淫肉堕刻
現代っ子の一番弟子のアドバイスで恋人からサービス自撮りが送られてくるようになった。
朝夕の空模様、庭に遊びに来た鳥や猫、草木の移り変わりや花や果物の実り、寺に訪ねてきた人や出先で出会った人——獄の知り得ぬ日常の姿は、荒んだ心に和やかなあたたかさを与えてくれる。
ところが最近、胸をざわつかせるような写真が送られることが増えた。
ひどく薄着で、際どいポーズの写真。言葉を選ばずに言えばエロ自撮りである。
最初は粗野な恋人が何も考えずに撮ったのだと思っていた。袖のない作務衣からちらりと乳首が覗くのくらいは日常茶飯事で、しょっちゅう獄は自分以外が見えないように盾になったり衣服を正したりしていたからだ。
添えられたメッセージも暑い、だの、汗が止まらねぇ、だのの一言きりで、これまでを考えれば他意があるとは思うまい。獄も熱中症に気をつけろ、だの、帽子かぶれだのと返すだけだった。
ところがある時からそういう写真に小道具が加わるようになった。最初は細長い円柱のミルクアイスバーで、がぶがぶと噛み砕く空却が珍しく舐めしゃぶる姿の写真だった。
あまりにも露骨なやり口にいやらしさの前に笑いがこみ上げ、そういうネタだと思って返事を送った。ちゃんと食わないと垂れるぞ、と。
それが恋人の負けん気に火をつけたのだ、と今ならわかる。存外に凝り性で、一度決めたら何度でも立ち上がってやり遂げる、その前向きな向上心を斜め上にかっ飛ばさせてしまったのだ、と。
車を停めてすぐ、ピロン、と気の抜けたメッセージ受信音を受けてスマホを開く。
本来なら恋人と夕食デートをするはずだったのに、駆け込みの依頼が来てそれどころではなくなった。予定の狂いを詫びるメッセージに対し、怒りも不満もなく、力になってやれ、という短くも寛容な返事に有り難さと申し訳なさ、愛おしさが募ったのはつい数時間前。家で待つ、という空却に、職場を出る時に終わったから家に向かっている最中だと送ったから、きっとその返信だろう。
数件たまった通知には自撮りも含まれているはずで、こういうときは励ますようなものが多い。家に帰りたくなるようなくつろいだ姿や、買ってきたにしても作ったにしても食欲をそそる食事風景、そして、ごく稀にエロ自撮りが。
うっかりでも恋人のあられもない写真を公の場で開くわけにはいかない。駐車場からマンションのエレベーターホールまでは一度スマホをしまい、エレベーターを待つ間にアプリを起動させた。案の定、恋人から写真を送信した、という表示がされていて、一人きりなのを確認してからメッセージを開く。
さてどんな写真か。もうすぐにでも本人に会えるのに、自分にだけ、自分のためだけに撮られた写真に胸が弾む。終わってから噴き出す疲れを癒すような写真であってほしい。そう、思っていた。
だん、と叩きつけるような足音が響いて、ぎょっとした後、それはすぐにおさまった。それでもまだ少し、ざ、と靴底をすり減らすような、強く地面を踏み締める歩き方ではあったけれど、最初よりはマシだ。
問題はその足音がどんどん自分のいる部屋へと近づいていることで、やっぱり、というべきか、想定以上、というべきか。足音は部屋の前で止まると、いつもより鍵を差し込み、回し、戸を開く音も全てが乱暴——あるいは自分の獣性を無理矢理に抑えつけているよう——だった。
腹を括って玄関へと出迎えに行き、おかえり、と言うべく口を開こうとすると、意図的に剣呑な声をかぶせられる。
「この写真、説明してくれるな?」
眼前に突きつけられたスマホは、恋人が最近貼り替えたはずのガラス製の画面保護シートの端々にヒビが入っていて、思わず息を飲んだ。ヒビはあくまでも端だけだから、真ん中は無事ではあったけれど、案の定そこには恋人の目が凍りつくほどの怒りの原因が表示されていた。
「え、と……これは拙僧の自作自演なんだが……」
「そうじゃなかったら関わった人間、全員もれなく社会的に殺してやる……って俺が言うのわかってるよな?」
「そりゃもちろん……つうか、拙僧がこんなことされるわけねーだろ」
「どうしてそう言える?」
「拙僧が弱ぇって?」
「お前は弱くないが、誰かを人質にされたら平気で自分を差し出すだろ」
「場合によるっての」
「嘘だね。たまたま居合わせただけの相手でも、お前は手を貸さずにはいられないはずだ」
「……そーいうこともねぇとは言わねぇけど」
「まだ残ってるのか?」
「何が」
「身体に書かれた文字だよ」
玄関からリビングへ移動して、ダイニングテーブルで向かい合って詳細を詰める。
