玉座の奴婢共
起き上がるのがおっくうになるほど濃密な夜を過ごした翌朝は、たいてい綺麗さっぱりとしたもので、痕跡なんて体に残る甘いしびれくらいーだったのに。
桜も満開になる頃、朝方の肌寒さに目覚めてすぐ可愛らしい寝顔があって、ふ、と笑いがもれた。可愛い、なんて言ったら機嫌を損ねた恋人にひどいめにあうが、他所行きに装った顔でもなく、欲望を剥き出しにした顔でもなく、なにもかも取り払った素の顔の穏やかさは上手に隠された心根をうつすようで愛おしい。情の深い男の強くやわらかな芯の部分を間近で堪能する特権を実に久々に行使した。
空却がいかに今どき子供でもしない規則正しい早寝早起きをしていて、日々の修行で頑健な体をしていても、いまだに恋人の手練手管には敵わない。むしろ一から十まで拓いて仕込んで花開かせ、周囲が呆れて叱るほど甘く香るようにした相手に勝てる日など来るのか。日に日にもっともっとと溺れて、これ以上などないと思った快感は底無しに深くなる。
思い出すだけで胎が余韻でぐぅ、とうずいて、寒くもない背がぞくぞくとふるえた。きゅう、きゅん、とはしたなくないても、閉じきらぬ後腔からこぼれ落ちるものはない。ぎゅう、と腹のあたりを押さえても、着慣れたスウェットの感触が手に触れるだけだ。ほとんど眠りに落ちた体を丹念に洗い清められた記憶がぼんやりとあって、優しく残滓を掻き出す指を締めつけて困らせた。風呂場に響くぬちぬちという音にすら煽られて、ゃ、ゃぁ、とうわ言をこぼしながらナカでイキ続け、ごぽりと奥から子種があふれ出るのについに意識を飛ばすほどイッて……記憶が蘇った今、じわじわと羞恥がわき上がる。
ベッドの上でもさんざんイッたのに、後片付けですら恥ずかしくなるほどイッて、あげく昨夜の名残で体がひくひくとおねだりをはじめてしまった。露骨に熱を帯びだした肉縁をもういいだろう、と心の中で叱っても、でもでもだってと駄々をこねる。こんな聞かん坊な体じゃなかった。性欲は普通くらいで、それも修行だ喧嘩だで薄らいでいたのに、こんな簡単に我慢ができなくなって。
せっかく綺麗にしてくれたのに、切なくうずく体が言うことをきかない。限界まで搾り取られたと思うのに、またぐらの間でイチモツが首をもたげはじめた。荒くなる呼吸に合わせて、前も後もひくついて止まらない。こらえるようにブランケットを巻き込んでまるまると、昨日とは違うシーツが頬にあたった。このままだと服だけでなく寝床も汚してしまう。なのに頬を撫でる清潔な布の感触にすら肌が粟立つ。
寝顔を見ていただけなのに淫らに燃え上がる体が憎い。裸の耳が擦れてくすぐったくて、それすら胎をかき回し、足で挟み込んだイチモツがぎゅんと膨らむ。たらたらと先走りがあふれ出しているのがわかって、堰き止めたいのに皮膚が全部性感帯になったように気持ちがいい。頬も耳も、頭のてっぺんから爪先まで、ブランケットに包まれたままごろごろと悶えてしまう。しかも全て恋人の香りがするのだ。
感じたらいけないと思うほど、強く匂いを意識してしまう。昼とも外とも違う、夜の家ーベッドの中でしか嗅ぐことのない香りにいともたやすく興奮して、下半身が嫌な湿り方をする。壊れた蛇口みたいにたらたらとこぼれ続ける先走りと、きゅんきゅんといやらしく脈打つ胎に、頭がぼうっとしてしまう。たぶんもう甘くやわくイッている。みじろぎしただけでくちゅくちゅとねばついた音がして、触れてもいない肉縁がくぱくぱと開閉した。これでなんでもない、と言うやつも、信じるやつもいない。
「おい」
