横顔のベルビュー

 さて、付き合うとは何をしたらいいのか。
 十六も年下の子供に絆され押し負け了承したものの、三十路に片足を突っ込んだ身の上では中学生との『お付き合い』なんて何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。
 自分が近い年だった頃の記憶を引きずり出すも、同級生、後輩、先輩……せいぜい一〜三才しか離れていない相手と同じ『お付き合い』が出来るわけがない。
 お互いが初々しいティーンならば出来る行為が、一切合切一発アウトになるのだ。

 仕方なしにぶらぶらと、なんともなしに連れ立って繁華街を歩く。
 土曜の昼。人出も多く、友人、家族、恋人ーわかりやすい名前のついた関係の人々に紛れて、自分と子供が傍目にはどんな風に見えているのかと考えた。
 そうなると結局、親戚のおっさんとクソガキが妥当になる。色気も素っ気もない。あったらマズイのだが。
 いつものように落ち着きなく隣であれが食いたいだのほしいだのと騒ぐ姿は、本当にただの子供でしかない。
 今更ながらどうして承諾してしまったのか。
 告白から一時間もたっていない。まだ買い物に付き合うという意味だと思った、で撤回できないだろうか。存外に聡い子供はきっと許してくれる。
 そのときだ。握っていた拳にそっと手のひらが重ねられたのは。
 ひどく熱く、少しだけ汗ばんでいたけれど、不思議と嫌ではなかった。
 驚いて手の先を見ると、眉をひそめて睨めつける金色と目が合う。ぎ、と強く細められた視線に、何も知らなれけば怯んだかもしれない。

「……なんだよ」
「いや、別に」
「さっきから気づくといねえから、拙僧、財布持ってねえし」
「ポケットの中にあんだろ」
「今日は十円くらいしかねえよ」
「托鉢しな生臭坊主」
「お布施しろや銭ゲバ弁護士」

 重ねた手は掴まれ、ぐいぐいと引っぱっられてどこかへと誘導される。
 器用なことに顔色は変わらず、わずかに耳と手だけが赤く染まり、そのくせ熱をはらんだ手のひらからふやけそうなほど汗を浴びせられた。
 たどり着いたのがファストフードでもチェーン店でもなく老舗の和菓子屋だったのに瞠目すると、寺では出すのも貰うのもこういうのばかりだから、と慣れた様子で喫茶コーナーへと入っていく。
 店員にいらっしゃい空却くん、と親しげに声をかけられるほどの常連なのか、はたまた檀家さんか。どちらにしろ派手な赤毛の不良坊主は恐れるものではないらしい。
 案内された席に着いてメニューを見る。向かい側からここはなんでも美味いとすすめる指は、座る直前までぴったりと重なっていた。少しだけ赤い指先の裏側はまだ湿っているだろうか。
 確かめようとすると、タイミングがいいのか悪いのか、おしぼりとお茶を持って案内してくれた店員があらわれた。
 習慣とは恐ろしい。にこにこしながら熱いですよ、と渡されたおしぼりで、わずかにしっとりとしていた手のひらを綺麗さっぱりぬぐってしまった。
 ちらりと反対側を見れば、手にとどまらず顔までふいて、さっぱりした、なんて言っている。まあ、そうなるだろう。

「ところでお連れさんはどなた?」

 空却くんが誰か連れてくるなんて珍しい、と好奇心を隠さない店員に、逆にこちらがたずねたかった。
 どう見える。この子供と俺は。いったいどんな名前の関係に見える。
 そして子供はなんと答えるのか。
 くしゃくしゃにしたおしぼりをたたみ直す手元から店員へ、するりと視線が流された。
 睫毛に縁取られた澄んだ金色は、あたたかな色に反してひどく張りつめて見える。
 永遠のような刹那、凛とした横顔がふ、とやわらいだ。

「拙僧のカレシ」

 ひそめられた眉が隠しきれない喜びでゆるみ、強すぎる印象のある目元すらふわふわとして見える。
 くちびるも普段よりおさえめに、ささやくようにとがり、口角が嬉しそうに上がっていた。
 頬だってほんのりと赤く染まり、耳はほとんど真っ赤になっている。
 なにより綺麗な金色が笑みの形にとろけているのだ。上等な蜂蜜をすくって、わざとこぼし落とすように。
 横顔だけでこんなに、なんて。
 ああ、もう。間違えたではすまないし、すまされない。

2021/04/22


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