だれも見てはならぬ
「なあ空却、お前が寺でしたがらないの……」
「ん?……ああ、そうだが」
先日の心霊騒動で寺生まれのKさんとしての力を発揮した恋人。
それ自体はいい。ただでさえむちゃくちゃなことをしでかすのだ。幽霊が見えてあげく話して成仏させたって、あいつならやるな……としか思わない。
一つ、もしかして……という疑念がわいたのだ。
幸い今日は天気がよく、昼間に時間があいていたから、庭の掃除をしているのを縁側で眺めながら話しかけた。
「やっぱ寺だからなぁ、他より集まりやすいんだわ」
アレが、と言うと、手首を前側に曲げていわゆるうらめしや、のポーズをとる。
本当にそうなのか。家族がいるから恥ずかしい、にしては過敏すぎる気がしたのだ。
「普段からよく出るのか?」
「そんなホイホイ出ねーよ。強い思いがあるだとか死んだ自覚がないだとか、そういう要素がないとまず『幽霊』として留まれないんだよ」
「そうか……」
「なんだよ獄、拙僧の私生活が見られてんじゃないか心配か?」
「当たり前だろ」
ニヤニヤとほうきを抱きしめる恋人が、悋気をからかおうとする。自分には見えない幽霊にすら妬いちゃうの?と言わんばかりのいたずらな顔。
だから、妬かれるのが面白くて、楽しくて、嬉しくてしょうがないらしい子供が喜ぶかと思って、素直に言ってやったのに、ひゅ、と息をのんで黙り込んでしまった。
「んな、拙僧に変なことしようなんてやつ、ほとんどいねーよ」
「ほとんどってことはたまにいるのか?」
「ごくたまに、だよ。それもパニック起こしてるやつとかで、拙僧に恨みがあって、なんてことねえから」
「……ないのか?」
「あるわけないだろ!」
「ふぅん……」
「信じてねえな銭ゲバ弁護士」
「悪たれ坊主が何ぬかすか」
実のところ恨まれる心配はしていない。
ここらでは老若男女に好かれる『くうこうくん』なのだ。良く思わない者がいないわけではないが、本人が全く意に介さず放置するからいないも同然なだけで。
むしろ、好かれることを心配している。
一度でも懐に入れて、友と、家族と呼ぶ相手に対しての、厳しくもあたたかい心根を、誰よりも知っているのは自分だ。
この前だってそうだった。
空却だけが声を聞いて、話をして、わかってやって。
感情は恐ろしい。悪意や害意、負の側面ばかりではない。好意や善意とて、行き過ぎれば凶器たりえるのだ。
目に見えて手で掴めるものならなんとでもしてみせる。けれども、見えず、聞こえず、触れないものをどうにかできるかはわからない。
信用も信頼もしている。腕っぷしにもメンタルにも定評がある恋人を守るなんて言う気もない。
これは、嫉妬というよりも恐れだ。
「俺に出来ることがあるなら言えよ」
「早々ねえけど、覚えといてやるわ」
ありがとな、と薄く微笑む顔は険もなく、年齢より幼くも、大人びても見える。
あまり話してもいられないと遠退く背がいつもより小さく見えて、つい、追いかけてしまった。
「どした」
「いや、なんとなく」
「もしかして霊の話してたから怖くなったか?」
「ちが……うこともないか……」
「マジかよ!」
ほうきを持つ手を止め、バカ笑いをしながら「ひとやくんはおばけがこわいんでちゅね〜」なんてからかう。
笑い顔だけでこんなに違う。無性にその全てが愛おしくて、普段なら腹が立つ態度にすら感じ入ってしまう。
けたけたと笑いながら、こちらの腰あたりをあやすように軽く叩くのは、本当に『おばけがこわい』わけではないとわかった上でだ。
存外に人をよく見て、よく気づく。
ああ、不安だ。
「『おばけがこわいひとやくん』はしょうがねえなあ……ってオイコラ」
「なんだ。慰めてくれんだろ」
「寺ではイヤだって話の最中だろうが」
