夜の素肌が一番熱い

 見ていて寒い、と会うたびに空却の首だの耳だの手足だのをもこもことした布でくるむのは、自身はバッチリと防寒した上で洒落込んだいでたちをする男で、空却の恋人——獄であった。
 この前はマフラー、その前はイヤーマフ、手袋にレッグウォーマーにネックウォーマー……。
 貰った——というよりも無理矢理に着せられてなお装いを改めぬ空却に、獄がダメ押しとばかりに黒い毛足の長い犬のようなフード付きジャケットを肩にかけたのが今日だ。
 人も寒風もよく通る門前掃除を、春に見たのと同じ袖無し作務衣にスカジャンという格好でされるのが我慢ならない、と綺麗にセットした髪をふるわせて文句をつけられるのは何度目か。部屋に戻って増えた防寒具を数えれば二つではとてもきかない。
「そりゃあったけぇけどよぉ……」
「けどなんだ。前にやったモンを着ろって言っても着やしねぇで」
「すぅぐ熱くなんだよ! 今だってもうのぼせそうなんだからな!?」
 元より体温の高い空却には獄に着せられる防寒具は量も質も過剰で、急激に寒さが増してきたと言っても保温が効きすぎる。
 鍛錬を欠かさず健康で、動き回って代謝も良い空却にとって若干寒いぐらいがほどよく、『見ていて寒い』からとぐるぐる巻きにされるのは有難迷惑と言えた。
「拙僧だってバカじゃねぇ、寒ぃと思ったら着させてもらうっての」
「知ってるか、馬鹿は風邪を引かないんじゃなくて風邪に気づけないから馬鹿なんだと」
「拙僧が風邪なんざ引くかよ」
「大馬鹿じゃねえか」
 はあ……と深いため息をついた恋人は、勝手に肩にかけたジャケットのフードを勝手に持ち上げると、そのまま空却の頭にかぶせてしまう。
 オーバーサイズ気味のそれはしっとりと重たい生地なのもあって、丸い頭をすっぽりと覆うにとどまらず顔の鼻先あたりまでも綺麗に隠してしまった。
「何すんだよ!」
「寒くねえって言うなら、耳だの鼻だのガキみたいに真っ赤にしてんじゃねえ」
 そう言うと、子供にするように革手袋越しに両頬を撫でてさすられる。
 ほんのりと体温の移ったなめらかな感触と、嗅ぎ慣れた煙草と整髪料の匂いに思わず頬を擦りつけると、すぐに調子に乗る恋人の指が首の裏の方へと伸ばされた。
「なにすんだよ……」
「首は血管が集まってるから冷やさない方がいいんだよ」
 あたためるという大義名分を掲げた男の指先がこれ以上好き勝手しないよう、親父、と呟けば、ぴし、と止まったのち、ゆるゆると頬へと戻っていく。
「夜、会いに行ってやる」
 今日までの貢ぎ物を全部着ていくから好きにしろ、と付け加えてやれば、きちんと意味を理解した手が良い子に引っ込んでいった。
 あまり素直にされると今度は少し寒いのだが、こればっかりは絶対に言ってやらないことにする。

2025/11/15


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