送られたのは、二人で何度となく夜を過ごしたベッドの上、全身に卑猥な文言やら記号やらを落書きされた空却が、大きく足を広げた状態で、秘部にずっぷりと派手な蛍光ピンクの性玩具を咥え込み、精と潮、尿の混ざった淫汁まみれになった写真だった。
絶対に口にしたくない猥雑な言葉はところどころ白濁した汁でテカり、無造作に転がる『中身』の入った使用済みのコンドームは内太腿に書かれた正の字と同じ数で、恋人の顔はその腕で抱きしめるようにして隠されていた。
今の恋人はいつもどおり作務衣を着ているが、この下にはまだ。
「……悪趣味すぎんだよ……」
「獄が悪ぃんだぜ? いっつも拙僧の渾身のサービスショットをスルーすっから」
「たまには反応してたろ……!」
「ちんちんに響いてなさそうだったじゃねぇか」
「それでこれか!?」
「……他の野郎にマワされた〜ってなったら、燃えんじゃねぇかなぁ……って」
さすがにやりすぎたと舌を出す恋人を、やりすぎなんてもんじゃないと叱り飛ばす。
燃えるには燃えたが、それは怒りと憎悪でしかない。
自作自演でも恋人がてごめにされる写真など見たいわけがない。それもあんな、手酷く弄ばれた姿。
「血の気が引いた……」
「ごめんって……」
「……で、あの文字は残ってんのか?」
「ああ! あれシールなんだよ。だから一週間くらいあのまんまだぜ」
「いっ……」
あっけらかんとした返事に頭がくらくらとする。恋人は、寺で集団共同生活をしているのに。……獄と付き合いはじめてからは一人風呂を心がけてくれ、と言われているらしいが、しかし。
「おっ前……! どうすんだ、あんな……卑猥な……灼空さんが気絶するぞ」
「息子の体に淫乱だのちんぽ狂いだの書かれた程度で気ぃ失うタマじゃねーよ」
「そうだな。気を失わずに俺のところに鬼の形相で血涙流しながら依頼に来るんだよ」
「それ中坊の時の話か?」
全然懲りた様子のない恋人に深いため息がもれ、ぐったりと力が抜ける。
あの写真が自作自演だとしても、これから一週間、もっと言えば今、俺はとんでもない落書きの施された恋人を抱くことになるのだ。
「……ハマんなかったか……」
「なんでハマると思ったんだよバカ!」
「だって、獄、拙僧にやらしぃこと言うのだぁいすきだろ」
最中、恋人を意地悪い言葉で責めるのが嫌いだと言ったら嘘になるが、度が過ぎれば萎える。身体に書くのはいかにも物扱いしているようで嫌悪感が先に立ってやはり萎える。
「……お前がやらしいなんて、わざわざ喧伝しなくていいだろ……」
「誰にも見せねぇよ? こんな恥ずかしいモン」
「恥ずかしいことした自覚はあんのか」
「獄だけだよ。こんな恥ずかしいモン見せんの」
「そんなこと言っても許さねえからな……」
やっぱダメか、と笑った恋人が椅子から降りると、ずるりとパンツを下着ごと脱いだ。
ぎょっとしていると背を向け、足を広げ、腰を低く落とすと、ぐ、と尻を突き出す。ぷりん、という音が聞こえてきそうな尻たぶには、彼氏専用、と大きな字で書かれていて、そのあわいで写真にも写っていた玩具を深々と咥え込んでいた。
「……写真じゃわかんねぇけど、拙僧のすけべまんこ……♡ 玩具以外は獄に操立ててんの……♡ だからはやく……っ♡♡ 拙僧の獄ちんぽ♡ 待ちまんこ……っ♡ もぉ……♡ 玩具ちんぽじゃ足りねぇの……っ♡♡♡」
はしたない宣言の後、足りない、と言われた玩具がぬ、ぬち、ぬぅ……と粘着質な音を立てながら押し出される。目に痛いほどのピンクの玩具はねっとりとした汁を纏っててらてらとぬめり、重力に負けて縦割れの秘裂を広げながら、ぼとりと落下した。
「ふ、うぅぅぅ……♡」
玩具が抜け、くぱ、くぽ、とわななく後腔からぬとぬととローションを垂らす恋人が、ぶるぶるとふるえる足を力ませる。
「……俺はゴムなんざしねぇぞ」
「ひとやはぁ♡ ごむきんし……♡」
はぁ……♡ と欲情を隠しもしない重たく甘ったるい吐息を喉奥からこぼし、両手で広げられた尻たぶがたわんで、彼氏専用、という文字が消えた。内太腿からちらちらと覗くおびただしい量の正の字に後腔からあふれたローションが滴り落ちる。
散々に誘い煽られ、痛んだ股間を解放すると、ぶるん! といきりたった逸物が飛び出した。む、と湧き上がる熱の気配に気づいたのか、目の前で開かれた後腔がひくひくん……っ♡ とふるえ、ゆるく勃ち上がった若茎が、我慢出来ない、とばかりにぴゅる……♡ と薄い精を吐き出して床を汚す。
「中も外も、ぜえんぶ、上書きしてやる……♡」
尻たぶを掴む手に自分の手を重ね、ふっくらと腫れた肉縁に逸物を擦りつけると、待ち焦がれた様子でちゅぱぁ……♡ と吸いついた。
2025/8/5
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