育てて、眺めて、愛でて、そして
空厳寺には四季折々の花が咲く。
桜もその筆頭で、門の近くで咲くのに惹かれて参拝客が増えるのだ。
「……で、まぁ、こうなんだわ」
日中はいい、人目もある。夕方も。夜もなんとか。ただ夜中はどうにもならないことが多い。
馬鹿騒ぎをする輩は気づいてとっちめられるが、目立たず一人で飲まれたりするとどうにもならない。
酔い潰れて死なれるよりはマシ——とは言うものの、門を開けるなり酒の缶だのツマミの残骸だのが転がっているのはげんなりするのだろう。
「そりゃお疲れさん」
満開だからと招かれ、ちょうど仕事も片付いたから午後休を取ってバイクでひとっ走りして訪ねるなり、花見の暗部に触れてしまった。
「ウチの桜で飲むなり食うなり好きにすりゃいいけどよぉ、ゴミは持って帰れってんだ」
「そういうやつらは元から飲み食いして騒ぐのが目的で、花なんか見ちゃいないんだよ。花より団子ってやつだな」
「はぁ〜……せめて花を見ろよ……」
ため息をつきながらゴミ袋を担ぐ背の後ろで桜の花びらが舞い散った。
あわい桃色に、鮮やかな赤毛と白い肌、黒い作務衣がくっきりと浮き上がる。
意外な姿勢の良さに目を奪われて間が空いたのを、何事もないかのように桜を見上げて話を続けた。
「まあ……これだけ見事なんだ、一人くらいは花を見てるだろうよ」
「だな。そんでゴミ持って帰って、お布施の一つでもしてくれりゃ最高だぜ」
「要求が増えてんぞ生臭坊主見習い」
ヒャハハ、と笑いながら寺内のゴミ置き場へと向かう背を見送ると、急に振り返った金の瞳がこちらの目を射抜く。
「獄は、花と拙僧、どっちを見に来た?」
きらきらと春の陽にきらめく眼差しが眩しい。
よく通る声の問いかけにまばらにいた他の参拝客の視線も刺さる。
答えあぐねていると、してやったりと目を細めて走り出した。
残念ながら、お前だって俺しか見てなかっただろ! と返すには恥を知っている大人なのだ。
ざわつく野次馬をポーカーフェイスでいなし、二人きり、互いしか目に入らない状況をどう作るかを考えていると、怖いもの知らずの子供が帰ってきた。
「で?」
「花に決まってんだろ、クソガキ」
2026/4/18
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