急に声をかけられて、びくんと体が跳ねた。そうだ、勢いでブランケットを巻き取ったけれど、二人で共有しているものなのだ。そんなものを引っ張って、ぐしゃぐしゃと荒らしたら起きてしまうなんてわかりきっているのに。心臓がどくどくとうるさくて、体はじんじんと熱い。頭はすっかり馬鹿になって、なんと言えばいいかわからないまま、はくはくと息だけが口からもれる。
「起きてんだろ……」
全部持ってくんじゃない、と伸ばされた腕がブランケットの隙間を掴んだ。いま、暴かれたら、全部、ぜんぶバレてしまう。昨日あんなに、みっともないくらいイッて、このベッドだって、着ていた服だってぐしゃぐしゃにして、それなのにまた。剥ぎとろうとする手に抵抗して、さらにまるまって小さくなる。乱暴に引かれて擦れるのすら体は快感に変換してしまう。
「おいこら空却」
焦れた恋人がついに強行突破に出た。起き上がった音がして気配が近くなる。反射的にぎゅ、と身を縮めると、わずかな隙間に手をかけられた。怒っている声ではない。まだ寝ぼけたようにふわふわとしていて、夜の余韻を惜しんで抱き込みたいのだろう。あんなに奥深く、離れ難いほど強く繋がって、体がまだ寂しげにないている。今すぐ抱きしめたいのはおんなじなのに、貪欲な体がそれでは足りないと暴れだす。
「この悪戯坊主……っ」
普段ならいざしらず、快楽で茹で上がった状態ではまともな抵抗はできない。がば、と開かれた先、子供のたわむれに付き合ってやったと言わんばかりの大人気ない顔が、だんだんと眉をひそめていく。ブランケットを剥かれた拍子に転がって、隠しきれずに目と目が合った瞬間、見つかってしまった。熱と欲を持て余す体を。
やだ、というのはベッドでの恋人の常套句で、気持ちよすぎていっぱいいっぱいになると舌足らずにそうなきだす。強い精神の防波堤、支柱、砦ー乱暴に崩そうと害意を持って攻撃すれば堅牢そのものの心は、ただただ純粋に、ほんの少し……そこそこ不埒に愛でれば、いともたやすくやわくとける。や、やぁ、とすっかりかわいくなきだした恋人は、遠くないうちにもっと素直にかわいくなってしまうだろう。
「や、じゃないだろ?」
背後から両腕を封じるように抱きしめた身体は、敏感に跳ねるのにふにゃふにゃで、裸の耳を食みながらささやけば、ふうふうと息を吐いて股間を濡らす。あんなに抱いたのに、なのか、あんなに抱いたから、なのか。小さくなって隠そうとするのを足を絡めて広げれば、ばか、やだ、と悪い言葉で駄々をこねる。
「ゃあだ、よ……っ」
「きもちぃ〜ってやぁらしいおもらししてんのに?」
はしたなく盛り上がり、ぐっしょりとした場所をじぃ、と見つめれば、食んだ耳が赤くなった。じたじたと暴れて閉じようとする足すら羞恥で熱い。負けん気の強い恋人は意地悪な言動で火がつくのか、股間に新たに濃く広がるシミを作ってびくびくとふるえた。
「ほら、まぁたした」
「……ッば、か……!」
髪の毛と同じに赤い耳は昨日を思い出したのか、あんなに抱いたのに足りなかったのか、寂しくさせて悪かった、とくちづけながら流し込む。ちがぅ、やだ、もぅぃぃ、と喘ぐ声は常にない頼りなさで、素直になるまでかわいがりたくて仕方ない。かわいくてかわいくない恋人を、もっとかわいくしてしまいたくて、しとどに泣く股間に負けじと主張する胸元もきゅ、と掴めば、よりいっそう強く身体が跳ねた。
「ゃぁ……っ」
「なにがゃぁなんだ?」
「ちく、びぃっ、ゃ、ぁっ……」
