飾りであればどれほど
空却とていつも作務衣なわけではない。夏ともなればTシャツを着ていることもある。問題は冬で、ずいぶん寒くなるまで作務衣やTシャツの上からスカジャンを着ればいいだろうという雑さで、頼み込んで服を着てもらっているような有様だった。
そういう意味では夏は安心して見ていられた。洗えばすぐ乾くし、酷暑で名を馳せるナゴヤディビジョンとはいえ、さすがに上半身裸にはよっぽどでなければならなかった。
それももはや、遠い昔のことになるのだが。
「よりにもよって、なんで白なんざ着た?」
「にゃ、でぇ……?」
「ちょっと前にもそれだけ着るな、って言ったろ? もう忘れたか?」
「わしゅれて、にゃぃ、けろ……」
「じゃあなんでだ?」
「ちょと、でりゅ、らけ、らたからっ……」
「こんの……バカッ!」
白いTシャツは汗で張りつき、強烈な夏の日差しでもてんで焼けない白い肌を浮き立たせるだけだったらバカなどと罵らない。汗みどろの恋人は、散々獄が注意した場所を無防備に放置した上、汗で透かして晒してしまった。
白で貫通し、浮き上がると目立つ、獄が自分以外に見せたくない場所——乳首。
寺に前倒しの盆帰省をした職員からの土産を持って訪ねて、獄はそれはもうぎょっとしたのだ。
寺の門の前で来訪を待っていてくれた空却の意外な健気さにでもなく、獄待ちをする空却にカレシ? あのリーゼント? ラブラブだ! とウザ絡みする夏休みの小学生の群れにでもなく、白いTシャツをつんと押し上げ、汗でうっすらと透ける、空却の胸元の桃色の尖りと、それに気づいてちらちらと見ている一人か二人のエロガキにである。
自分を見つけるや否や、嬉しそうに破顔して呼びかけてくれる空却はかわいい。エロガキ含むガキ共を圧倒する輝く笑顔に何人かはどきりとした様子を隠せずにいて、心底から憐れみを向けてしまう。何せ、今この場を無遠慮に蹂躙する『恋人』としての空却は、全てが全て惜しみなく獄に捧げられたものだからだ。
いつもよりかわいらしく色気も香る笑顔も、いつもより高揚して楽しそうに弾む声も、白Tシャツなどという防御力皆無の服で全世界に公開してしまった淫靡な身体も。ガキ共には試食サービスの切れ端ていどにも与えられることはない。
汗で透けた乳首は色だけでなく形もくっきりと浮き上がっていて、夜毎に愛でて育てた成果が見て見て、と獄に迫っているような気すらする。だから両手を出せ、と空却に言って、その両手にどさどさと持っていた荷物を載せ、抱えるようにさせることで胸元を隠した。
空却は荷物持ちならそう言え、と気にしていなかったが、残っていたガキ共の何人かは露骨にがっかりとしていたのを見逃していない。俺の育てた乳首にタダ乗りするな、と言うことはないが、彼氏が来たから解散! と促す空却になおも絡むガキには、彼氏でござい、という目で嗤ってやったらすぐに散った。
居住区へと手土産を運んだ後、汗みどろだと指摘すると着替える、と空却が私室へと向かった。普段なら獄は客間で待機するのだが、今日はそうはいかない。
空却の後ろについて行くと、珍しいな、と言いながらも気にした様子はなく、上から覗くとやはり乳首はうっすらと透け、くっきりと形をあらわにしていた。
日中のお勤めで人気のない居住区の奥、都合の良すぎる部屋の配置に感謝しながら入ると、後ろからぎゅ、と抱きすくめた。空却は多少驚いたものの、いつもと違う事をするのに予感があったのか、汗でびしょびしょだしくせぇぞ、と言いながらも、満更でもなさそうにする。そのままうなじや首にくちづけながら、いつも布団が敷いてあるであろう空きスペースへと誘導し、座らせた。
「寺ではシねぇって……」
「わかってる。もうちょっと、触るだけだ」
寺は集団共同生活の場で、いかに公然の恋人とはいえ連れ込んでセックスなどはマナー違反。触れるだけのキスと抱きしめるくらいにとどめること、と決めている。だからもうちょっと、触るだけ、だ。
「ガキんちょに妬いた……?」
クスクス、と笑う空却は、ただ単に自分がガキ共に囲まれ、彼氏だなんだと囃されたことだけを気にしていると思っている。今更そんなことで妬くものか。
