前・現・来世で大正解

「拙僧のツラした別人と、別人のツラした拙僧だったら、獄はどっちを取る?」
「はあ?」

 風呂上がりの髪をタオルで乱暴に拭きながら、はた、と思いついたように見開かれた金眼がこちらを捕らえた。
 いきなり何を言い出すかと呆けた声を出せば、至極真面目な問いだといっそう眼光が鋭くなる。
 曰く——漫画でよくある生まれ変わりは都合よく似た外見や名前になりすぎている。もちろんそうでないものもあるが、本来の輪廻転生は人間になれるかすらもわからないのに——

「だから拙僧が喋れもしない野花になる可能性もゼロじゃねぇってことだが」
「それで? 何故かお前と確信出来る野花とお前と瓜二つの別人のどっちを選ぶかって?」
「そーいうこと」
「……その時の俺が今の記憶を持ってると仮定してだろ?」
「じゃねぇと話になんねぇな」
「なら聞くまでもないだろ。お前はどう考えても野っ原なんぞで健気に咲くより、コンクリートをブチ破って太々しく生えそうだがな」
 湿ったタオルをいつまでも首から下げているのを奪い取り、手早く洗面所へ向かうと洗濯機へと放り込んだ。
 だいぶ暖かくなってきたが春の嵐で天気は恋人と同じに落ち着きがない。雨夜は存外冷えるのに、わざわざ風邪を引くような真似をしてまでする質問でもなかったろうに。
 居間へ戻ると同じ場所で恋人が突っ立ていて、ほんの少しだけ俯いた顔からは表情が読み取れない。
「どうした空却、明日はいつもどおりに出るんだろ?」
「……予定変更だ」
「別に俺はかまわんが……」
「何言ってんだ! テメェも一緒に寝んだよ!」
「は? 俺は仕事を」
「うるせぇ! 拙僧はヤんねぇと気がすまねぇんだよ!」
「急になんだ!? 週末にって言ってたろ」
「だぁから! 予定変更だ!」
 そうして言い出したら聞かないクソガキに寝室まで連れ込まれ、抵抗虚しくひん剥かれたら、あっという間にその気になって、空が白む頃には無数の使用済みのゴムが散らばっていたのだが——
 いつになく素直で甘えたな様子で、名前と好き、を連呼されながら抱くのは、悪くないどころか大変に良かったとは言っておく。

2026/4/10


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