ゃあ、ゃ、やぁ……と弱々しく首を振りながら身体をふるわす恋人は絶頂寸前で、いやだいやだと言う乳首を服の上から撫でるだけで達してしまう。それもさんざん拓いて性感帯にした胎でイッて、本来の性器からはだくだくと先走りをこぼすばかりになっている。昨夜もこの果てのない快感を味わい続けた身体は、抜け出しきれないまままた胎でイキ続けることを恐れているのだろう。
馬鹿な子ほどかわいいのは世の常で、過ぎた快楽を受け入れてトンでしまった方がよほど楽なのにそうしない。頑なに流されまいとするから余計にそそるのに、わかっているのかいないのか。ぷくりと膨らんだ乳首はスウェットの生地でもしっかりと浮き上がり、簡単にさきっぽを摘んでいじめてしまえる。硬くしこったそこをさらに尖らすようにしゅこしゅことしごけば、無理矢理に押さえた足がぶるぶるとふるえ、淫らなシミが広がった。
「ぁ、ゃう……」
ツンと勃ちあがった胸元を爪先ではじき、擦るたび、びしょびしょに濡れた股間も重く湿る。快感で茹で上がりぼぅっとしているのか、赤ん坊のように舌足らずになった恋人は、すっかりこちらに身を委ねきっていた。完全に力が抜けて隠すことなく開いた足が何よりの証拠で、一人で耐えてため込んだ分、限界が近いのだろう。
後ろからで顔が見えないのが残念だが、きっと蜂蜜色の目はとろけ、眉も困りきった子のように垂れ、くちびるなど制御をなくしたよだれでぬとぬととぬめっているはずだ。いつもの凛々しさと苛烈さは淫らな熱と欲に蹂躙されて彼方へといってしまった。身も心も燃やす色と情によるべなく惑う子に、自分だけしかいないと触れるたび、ひどく重い罪を犯すような気持ちになる。ここは寝台で法廷ではなく、それでもこの時は恋人の赦しが生んでいる。
ゆるすことは愛の行いで、恋人が家族や友と呼ぶ者には途方もない寛容と包容が与えられている。その中でも一等特別な場所に据えられ、あらんかぎりのものを与えられている家族で恋人の自分はたまに怖くなるのだ。一回り小さな身体に、一回り以上歳下の子供にどこまで甘えていいのか。ゆるされるままにすがりついて、暴いて、貪って、愛してしまう。きっと恋人は馬鹿なことを、と笑って抱きしめてくちづけてくれるけれど。
"通りすがりのお坊さん"は結局、傍若無人にはなりきれない。だから、ヤンチャで馬鹿な悪ガキのまま、大人よりもずっと大人のように全てを差し伸べて寄り添う子を、幼くやわくとろかすのが好きだ。よく見えてしまう聡く広い目が自分だけを見るように、自分以外なにも考えられないように。
「やっ……ぁ……っ」
無心でいじり続けた両胸のとがりを下からすくい上げるように指と指で挟んできゅぅ、と閉じ込める。布地ごとぷるぷると揺さぶると、違う感触で擦れるのがよかったのか、やぁ、やぁぁ、とぐずりながらイッてしまう。ずっしりと色の変わった下腹部にも、勃起したまま射精を忘れた性器がくっきりと浮き上がっている。
「ちんこでイキたいか?」
苦しいだろう、と思ってだった。ところが、ぶんぶんと強く首を横に振って、いい、とだけ言う。ぴゅるぴゅると先走りを漏らす亀頭も鈴口もぴっちりと張り付いてわかってしまうほどなのに。不思議に思っていると、急にびくん、と抱きしめた身体が大きくふるえた。
「ひとや……っ」
切なげな声で呼ばれてどきりとして、乳首をぎゅう、と締めつけてしまう。余計に跳ねた身体はさらにびくびくとして、は、と息を吐き出すと腰を揺らした。もしや、と視線を下げると、ぷりんと膨れた鈴口から白濁がにじみ、力をなくしてずり、と白い線を描いて垂れ落ちる。
粗相に粗相を重ねた恋人の姿にたまらず唾を飲み下すと、思ったより大きな音になってしまったらしい。同時にひく、と揺れた小さな頭が少しだけうつむくと、ぽろりと涙をこぼした。羞恥か快感かその両方か。透明な雫でうるむ金色は想像しただけで胸をゆさぶる。
