ボーダーラインは曖昧で

 ハロウィンとは菓子をカツアゲする日ではない——
 そう言うと見習い生臭クソ坊主は、あ? ちげぇの? と首を傾げた。

「西洋の盆みたいなもんだ。あの世とこの世の境があいまいになって、幽霊だの化け物だのが溢れかえる。だから仮装して仲間と思わせたり、菓子をやることで見逃してもらったりする……っていう祭なんだよ」
「ほぉ。じゃあ今日はとっくりおあとりーと? って言うといいですよって言われたんだが……こいつは菓子を貰うための符牒か?」
「Trick or Treat——お菓子をくれなきゃイタズラするぞ……ま、件の人外からの脅しだな」
「なるほど。だぁからヒトヤセンセってばしこたまお菓子持ってんだ」
 オオスでカツアゲ未遂にあった後、駄弁りながらぶらつく街はハロウィン一色で、それは俺の手荷物も隣の坊主も同じだった。
 Happy Halloweenと書かれた紙袋やら、ジャック・オー・ランタンを模したバスケットを首から下げていた空却の頭には、いかにも百円均一店で買ったような安っぽい悪魔の角がきらめく。
 ツンとつり上がった目尻と金色の眼を楽しげに細め、真珠色の犬歯を覗かせてニンマリと歪む口元は、容易く砕けそうなプラスチックの角すらそれっぽく見せる。
 けれどもこの悪魔めいた表情と仕草のクソガキが菓子にとどまらずその角すら他人に贈られるのは、魑魅魍魎と対峙する側だからなのだ。
「どういう意味だ」
「いっつも生きてんのも死んでんのも引き連れてっから」
「聞き捨てならないことを言ったな……?」
「ヤベーのは拙僧が引っ剥がしてるから問題ねーよ。ところで獄、とりっくおあとりっく!」
 勢いの良い不意打ちは肝心の台詞の言い間違いで不発に終わった。
 見てくれだけならば悪魔もかくやの仕上がりだというのに、生臭とはいえ中身が坊主すぎる。
「……それだと菓子がやれんぞ」
「あ? とりっくがイタズラで……?」
「トリック・オア・トリート」
「とりっくおあとりーと! よし! 菓子くれ!」
 満面の笑みを浮かべてこちらへ手を向ける様は年齢よりも幼く、そのくせ差し出された手のひらはきちんと大人のサイズだから調子が狂う。
「……ちなみに、この台詞を言って菓子を貰うイベントは今はほとんど子供がやるもんだからな」
 反論する間を与えず、良い子の空ちゃんにご褒美だとアソートパックの菓子を大盤振る舞いしてやれば、もう片手も差し出してしっかりと受け止めていた。
 不満を隠しもしない顔で睨まれたが知ったこっちゃない。
 こんなクソガキに一瞬でもグラついたなんて、墓場に入った後も絶対に言ってやるわけにはいかないのだから。

2025/10/31


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