「抱きしめる、はいいんだろ?」
「ケツは揉むんじゃねえ!」
両手をふさぐように抱きしめているから、じたばたしながら睨みつけるしかできない。
初めて抱いたときよりも丸くなった尻はやわらかく、触り心地もいい。逃れようともがくたび、ふにふにとした感触をわざと手のひらに押しつけているのかと思ってしまう。
「ホンットに、やめ……ってバカ!」
「痛……っ」
ぐ、と深く指を沈めて揉みしだいた拍子に、肉縁をあわく広げてしまった。それだけでびくびくとふるえてのけ反ったと思ったら、反動を利用して胸元に頭突きをされる。
わずかに覗く耳が羞恥で染まっていなければ、やり返していたところだ。そのままぐりぐりと額を押しつけて、顔を上げずにいるのは、とても見せられない顔をしているからだろう。
「……空却、今、霊ってのはいるのか?」
「いねえよ。言ったろ、そんなホイホイ出るもんじゃねえって」
「じゃあ顔上げろよ」
「……ヤダ」
「お前がどんな顔してても、見れるのは俺だけだろ」
「……もっとヤダ」
ぺたりと張りついたまま、いつになく小さな声で「だって絶対やらしいことする」とぼやかれた。
そこまでわかっているのにこんな危うい仕草をするーやっぱりなんにもわかっていないのかもしれない。
つむじにくちづけを落としながら、夜まで待ってやる、と告げれば、触れたところが熱を帯びた。
生霊、というのがいる。
あまりにも強すぎる情念が、本人すら意識しない間に形を成して、その感情の矛先へと憑くのだ。
そして恋人はよくそれらを連れている。
職業柄仕方ないことだろう。無敗というのは戦わなければ誇れない。その勲章を得るまでに、彼に負けたものがいなれば成立しないことなのだ。
本人は強いんだか鈍いんだか、それらに全く気づかない。いっそ同情したくなるほどに。
仕事での恨み辛みがほとんどとはいえ、ごくたまにいるのだ、身を焦がすような狂おしい恋慕を抱えたものが。
そのひとは本当にかわいそうだった。
苛烈で攻撃的なものも多いなか、そっと『そばにいられたらいい』というような儚げな雰囲気のひとだった。
昼間に寺で会ったときからずうっと憑いていて、抱きしめられた瞬間などひどく傷ついていたし、そのまま尻を揉みはじめたのには露骨に嫌そうにしていた。
そうなると矛先がこちらへも向く。
なんで、なんで、と問いかけ訴えるさまは胸を裂くような悲痛さをともなって、本当にあわれだ。
「ふ……ぁ……」
「考えごと、か?」
こんなときに?と責める目は、常とは違う熱をはらんでギラギラとして、よそ見を許さない。
縁側で一悶着したあと、素晴らしく整った外面で親父に挨拶をしたと思ったら、尻を揉んだのと同じ滑らかさでお持ち帰りをされた。
気づいたら見慣れた風呂にいて、体育座りで転がされ、呆けている間にてきぱきと準備をされてしまった。自分でやる、嫌だ、と言っても「たまにはさせろ」と聞いてくれず、一切手つかずの後腔の洗浄からねっとりと拓かれる。
はじめは単純な羞恥だったのが「いつもはどうやってるんだ?」だの「まだ準備なのに気持ちよくなってんのか?」だのといじわるを言われて、いやらしく暴かれた身体は感じるしかできなかった。
何度目かのローションを勢いよく注がれ、とじきらない縁がひくひくと動くたびにこぼれて、もう十分だと泣いてもやめてくれない。
結局、足を開いて、はしたなくふるえる場所を広げて、恥ずかしい言葉でおねだりをするまで『準備』をされた。
「自分でちんぽ、挿入れてくれ……っていったのに、なぁ?」
「ちがぅ……っ!ひとやが、いえってぇっ!」
今は縁側近くで抱きしめられたときのように向かい合った状態ー対面座位で、耳に直接流し込むようにいじわるを言われながらナカをくじられている。
