馬鹿は死ぬまで踊るのさ
自宅へと向かう道すがら、大量のチキンにしてもホールのケーキにしてもとっても食いきれないだろう、と言ったら「十四もいんのに?」と首を傾げられた。
「どう思う」
「どうもこうもないと思うっす。自分含めた三人でクリパしたいだけっすよ」
空却が選んだケーキは砂糖で出来たサンタの飾りが乗ったショートケーキタイプで、それはそれは絵に描いたような『クリスマスケーキ』だった。
さんたが欲しいと言う空却の目がぎらぎらではなくきらきらとして見えて、思わぬ眩しさに目を背けた隙に十四がケーキを綺麗に切り分けてくれていた。
さほど大きくはないホールケーキは通常の一ピースよりは大きいものの食べ切れないほどではない。
それでもチキンも食べたのにケーキもぺろりと食べ切った空却と十四を尻目に、獄は一口二口あたりでフォークを止めてしまった。
だらしねぇと笑いながらもラップをして冷蔵庫へとしまってくれた空却が、適当につまむ物を見繕うと言う隙をついて十四に尋ねる。
そうして得られた答えは『家族』としては大満足、『恋人』としてはマジ無し、というものだった。
「……別に、期待なんざしてないんだが……」
「もしかして、自分お邪魔っすか……?」
「ああ違う……そういう意味じゃない。三人でいるのが嫌なわけじゃないんだよ」
「あー……空却さん、家族第一主義っすもんね」
青い顔をする十四の誤解をとき、決して今が不満なわけではないと訴える。
そう、別に、この歳の離れた『家族』と共に過ごすのが嫌なのではない。
ただ勝手にクリスマスは『恋人』と過ごすものだと——これまでの経験から——思い込んでいたのだ。
控えめに絡められた指先は明らかに『恋人』としての甘やかさを纏い、他人の誕生日だろうと首を傾げるばかりだった『恋人』とついに世に言うクリスマスデートをしているのだと自然と胸を高鳴らせた。
結果としては『恋人』の時間はクリスマスデートだけで、クリスマスパーティーは『家族』の時間だったのだが——
落差に思わず自嘲気味な息を吐けば、どたどたとキッチンから足音が響く。
もうすぐつれない『恋人』がほとんど初めてのクリスマスパーティーにはしゃぐ『家族』の顔をして戻ってくるのだろう。
その最後のわずかな隙間、十四がこそりと耳元で囁いた。
「……自分、本当は家族でパーティーの予定だったんすけど、空却さんに来い! って急に言われたんすよ……」
本当は獄さんと二人きりでパーティーするつもりだったんじゃないすか?
成長してもいまだ気まぐれで滅茶苦茶な行動に定評のあるクソガキだ。憶測の域を出ない言葉にどうだか、と目だけで返事をすると、スナック菓子を中心とした軽食を抱えた空却がテーブルにそれらを乱暴に置いた。
「なぁんかコソコソ話してたろ? 拙僧も混ぜろよ」
「空却さんがクリパ楽しそうで良かったっすね! って話っすよ」
「あぁ、楽しいぜ! 他所様の救世主様の御誕生日会っての忘れちまってた」
「『家族』で集まるいい名目になるだろ?」
あれだけ食べたのにまだ袋菓子を開ける若者二人にかつてを重ねて笑っていると、いつか見たきょとん、という顔をして空却が首を傾げる。
「『恋人』とも、だろ?」
今度は顔を真っ赤にしてきゃー! と騒ぐ十四と、何かおかしな事を言ったかと頭にはてなを浮かべる空却に、居た堪れなさまで蘇ってきた。
復活祭は春だろうとひとりごちながら、色気も素気もないと思っていた『恋人』が見せた好意の尻尾に期待が湧き上がる。
どくどくとうるさい心臓を宥めながら、必死で頭の中を探っても、やっぱりこの居た堪れなさのやり過ごし方は見つけられなかったけれど。
2026/1/12
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