罪に寝そべり罰を被る

 寒すぎて寝付けない。
 空調はもちろん寝具に寝巻き、灯りに飲料……快適な睡眠に必要なものはひと通り完備している恋人に有り得ない甘えたを乞われた。
 逢引部屋と揶揄される客間の向かい席、眉間を大義そうに押さえながら頭を垂れる姿に何言ってんだ、と一蹴したものの、このままでは繁忙期をしのげない、そうなると年明けまで会えないかもしれない、などとぬかすのだ。
 ちら、ちら、とこちらをうかがう鋼色の目は、繁忙期どころか仕事納めの算段まできちんと立てていそうな計画性に満ち満ちていて、つまるところ、有り得ないとわかっていても甘えられたらぐらりときてしまうのを見抜かれている。
 ず、と、ほどよいぬくさのはずの茶を啜ると、残念ながらひんやりとしつつあった。喉をつたう香り高い緑の葉を味わうよりも、その冷たさに腹の内が熱いのだと思い知らされて落ち着かない。
 仕方ないという体で父親に泊まりに行くと叫べば、迷惑をかけるんじゃないぞ、と見当違いな注意をされる。
 迷惑というならばかけられているのはむしろこちら側なのだが、恋人に甘えられるのを迷惑と言うのならばそんな『お付き合い』はやめた方がいい。
 おもてなし一式を下げると、台所にいた父親からネットいっぱいのみかんを渡された。滞在費代わりの手土産だというそれを受け取り客間に戻れば、恋人はすっかり来た時と同じ装いで、脱ぎ捨てたスカジャンをうやうやしく構えて待っていた。
「何してんだ?」
「今から温めとかないとな」
「不摂生で冷え性のオッサンと一緒にすんな」
 良い子に振る舞う恋人に身をゆだね、右、左と袖を通す。一瞬だけひやりとしたものの、すぐに体温が移ってほかほかとしはじめた。
 旧式とはいえエアコンの設置された客間は十分にあたたかい。簡単にほてる肌を手で扇ぐと、嫌でも寒々しい黒コートの恋人が目についた。
「ほれ」
 ご褒美の前払いにおいで、と両手を広げてやれば、少しかがんで頭ひとつ分大きな体が飛び込んでくる。
「坊主を肉布団にしようなんてとんだ罰当たりだぜ」
「拒んでないなら同罪だろ」
 布越しでもわかる互いの体温に笑い合いながら、離れるのをほんの少しだけ惜しんだ。

2025/11/29


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