「ちんこでイケたなぁ……」
「はぁ……ぅ、あ……」
良い子だ、かわいい、気持ちよかったな、とあやしながら耳たぶにくちづけて、ぽっかりとあいた穴をちゅ、と吸う。近づくとうっとりとした瞳が半分近くまぶたに覆われているのが見えた。甘くイキ続けた末の射精はよほどよかったのだろう。息を吐くばかりでうんともすんとも言わなくなった恋人をこれ以上付き合わせるわけにはいかない。
こんないやらしく熟れた恋人を前にどうにもならないわけがないが、昨日の今日だ。手を出したら最後までやりたくなってしまうし、自分に甘い恋人はそれを許してしまう。一晩だって法衣で隠しきれない色香を放つのに、夜が明けてすぐ、日が昇ったばかりなのにまた、なんて。帰してやれないまま二晩、三晩と経ってしまうのが目に浮かぶ。そんなのは拐かすのと同じだ。
なによりブランケットをかぶって隠れたのは、今みたいになりたくなかったからだろう。それを暴いて、見なかったフリもできず、欲望のままにかわいがるのに付き合わせた。これ以上はダメだ。
「ひとやは、いかねぇ、の?」
だと言うのに本当に目端が利く。べしょべしょに濡れて、くたくたにうだっても尻近くに当てたままのちんぽを見逃さなかった。これまでさんざん背後から抱いたとき、尻や足に擦りつけて挟みこんだせいもあるかもしれないが、どちらにしろ察しがいいのは変わらない。
「俺はいいんだよ。それより一人で我慢してたんだろ」
よりにもよってブランケットなんかに抱きついて、イキたくない、イキたくない、と一人でないてー
「隣に俺がいるのに、なぁんでそういうことすんだろうなぁ?」
甘やかすばかりで甘えが足りない。とっとと叩き起こしてイキたい、イカせて、と言ってくれればよかったのに。そうしたらもっと穏当に、二人でイッてすっきり目覚めた可能性だってあった。残念ながらそんな平和なもしもは潰えてしまったが。
「だって、ねてただろ」
あとしまつもしてくれたし、と続けられて、力が抜けた。派手な見た目と言動の落差にどこまでも振り回される。言わないだけで身体をうずかせたことを恥じらってもいるはずだ。それでいいのに。明け透けに好きだと告げるように、遠慮なく心も体も求めてくれていい。恋人になるまでは欲しい欲しいと言っていたのに、いざなったらけなげに振る舞って。一人ではどうにもできなくて、持て余して、誰かに頼るしかなくなった恋人の誰かになりたい。
「俺はそんなに頼りないか」
「ちが、ぅっ」
じゅうぶんにたよっている、と言うのを疑うつもりはない。唯一無二のポジションに置かれていて、そう扱われている自覚もある。けれどもどこかまだ対等ではないような、慈しむような存在だと思われている気がしてならない。胸を刺すかすかな刺が痛みではなくざわめきを伝え、間違いなくアドバンテージをとれる行為で訴えかけてしまう。
「ひ、ゃ……っなに、な、んで」
服ごと掴んだ胸元から手をはなし、あらためて服の中へと入り込むと、ピンと勃ったままのとがりを撫でさすった。何もしなくともぷくりとしたままの乳首は、かわいがればいっそういやらしく色づき膨れてしまう。見なくとも感触だけでさらに硬くしこりだしたのがわかる場所につられて、一度は力をなくした性器が首をもたげたようだ。従順になっていた足が見られたくないとばかりに抵抗をはじめた。
「全部、俺に任せろよ」
