化けて出るなら夢現
ふ、ぅ、んっ……、という恋人の鼻にかかった甘いよがり声を横で聞かされながら、指一本動かせない。
そんな我慢ならない状況を作っているのは、やはり我慢ならない存在・幽霊だった。
恋人——空却と共に巻き込まれた騒動で、全く我慢ならないながらも認めざるを得なくなった存在・幽霊のことを、それでも獄は空却といなければ早々巻き込まれることのない事象と認識していた。もし巻き込まれたとて、基本的には幽霊を全く知覚も対処も出来ない獄は、横で専門家(見習い)の空却の解説を聞くばかりだったし、それで間に合っていたのだ。
そうやってたかをくくっていたらば、この我慢ならない(二乗)状況である。
盆が近づいて各々多忙が極まり、それでも会いたい、と、
どうにかこうにか逢瀬の間を作った二人は疲れ切っていた。
年々酷くなる暑さもあって、いっそうぐったりとしていた二人は、ベッドの上、本来の予定を変更して互いに疲労感に身を委ねて寝ることにした。
一応、触れるだけのくちづけはした。疲労困憊した体にしみわたるやわらかなくちびるの感触で火のついた獄が、ちゅ、ちゅ、と額から鼻先、頬、とくちびるをふらせると、空却もまぶたや頬、顎へとお返しをした。
余裕があればそのままより深い交わりへと向かう日もあるけれど、今日はそうではなかった。くすぐったい、と笑い合うと、そのまま眠りに落ちた。それくらい、疲れ切っていたのだ。
だから獄も最初は、いわゆる脳だけ起きていて体が眠った状態で起こる金縛りだと思っていた。
座して動かないわけではないが、概ね頭脳労働主体の仕事がピークの時、処理項目に追われながら眠ると陥りやすい金縛りに、獄は慣れていた。
経験から、すぐに動けるようになるだろうと思っていたもののしかし、普段と違うと徐々に気づき、冷や汗をかいた途端、隣からあられもない声が上がる。
仰向けに固定され、ぴくりともしない体に動け動けと念じ、ようやく目だけが横へと流せたが、歪な視界の端には許し難い光景が広がっていた。
夏用の薄いブランケットはどこへやら、寝巻き代わりのTシャツ短パンがひとりでに動き、空却の身体をあらわにしてしまう。上は鎖骨近く、下は太腿あたりまでまくられ、獄が秘しておきたい白く甘やかな肌が、常夜灯の下にさらされている。
空却は眠っているのか金縛りで動けないのかわからないが抵抗する様子はない。自然と——いつも抱いている時のように——強く大きくなっている声からすると、眠っている可能性が高そうだ。意識のある空却が悪態ひとつつかず、ただ素直にあえぐなどあり得ない。
「ぅ、んぅ……っ、ふぁ……、ぁぁ……っ」
空却は簡単にこんなかわいらしい声を出したりしない。散々に獄に噛みついて抱かせてやる、抱かせてやってもいいと言うような態度を取ったあげく、ようやくとろけだす。
問題は夢の中、意識のない空却に無体を働いている姿なき者・幽霊をどう始末したらいいかということだ。
今まさに頼りたいはずの専門家ときたら、どうやら幽霊に乳首をいじられているらしい。投げ出された手足はそのままなのに、剥き出しの乳首がくん、と引き伸ばされ、先っぽの粒がくにくにと前後にゆれている。同じように隠すもののなくなった若茎も、ぷるん、と首をもたげ、先走りをとぷとぷとこぼしていた。
「ふ、ぅ……、ひぅ……っ、ぁん……っ!」
恥じらいながらもうずきと切なさを隠せない声はどんどん大きくなっている。それで変態助平幽霊も調子に乗ったのか、しゅ、しゅ、と乳首を激しく扱きだしたらしい。
「あっ! あぁんっ……! や、ぁ……! ま、てぇ……ぃく、ぃく……っ、ゃぁ……ひ、とゃぁ……っ!」
聞き捨てならない固有名詞が聞こえたが、声が抑えられないくらい破廉恥な行為を強いられているということだ。そしてここまでされているのに四肢がぴくりとも動かないということは、空却も金縛りにあっている。
身体が自由ならば天を突くようにぴん、と勃ち上がった若茎をそのままになどしない。乳首を扱かれている空却は、放っておいたらはしたなく腰をふって、イキたい、イカせてほしい、とおねだりするのだ。
