その男は誇りと矜持と自負で出来ている
DRBファイナリストともなると知らぬ間にグッズが作られて販売されている。
久方ぶりの逢瀬こと恋人宅でのおうちデートを堪能していると、隣でスマホをいじくっていた家主が舌を打った。
「また監修した覚えのねぇグッズが出てやがる……!」
男の人権など風前の灯と化した国で吠える恋人は、デフォルメグッズの類——特にぬいぐるみを目の敵にしている。
「あー……獄と会わねぇ間にそんなんあったな」
「お前……っ」
「しょうがねぇだろ、絶対あのクズを後悔させるって息巻いてる所に水さすような無粋、拙僧にゃ出来なかったんだよ」
可愛らしいぬいぐるみなど比ではない怒りを激らせる、いじめという名の各種犯罪行為の温床を掃討する時の恋人に余計な茶々を入れなくなかった。
殊勝なそぶりでそう告げると、ぐ、と息をのんで押し黙る。ついでに言えば、恐らく話を振られても『そんなのは後だ』と言ったであろう自分も想像出来たのだろう。
発売してしまったものを今更止めるのは難しい、というか不備でもない限りは不可能で、ましてや中王区からの公式グッズだ。下郎が後から囀るな、と手落ちを責められて終わる。
「なぁにがそんなヤなんだよ」
「前に発売した連中のぬいぐるみが何されてるのか見たことがないのか……!?」
「あんま興味ねぇ」
自分自身を模したものがどう扱われようと、それは模したものでしかない。
概ねは『推し』と呼んで大事にされているようだから、特に何の文句もないのだが、己の美学の強い男にはいつものように我慢ならないことがあるらしい。
「お前と十四はそうだろうよ。動物の着ぐるみ着せられようが、リボンとレースまみれの大ドレス着せられようが気にならないだろうよ」
「ヒャハ! そりゃ獄は我慢ならねぇだろうなぁ」
十四はビジュアルへのこだわりが強いのだが、ぬいぐるみに関してはアマンダに乗れちゃうっす〜! と大喜びしていた。曰く「ぬいぐるみの自分、可愛すぎないっすか……?」だそうで。
当然のように自身と獄、空却のぬいぐるみをより可愛らしく飾り、連れ歩く準備をするとSNSで情報収集をはじめ、近隣のショップリストを作り、通販サイトを睨めっこしていた。
要するに美しいでも綺麗でも可愛いでもビジュアルが十四の中で定めた基準以上ならば良しとするのだ。
「デフォルメされているとはいえ! 俺のぬいぐるみは髭が生えてんだぞ……!!」
「たかがぬいぐるみに大袈裟すぎんだろ」
「……俺には我慢ならないもんが二つある……一つ、税抜き価格で何円均一と名乗る店……二つ、髭の生えた男が可愛らしく装うことだ……!」
「だぁから、たかがぬいぐるみに大袈裟すぎんだろ」
「全身つるっつるのガキは黙ってな」
これである。
ビジュアルが良ければオッケーの十四に対し、ヒトヤクンはカッコよくないとイヤなのだ。
デフォルメグッズはこれまでも出ているが多少のコスプレなら満更でもない時があるものの、可愛らしいキャラクターグッズ会社とのコラボでは「三十路男に猫耳……」とげんなりしていた。
そんな男が自身を模したぬいぐるみが猫耳どころではない格好をさせられると想像したら——まぁ、こうもなるだろう。
「……でもなぁ、獄」
「なんだ」
「その全身つるっつるのガキが冗談で着てきたエロ下着を、二度と履けねぇくらいドロッドロにした後に言われてもなんだよなぁ……」
ごろりと寝そべるベッドの上はまだあらぬ体液やら何やらで汚れていて、驚安の殿堂で爆笑しながら買ったほとんど紐の下着はじっとりとした塊と化して足元に転げている。
「……お前はぬいぐるみじゃないだろ?」
「拙僧のエロ下着に喜んでるヤツがてめぇのぬいぐるみ可愛くされるくれぇで駄々こねんなっつってんだよ」
寛容になれ、と剥き出しの脇腹をつつけば、ぐ、と呻き、たいそう渋々に、努力する、とつぶやいた。
後日、十四によってきらびやかに飾られた自分のぬいぐるみの写真を何十枚と送りつけられた獄が、我慢ならないあまりぬい活アカウントを立ち上げることになるのは、獄自身もまだ知らない。
2025/12/6
BACK
作文TOP/総合TOP