空却が老若男女にモテるのなど昔からの事で、最近は落ち着きも出てきていっそうモテている。代わりに二十歳を迎えてからは獄という恋人を公表して、恋愛対象として好いていたであろう連中は軒並み静かになった。
問題が解決すると解決策によって新たな問題が生じるのはままあることで、獄という恋人がいるという発表により、恋人がいる空却への興味が発生したのだ。だから最近ちょっと色っぽくなっただの、前より美人になっただの。そういうのはガキほど露骨で、それがさっきの濡れ透け乳首覗き見ガキへと繋がる。
助平なガキが何より悪いが、自分自身の注目度の高さにいつまでも無関心な空却も悪い。どれだけ言っても恋人である獄だから気にするだけ、たかだか乳首としか認識をしていないのだ。
獄と身体を重ねる前の空却ならそれでも良かったが、服で擦れても感じるどころか、乳首をかわいがってやると囁くだけで硬く尖らせて絶頂してしまうことすらある今の空却では甘すぎるとしか言えない。せめて厚手で色の濃いTシャツを着るか、インナーシャツを着るかしないと、性感帯どころか性器を濡れて透かした状態でぶらついているのと同じなのだ。
「妬いてない。お前のバカさ加減にキレてんだよ」
そして話は最初へと戻る。
「ちょっとだけだから? それでこの助平乳首、ガキ共に見せつけてたって?」
「みしぇちゅけ、て、にゃぃぃ……っ」
小さく助平でもない、と付け加えるも、背後からTシャツ越しに胸筋ごと持ち上げて摘んだ乳首は、ぴん、ぷるん、と指先ではじくたび、ぐ、むく、と硬く勃ち上がっていく。すっかり砕けた腰をもぞもぞと動かしているのは、サルエルパンツの下で首をもたげはじめた若茎がうずくからだろう。全く、どこか助平ではないのか。
「見せつけんだろ? こんな汗で濡れて透っけ透けの白Tシャツ……隠しもしねえで」
「せ、そぉのちくび、きにしゅ、の……ひとゃくれぇら、て……っ」
「そうじゃねえから言ってんだろうが……!」
あのガキ共の不躾な視線に本当に気づいていないのか。いないからこんな綺麗な面のまま東都でも無事だったのかもしれないが、その時はまだ空却の身体は何も知らなかった。いつまでも獄と重ねた夜をないものにされては困るのだ。
はしたないほど硬く勃起した乳首を、かぶさったTシャツで磨くようにして擦ると、ひ、ひ、と鼻と喉を引き攣らせてなき声を上げる。指でしっかり摘んでしまえる肉粒の側面を扱き、ふっくらとやわらかなてっぺんのくぼみを爪先でほじると、腰をびくんびくんっ、と上へ上へと突き立てた。
黒いサルエルパンツでは目立たないが、小さくぷし、ぷしゃぁ……とあわく極めた音がして、摘んだ乳首もぴくん……、ぴくん……、と硬くふくらんで脈打っている。
「ちょっと摘んで扱いただけで漏らしてイクような場所……! 他人がどう思ってようとお前は隠さないといけないだろうが……っ」
「ひぅ……っ」
絶頂に飲まれ、いやらしい粗相をしながらのたうつ恋人にどれだけの言葉が届いているかわからないが、いい加減懲りてもらわないとたまったもんじゃない。
あんな悪ガキ共、遠からず手が滑っただの、尖っていて気になっただのと調子のいい事を言って手を出すに決まっている。実際に似たような事態が起きて、空却があられもない声と媚態を晒そうものなら、当分の間——少なくともTシャツ一枚で出かけられるような気候の間——は、外に出したくない。灼空さんと話し合いの席を設けて書面を起こすのも想定している。
「……もう何度も言ってんだ。次、また次におんなじようなことがあってみろ……何してもイクような淫乱乳首にしてやるからな……っ」
「ひゃぅぅぅぅぅ……っ」
今以上にいやらしい乳首になったら嫌でも着るものに気を使うハメになる。切実な脅しもまじえた忠告は、ますます乳首を硬くしてのけ反り絶頂する恋人には睦言にしか聞こえなかったかもしれない。
ともあれ、二人して汗と汗以外の汁でぐちゃぐちゃになった片付けをして、それからもう一度、恋人と話し合おう。
願わくば今回の同じ、実力行使にならぬよう、腕の中でくったりとした未来の仏様に祈っておく。
2025/8/6
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