普段の苛烈さと閨での弱々しい仕草の落差がたまらなくそそるのに、今日は寝転がったまま、勃起した若茎がぴゅるる、ぴゅく、ぴゅぅぅ……と射精している。真っ白な腹へ散った白濁は、すぐ、ぷしゃ、しゃぁぁぁ……と、さらさらとした汁で上書きされていく。
「ひ、やぁ……、も、い、たかりゃぁ……、さわ、にゃ、てぇ……!」
息も絶え絶えの恋人はまだ夢現なのか、口だけでろくな抵抗もしないで潮まで吹かされている。舌足らずにべそをかきながらの粗相は、いつにない弱々しさに拍車がかかり、空却が自分以外に好き放題されている不快さを一瞬忘れさせた。
そんなむずがる幼子じみた声音にぞくぞくするのを咎めるように、今度は空却の両足が膝を抱える形に、ぐ、と持ち上げられる。Mの字を描くように開かれた足で見えないけれど、幽霊の眼前には獄のために拓かれ、ほぐされた秘所が広がっているはずだ。
カッ、と目の前が真っ赤に染まる。服を脱がすのも肌に触れるのも許す気はなかったけれども、正真正銘、獄にだけ許された場所に無遠慮に踏み込むのは全く許すことが出来ない。生命も器も無い幽霊とて生かしておくことが出来ない。
「ひぉゃ……? ……ちょ、まて、てぇ……っ! そこ、は……ん……ぅっ」
達した後のぼんやりとした様子を一転させ、空却が焦った声で待ったをかけると同時に、くちゅ、と、よく知っている音が鼓膜に届いた。
「へ、ま……? ひとゃ……っ、な、で……っ!」
くり返される無体で目が覚め、状況を把握したのだろう。動かない身体に残る甘い気だるさに混乱した空却の問いかけに答える者は誰もいない。
にちゅ、ちゅ、ちゅぷ……と浅瀬を行き来する水音と、顔を赤くしたり目を白黒させたり忙しい空却の隣で転げているしか出来ない歯痒さに、いい加減気が狂いそうだった。
真隣で恋人がわけのわからない存在に犯されているというのに、やめろと叫ぶことすら出来ない。
「まて、って……! ま、て……っ、ひぁ、ぁ、ふぁぁぁ……」
じゅぶん、と嫌な音がして、ふわふわと落ち着かなかった空却の目が見開かれ、すぐにゆるんだ口元からうだった嬌声が上がり、開いていた目もうっとりととける。
どうにかして避けたかった挿入を果たされてしまった。
噛み締められない奥歯と血涙の流せぬ目がじわじわと熱くなり、そんなのはいい、と思った刹那、それは起きた。
突然に、獄の体、というか逸物が、みっちりと肉厚で、ぬとぬととよくぬめる、熱い『何か』に包まれたのだ。
あまりにも急な刺激に、ぐ、と息が詰めて耐える。視線を自身の下腹部へとずらすと、たしかに、おそろしく硬く、鋭く、寝巻きを突き破らんばかりに逸物が勃起していた。
いくらもしないうちに、押し上げに負けた下着が寝巻きごとずり落ち、解放の喜びに満ちた逸物がぶるんっ、と天へと伸び上がる。が、見慣れた肉竿以外は見当たらない。
今も獄の逸物はぴったりハマる型におさめられたように、みちみちと隙間なく締めつけられ、くびれや裏筋、根っこをくすぐられているというのに。
見えない何かに搾り取られるような感覚と恋人の状況。似通ったところもあるそれらに、信じ難い仮説を思いついた。
はしたなく開かれた空却の足と尻が、上から何かに押し潰されるようにたわむ。わずかな隙間から粘ついた飛沫がベッドへと散り、ぢゅ、と泡立った音が響いた。
「あっ、ひとゃ……っ、ひぉゃぁ……!」
獄の名前を呼びながら硬く勃ち上がった乳首と、とぷとぷと潮混じりの精をもらす若茎をふるわせる空却は、一突きどころか一撫でで甘く達してしまう。
「あっ、ふぁっ、ぁん……っ、ぁっ! ふ、ぅ! あ……っ」
ぢゅぼぉっ、ぢゅぶ、ぢゅぅっ……激しくなっていく交接音に獄の逸物から出たものは混ざりようがないけれど、硬くそそり立つ逸物はたしかに愛撫され、どろどろと重たい先走りを管状のものへと放つようにしている。