初めて出会ったときからずっと、こちらが差し伸べた手を掴もうとしない子供だった。何もかも投げ出されるのは不愉快だが、つっぱねられるのも癪で、欲しいと言ったくせに殊勝に我慢されるのなんてもってのほかだ。持ち主の意に反して指の腹ではじくともっともっととおねだりするとがりと、ぷりんと勃起してシミを広げだしたさきっぽに羞恥する身体の熱さに、意地の悪い気持ちがくすぐられる。
「もう一回、乳首だけでちんこがイケたらおしまいにしてやる」
はしたなく、いやらしく拓いた身体には難しくなってしまったことを言えば、むり、と蚊の鳴くような声が聞こえた。今もずっと淫らなかわいがりをうけている乳首は、胎でイキ続けて先走りを粗相している。けれどもじゅわじゅわと広がるシミに白いものが混じる気配はまるでない。
「乳首やっててやるから、腰振ってちんこ扱きな」
「ば、か……!」
わざと煽る言葉にぼん、と一気に茹で上がった恋人が、拘束されたまま暴れ回る。さすがに羞恥が快感を上回ったか、乳首をきゅぅきゅぅとつねっても頑張っていたが、諸刃の剣というやつだ。
「ひ、ぅ……っ」
高められっぱなしの身体での抵抗は、自らを窮地に追い込むこともある。腰を強く動かしすぎたのか、びくびくんっ、と激しく痙攣したと思ったら、じわりと白濁がにじみ出した。はぁ、と荒く息を吐き出した恋人の耳の裏に触れるだけのくちづけをすれば、ひくひくびくびくと腰がゆれる。けれどもなぜかその後もそわそわしていて、焦れているような小刻みの動きを繰り返す。いくらか顔色が悪く、目尻に新しく雫が浮かんでもいた。足が先までと違う意味で閉じようとするのを無理矢理こじ開けても、刺激を嫌がって従順になる。声もなく張りつめた恋人の置かれた状況を察して、悪い笑みが浮かんでしまった。
「……なぁ、言ったろ。全部、俺に任せろって」
「ばっかゃろ……っげんどっつうのが、あるだろ……!」
限度も際限もなく、降り注ぐ雨のように心を捧げる子供に言われてもである。ただ隣に寄り添うのも、疎まれることも厭わずに厳しい言葉をかけるのも、そんな簡単なことではない。そしていくら無限に見えても尽きぬものなどないのだ。もしも退かず揺らがぬ信念の根源が渇いて枯れた時、差し伸べた手を掴まれたい。どこか孤高のままの恋人の隣にいたい。
「なぁ」
自分に弱く甘い恋人が、仕方ないと折れる声音でお願いだ、と穴だらけの耳の一番深く穿たれた場所におねだりをする。結局こうなるのか、ともれかけたため息を飲み込んだ。甘えてくれ、と甘えるーなんとも面倒くさい有様になっている。お互いこうと決めたら譲らないから今はこれでいい。いつか、そのうち、……すぐにでも変えてみせる。諦める気などないのだから。
「ばか、へんたい、ばちあたり……っ」
ぐずる声が責め立てるのに少しばかり心が痛むが、素直にかわいく甘えてくれればいいだけの話なのだ。自分にばかり甘えさせるかわいくない恋人を丸め込む言葉の代わりに、耳からうなじへくちづける。ちゅ、ちゅ、と音を立てて触れるくちびるが吸いついて離れるたび、白い肌に花が咲いたように赤い痕が散った。すぐに消えてしまうけれど、うっかり残るものにして機嫌を損ねたくはない。
「好きなだけ言いな」
ほんのりと赤い肌に少しだけ歯を立てて、くにくにともてあそんでいた乳首をきゅぅ、と引っぱる。これ以上なく色づき、硬く膨れたそこは、多少痛いくらいに押し潰すとたいそういいらしい。今までもあわく、あまく、けれども絶え間なく、快感を高め続けた締めとして意地悪にすら思えることをするとたちまちイッてしまった。今回も例に漏れず、である。
「やっ、だぁ……!」
