんどん輪郭をくっきりとさせる。両手で隠れた本来の性器も同じように服で扱いているのか、ぬち、ぬちゃ、と小さくもカン高い、粘ついた音が混ざり出す。
まだくちづけだけ。深く交わるようなくちづけだとしても、そこだけ、それだけなのに。
長大な舌に口腔を通して胎で達する、途方もなく淫らな行為を促されても、手塩にかけて育てられた身体は素直に快感を享受してしまう。
喘ぎもよがりも上げられないまま、仕事道具であり、武器であり、常日頃隠しもせずにさらしている場所を、第二第三の性器へと変えられて、ついにその時が訪れた。
「……っ!」
恋人の分厚い舌に根から絡め取られた自身の舌をひどく小さく脆弱に感じながら、ぎゅぅぅ……と締めつけられ、息苦しいこそばゆさで喉がわななく。自分だけでは届かぬ奥地がゆさぶられ、なんでもなかったはずの些細な刺激がどうしようもなくもどかしくなった先の法悦を、この身体は知っている。
ぴりぴりと、喉奥から胎へと伝わる甘い痺れが弾けたら、くちづけどころか飲み食い、呼吸だけでも極めてしまう淫乱になる——わかっていても、いるからか、恐れと共に湧き上がる悦びで全身がびくびくと跳ね上がる。
舌の根を吸い上げられるままに突き出した胸の尖りがじんじんと熱く、いやらしく仕込まれつつある喉奥と共に果てようと、粗相と見紛うばかりに濡れそぼった股間をもはしたなく突き出した。
これ以上ないほどにみっともなくて浅ましい姿をさらしているのに、にじんでぼやけた目に映る恋人は嫌悪も幻滅もした様子はない。むしろもっともっとと言うように舌先を器用に操って、捉えたままの空却の舌をくすぐる。
そして、それが最後の一撃となって、くちづけしかしていないはずの身体は絶頂を迎えてしまった。
恋人が愛して愛でてやまない黄金色の目を見開いて、びくん! と一際大きくふるえると、頭のてっぺんから爪先まで、びん、と突っ張らせたまま、両手のあわいから放ったぴゅるる……ぶしゃあっ! という淑やかな吐精と無作法な粗相でベッドを汚し、ようやく脱力する。
くにゃりと崩れかけた身体はくちづけをしたまま前のめりになり、自分を淫らに作り変えた恋人に縋りつくしか出来ない。
おもらしと呼ぶにはいやらしすぎる水たまりを恥じらいながら、うずく胎を愛されたいとねだる甘くとけた眼差しに、鋼色の目が剣呑な光を帯び、再び貪るようなくちづけがはじまった。
2025/8/3
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