一体全体、何がどうなってそうなったかわからないが、空却を犯す幽霊の逸物と獄の逸物は挿入と同時に繋がった。まるで理屈が通らないが、たとえ幽霊だろうと獄の逸物があつらえたようにぴったりとおさまる柔肉が早々転がっているとは思えない。挿入後の動きも全てが綺麗に重なっていて、馴染んだ——否、獄が拓き、育て、愛してきた身体でしかあり得ない反応をするのだ。
わけがわからないがそうとしか思えない。空却と出会ってから散々変なことに巻き込まれてきたのだから、これくらい起きても不思議じゃないとも思う。
ともあれ、意味不明な現象への怒りと不快感はまだあるものの、本当に本当の獄が慈悲を持てる最後の一線だけは踏み越えなかった幽霊を、恋人の父親に頼ってでも消滅させるのはやめた。
獄を包むのが空却だと感じるように、空却も中に挿入っているのが獄なのだと感じているからこそ、こうやって名前を呼んでくれているのだと今なら思える。
……もしかしなくとも挿入前の愛撫からずっと獄だと感じていたのだろうか。あの段階では獄の指先に乳首の感覚はなかったが、空却は獄しか知らないし害意には敏感だ。
だとすると幽霊の正体は——
「ふ、ぁ……っ、ぃく……っ、ひとゃ、せ、そぉ、も、ぃく……ぅっ……!」
陶然としながらの考え事を咎めるように、空却が深く重たい、胎の奥での絶頂を宣言する。ひ、ひ、と鼻を鳴らし、ぎゅ、と強くつむった目尻にたまった雫が決壊して、逸物がきゅぅ、と締めつけられた。根っこから先っぽへ、子種を根こそぎ搾りとるようなわななきに、子種袋もぐつぐつと湧き上がる。金縛りは相変わらず、声も出ず、手も足も動かないまま、逸物だけが屹立し、ほとんど白く濁った先走りを噴き出していた。
空却のむっちりとぬめる柔肉に扱かれながら、獄もまた、ぷりゅぷりゅとした肉壁を硬く尖った逸物の先っぽで抉り、でっぷりとした太竿で浅瀬のふくらみをくり返し撫でている。幽霊が動いているのに、逸物の感覚だけを共有している不可思議な状態はいつまで続くのか。かわいがり慣れた奥のやわい肉壁はもうすっかりとろとろで、種付をねだってちゅぅ、ちゅぱ、と張り出した先っぽにしゃぶりつく。
このまま射精したらこのおかしな現象も終わるのか——?
快感でうだった頭によぎる疑問は、声もなく絶頂を迎えた空却のびくびくとふるえる締めつけで消え失せ、そのままびゅるっ、びゅぅぅ……! と射精してしまった。
「……ひ、とゃ……」
ゆっくりとゆるんでいく中と解放感で落ち着きはじめた視界に、空却が幽霊へと微笑みかけるのが見える。
暗示や洗脳で騙されているとは思えない、獄にだけ向けられる笑顔はやがて、くちづけをする時のようにそっとくちびるを差し出した。
幽霊と空却のくちびるが重なった瞬間、味わい慣れたやわらかい熱がふにゃりと獄のくちびるに触れた。
「あれ、獄だったかんな」
「わかるように言え」
「おっ前なぁ! 自分のやったことだろーが!」
「俺は何もやってない」
一晩明け、まあまあの惨状を二人で片付けた後に空却からの説明が開かれた。リビングのダイニングテーブルで向かい合い、適当な軽食をつまみながらの不真面目な授業は、雑な説明で進みが悪い。
「獄だってわかってんだろ? ありゃ獄の欲求不満で出来た生霊だよ」
「……なんだその最悪の生霊は」
「取り憑き殺すみたいのに比べたら平和だろ」
「そりゃ……そう、だが……?」
にやにやと楽しそうに口角を上げる空却はそれはそれは愉快そうだが、獄からすればたまったもんではない。怒り、焦れた果ての謎の幽霊プレイが全て自分自身のせいなのだ。
薄々そうではないかと思っていても、いざそうだと言われると複雑にもなる。まあ、自分以外が空却とセックスをするよりはマシなのだが。
「んな気にすんなって。ため込んだモン、ぜーんぶ拙僧に向ける獄のこと、好きだぜ」
誰彼構わず欲望を発散するやつもいるんだぜ、と慰められながら、ちゅ、とくちづけをされる。
それはおかしな現象の最後にしたのと同じ感触だったけれど、同じならば直接触れる方がいい、とひとりごちた。
2025/8/9
BACK
作文TOP/総合TOP