乳首を押し引く手にぼろぼろと涙が落ちた。きつく引き結ばれた目尻からしたたる雫が目に浮かぶ。このあたたかい感情の結晶が快感以外でこぼれるのを見たことがない。
自分を亡くす日、恋人の瞳は濡れるだろうか。人目もはばからず泣き喚く姿など想像できないし、できれば一人きりで泣いてほしい。自分にたむけられる最も美しい供物をたとえ拝むことがかなわずとも、どうして他人に見せられようか。
かすれた喘ぎとともにぴん、とそり返った身体はびくびくと跳ね、小刻みにふるえ、ついにぷしゃ、と限界を迎えて決壊した。あ、ひぅ、と途切れ途切れにひっくり返りしゃくりあげる声に、しょろろ、しゃああ、と長く続く水音が混じる。触れた場所が熱くほてり、甘噛みしていたうなじも痕をかき消すほどに赤く変わった。その間も乳首は縮こまるどころか一回り大きくなったような気すらするほど硬くふくれ、さきっぽのくぼみをえぐれば止まりかけた粗相がぷし、しょわ、と再び吹き出した。
ずぶ濡れの下腹部はもはや何のせいかわからない。独特の臭気がするものしかない中、一番新しく目立つものが恋人の羞恥を最も煽り、プライドを傷めるのはわかる。これまでも最中に不慮の事故はあったが、今回は事故ではない。いたいけな恋人へのおとなげない甘えだ。
言い訳じみたことを言えば、こうでもしないと恋人は折れてくれない。己を曲げず、揺らがず、退かないという美徳はわかりやすく短所になりえる。今は癇癪を起こした甘ったれの言うことを聞かないとえらい目にあう、とだけ思ってくれたらいい。
恥じらい、傷つき、声を殺して鼻をならす小さな頭は憐れで、それなのに色気があった。嫌で嫌でしょうがないくせに決定的な拒絶をしない。甘えてほしがる、頼られたがる大人に後始末をさせてあげる慈悲深さ。自分が乞い願うから妥協と譲歩をした恋人の、根っこにある愛情が色めいて花開く。
腕の中で咲く愛がかわいくて、いとおしい。詫びる代わりにくちびるの届く全てにくちづけて、乳首から手をはなして抱きしめる。
もう少ししたら落ち着いた恋人からこっぴどく叱られるだろう。恨めしげに睨めつける金目も、腫れたまぶたも、赤くなった鼻も、簡単に思い描くことができる。そうして気のすむまで怒りを訴えたら、今度はこちらが望むままに指一本動かさず、されるがままにお世話をされてくれるのだ。
「俺のもんになってくれよ……」
びしょ濡れの下腹部と触れ合うことも気にせずに抱きしめて、我慢できずにうなじに噛みつく。か、と少しだけ歯を立てて、いたわるように舐めれば、くすぐったそうに身をよじった。
「……ほんと、しょうがねえの」
諦めと呆れを隠さない声音は一体どこで溜飲が下がったのか晴れやかで、きもちわりぃからとっとと片付けろと催促される。もう少しだけ離したくなくて無視していると、わざと押しつけたであろう尻が、膨れたままのちんぽをぐにぐにと扱きあげた。
「ん……っ……ひとやも、だしちまえよ……」
やわくしっとりとした尻に追い立てられて、ちんぽが硬く張りつめる。先走りもだらだらと垂れはじめ、布越しだからか直接刺激が届かない代わりに、もどかしさを補う激しさが欲望の強さをあらわすようだった。尻を振るたびにちゅ、ぬちゅ、と粘着質な水音が響いて、煽られる。
「せっそぉのしり……びゅ〜って、したくねぇ……?」
ちらりと向けられた視線は熱く、色と欲に満ちていて逆らい難い。我慢させる気のない動きはさらに勢いを増し、飢えてひくつく肉縁でしゃぶるような愛撫まではじめる。空になるまで出し切った余裕がそうさせるのだろう。
「お前がされたいんだろ……っ!」
「ぁ、んぅ……っ」