風呂場はただでさえ色々な音が響く。ぱちゅぱちゅじゅぽじゅぽという淫靡な水音も普段よりクリアに、しかも大きく聴こえて、そんなことにまで感じてしまう。
思わずきゅう……と締めつけると、亀頭が奥の泣き所をちょうどぐり、とえぐる瞬間と重なって、さらにぎゅう、と深く締めつけ、二人してイッてしまった。
「……クソッ……!」
「ふぁっ……♡」
びゅうぅ……っと泣き所に注がれる精子に、奥の奥まで犯されたのだと突きつけられて、それにまた感じてしまう。
びゅ、びゅぅ、と一滴残らず種付けしようと揺さぶられるたび、こぼすまいと締めつけて、ナカがちんこの形になっていく。
自分のちんこといえば、ナカだけでイキまくっているせいでか、勃起しながらも射精はせず、こぷこぷと透明な我慢汁を延々とたらしていた。
「おなか、ひとやで、いっぱい……♡」
「おっまえなあ……!」
余さず注ぎきられ、ちんこで栓をされている状態でちゅこちゅことゆるやかに刺激される。
奥までちんこを挿入れて、ナカにいっぱい出して、なんていやらしいおねだりをそのまま実行されて、はずかしくて、きもちよくて、うれしくて、またナカのちんこをきゅんきゅんと食い締めてしまう。
「……覚悟しろよ?」
「あッ♡ちんこおっきくなったぁ……♡」
一度はやわらかくなったちんこを、ちゅうちゅうきゅうきゅう、子種を催促するように搾ると、ぐぐ……と熱と質量を取り戻した。
ふたたび張り出した亀頭に、やわな場所をぐんと突かれ、ナカがきゅんきゅんと蠕動する。
ささやかれた言葉は容赦も遠慮もしないという宣言で、ちんこを咥えこんだ肉縁を広げるように尻たぶを掴んだ。
「はぁんっ♡ひろげん、なぁっ♡」
「あのまま、ぶち込んでやりたかった」
服の上から軽く揉んで、たまたまちんぽを咥える口をく、と開いた。それだけですっかり挿入れられるような顔をして、なのに今はやらしいことをされたくないと言う。
もし霊なんてものがいるなら、いっそ見せつけてやりたい。もはや生まれもった性器よりも淫らに欲望を受けとめるそこを、犯し尽くすことを許されたのは自分だけなのだと。
そう告げる声と目が、獰猛な色を帯びて襲いかかる。
広げられたことでより深く突き立てられたちんこがナカを犯していく。一度イッて、敏感になったままの場所は、簡単に絶頂を重ねてしまう。
どちゅどちゅぶちゅぶちゅと激しい音を立ててくじられて、ふたたびナカに子種を注がれた。
「ひ、とゃ……♡すき♡すき♡あっ♡す、き……♡」
「俺もだよ……」
ひと突きされるだけでイクところに、ぴったりと当てた鈴口がびゅう、びゅる、びゅうぅ……と精を放つたび、きゅうきゅうとしゃぶっては、触られてもいないちんこから白濁まじりの淫液をとぷとぷともらす。
すき、すき、と甘くとろけた嬌声がふつりと途絶え、閉じられた金色にくちづけながらこたえた。
意識が甘くとける最中、それまでずぅっと見ていたそのひとが消えるのを感じた。
ひどい、けがわらしい、なんで、と静かに湿った恨みがましげな声が、ほんとうにかわいそうで、あわれで。
生霊なんてものを憑かせるほどに思うなら、身も世もなく恋焦がれるなら、とっとと思いを告げればよいのだ。
傷つくことを恐れて、変わることを嫌がって、近くにいられればいいなんて綺麗事すら貫けずーなんてかわいそうで、あわれなひとだろう。
そんな恋敵にもなれなかったひとに情事を見せつけるのは悪趣味かもしれないが、恋人が見えないのをいいことにうじうじぐだぐだと粘着されているのはウザったいのだ。
ほんとうにアマグニセンセはオモテになる。
まあ、すべて蹴散らすのだが。
2021/03/27
BACK
作文TOP/総合TOP