未必のこい

 東京から帰ってきたクソガキは、たいして変わった様子もないクセに妙な色気を出すようになった。
 バカでうるさい、むちゃくちゃをするクソガキだが、悪いやつではない。顔だって黙っていればそこそこに見える。
 東京に行って耳の穴が増えたように、言いもしないが隠しもしない秘密もできたのだろう。
 口さがない人々の貶め、嘲る、聞き苦しい言葉を煽るように振る舞うのに問題がないとは言わないが。

「獄はいいのかよ」
「なにがだ」
「ベンゴシセンセエが拙僧みたいな不良坊主と付き合って」
「言い方に含みを持たせるな」

 勝手に事務所に押しかけてくつろがれるのにも慣れた。
 ソファに転がって、スマホをいじったり雑誌を読んだりしている。人が働いているのにいい御身分だことだ。
 さすがに来客と鉢合わせるのはまずいから事務所の個人部屋にいろと言ったら、存外大人しく従った。
 それからたびたび居座られているわけだが。

「親父からの縁あってのオツキアイ、はウソじゃねえだろ」
「あきらかに違う意味のオツキアイ、を匂わせといて何たわけたことぬかしてんだ」
「……変なこと言われんぞ」
「事実無根だろうが。勝負にもならん」
「じゃあ、既成事実にスるか?」

 いつにない話題をふると思ったら、ソファから起き上がり、こちらに向かってきていた。
 さして広くない部屋のデスクとの距離などたかが知れている。
 猫のようにしなやかな歩みは音もなく、あっという間に椅子に腰掛けた上に乗っかってきた。

「聞いてんだろ、拙僧のやらしいウワサ」
「頼んでねえのに聞かされんだよ」
「東京で女も男もとっかえひっかえして、名古屋戻ったら馴染みの弁護士誑かしてるってヤツ?」
「パパ活呼ばわりされとるわ。そろそろまとめて片付ける」
「おお怖い」

 対面座位を思わせる、わざとらしい動きで首に両手を回してしなだれかかる。
 陶然とした面持ちで流される視線は、甘くとろけて見えた。
 切なげに細められた目尻、うっそりと上がったくちびるの隙間からのぞく真珠色の歯と、赤々とした舌。
 意識的に醸し出された色香のなんと濃いこと。

「とっととどけ」
「なんだよ、ウワサの真相たしかめねえの?」
「……いいのか?」
「いいぜ?」

 にい、と微笑む顔は、匂い立つような色気に反して幼い。
 本当に、バカな子供だ。
 椅子の肘掛けに置いていた両手を腰へと回す。
 するすると服の上からなぞる身体は、鍛えられているがまだまだ未成熟で、触れたさきから熱をおびる。
 そのまま下へとおろした手で尻を掴む。小さく、わずかにやわいそこを揉むとふ、と息を飲んだ。

「とっかえひっかえだったんだろ?」
「……っ」
「ここも、使ってんだろ?」

 両側から掴んだ尻たぶを軽く割り開く。
 服越しに暴かれるのに耐えかねてか、俯いたうなじは真っ赤で、腕どころか全身が小刻みに震えている。
 こんな反応、白も白、真っ白だ。

「……わかってるから、バカなマネするな」

 ぱ、と手を離して、ぎゅう、と抱きついたままの背中を撫でる。
 灸を据えすぎたとも思うが、大人を試すようなことをするバカガキが悪い。
 ただ、黙ったまま縋りつく姿は年齢より幼く見えて、ああこれこそ事案だ、と頭を抱えた。



 数日後、無敗の冠を戴く大人の言う『勝負にもならない』は『一方的な搾取』という意味なのだと、腕の中の子供は知ることになる。

2021/04/02


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