服の上から犯す場所を括ると、ちんぽがぶりん、といきりたった。反射的に逃げた尻を追って、さんざんちゅぅちゅぅきゅぅきゅぅとしゃぶりついたひくつきをぐりゅんと突く。濡れてしめった布にぴっちりと貼りつき浮いた秘所をかわいがると、嬉しそうにふるえて吸いついた。
「そのまま、だせ、よ」
同じようにぐちゃぐちゃのどろどろになってご満悦の恋人に種付をおねだりされる。昨夜はナカにたっぷりと注ぎ込んだ子種を今朝はソトにぶちまける。どうせ根こそぎ片付けるのだ。いやらしく誘う恋人の仰せのままにしてやろう。
「おもらし坊主が生意気言いやがって、なぁっ!?」
「ひ、とゃ、ぁんっ!」
くぱくぱと開閉するいやらしい肉穴を布越しに貫くと、さきっぽのほんの少しだけがぬち、とめり込んだ。それでもイキっぱなしの身体には十分なのだろう。挿入った、と思った瞬間、また前からぷしゃぁ、と何かが吹き出した。潮でも尿でもかまいやしない。一センチにも満たない食い込みにもらすほど感じてイッて、喘ぎながら名前を呼ばれるのは覿面に効いた。
びゅる、びゅぅぅぅう、びゅぅ……っと貯めに貯めた精子を、ゴムとは比べ物にならない厚い布に包まれて発射する。下着もスウェットもどろどろで、気持ち悪いはずなのに不思議と笑みを浮かべてしまった。じょじょに広がる肉縁にさきっぽをなすりつけて、どうにか子種をしみこませようとする。
「おら、ちゃんとケツ締めろ……」
「しめて、っからぁ……っ」
染み出してきた白濁をぐりぐりとなすりつけると、それだけでもぴゅっぴゅ、と透明な液体を吹いた。セックスとは言い難い、まねごとのような行為でも敏感に反応する恋人の小さな後腔の口がきゅぅぅ、と締めつける。呼吸に合わせてちゅく、ちゅ、と音が鳴り、恥じらうように抱きしめた身体が熱くなった。
「ひとゃ、も、いい」
きもちよすぎる、という半ベソの声に反して、身体はまだはしたなくおねだりを続けている。はなせ、ふろはいる、という涙まじりの懇願はきゅぅぅ、きゅん、ちゅぽ、ちゅぱ、という淫らなおねだりを消しきれない。
「……俺はよくねえなぁ……」
髪の毛と同じくらいうだった耳にそう流し込めば、腕の中の身体がびくんと跳ねる。期待か恐れか、はたまたもっと別のものか。逃げ場のない恋人の胎のあたりまで手を伸ばし、優しくさすれば、ずくんとかすかに脈を打って震える。
「も、ゃだぁ……っ!」
とたん、出し切ったと思った何かがぷしゃあと吹き出した。あ、あぁ、ぁぁ……と恍惚した喘ぎはやだ、と言ったわりにはとろんととけている。
「やぁらし……」
なおも胎を撫でながらいやらしくなじる言葉を囁けば、そのたびにおもらしをしてイって嗜虐心を煽られた。もっともっと、こうして閉じ込めてしまいたい。自分以外によるべのない恋人なんてこんなときにしか見られないのだ。どこにもいかせたくない。どこにもいかないでほしい。ずっとこのままかわいくないていてほしい。愚かな感傷にひたったまま、ふれるだけのくちづけを重ねると、小さな頭がすり寄せられた。
「……ひとやくん、おべんきょはできんのにほんっと、ばかだよな」
すきにしろ、とわざとらしく投げ出された身体がど、と重くのしかかる。肉体は生命が喪われてすら重い。ましてや生命そのもののような恋人が軽いわけがない。それでもこの重みが心地いい。何もかもぐちゃぐちゃのまま抱きしめた身体の熱が手放し難くて、日が昇りきるまでくちづけた。肌に残らないように、愛しい子供の心に刻むように。
2022/04/10
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