チャイムが鳴っても帰してあげない

 美しくも硬く冷たい宝石のような金色が、自分にだけ甘くやわらかい蜂蜜のようにとろける。
 嵐のような告白からのいきなり他人へのカレシ宣言。
 ほんのわずかな時間で見事に化けた子供ー否、『恋人』はもう少し隠した方がいいと思うくらい、全てがだだ漏れだった。



 好きだという言葉に嘘はなく、しかし本人に自覚はなく。
 何百何千何万の人間と向き合い、おおかたの人間の腹の内が見抜ける獄には、自分に向けられた感情が花のつぼみのように可憐で、燃え上がるような激情を孕んでいるとわかっていた。
 バカだけれども頭は悪くはない、自分で考えて決めて行動する子供に『お前のことなんてお見通しだ』なんて言ったら拗れるのは火を見るよりも明らかだ。
 だから子供が自分で気づいて答えを出すまで付き合う、だけのつもりだったのに。それがどんな答えでもちゃんと聞いてやるつもりだったのに。

「あの店員さん、ここらへんのあらゆる情報を握ってる人だから、明日には嫁入りか婿入りかって話になってると思うわ」
「待て、明日からはとうぶん挨拶になんて行けんぞ」
「親父には拙僧から話しとく。まあまず獄が手ぇ出したなんて思わんから安心しろよ」

 店を出て、今度こそ『恋人のデート』をしようと歩き出す手が、自然に腕にからまる。
 さっきまで手を握ることすらおぼつかなかったのに、もうすっかり当たり前の仕草にしていた。
 帰ったら簀巻きにされるときゃらきゃら笑う顔は、いつもどおりのワルガキで、そのクセ目だけが『自分のせいで困っているのが嬉しくて仕方ない』と、蠱惑的に輝いている。
 激しく燃えた跡地に、大輪の花が咲いてしまった。
 それも間違いなく、どんどん綺麗になっていく。
 さらにつけ加えれば自分のせいで、自分のために、自分にだけ、ほころんで、花開くのだ。
 乱雑な言動で大人にじゃれつく子供を装ってるつもりかもしれないが、見る人が見れば一発でわかってしまう。
 甘く香って誘う花のように、好きだ好きだと訴えてやまない瞳は、心を偽ることを知らない。

「なあ獄、拙僧やりたいことあんだけど」
「金なら出さんぞ」
「いらねえよ」

 そんなもんより体を貸せ、と言うや否や、ぎゅ、と熱い体が抱きついてきた。
 まだ少なくない人混みの中、大胆にも真正面からくっついた体は、しっかりと背に手を回して離さない。
 目立つ外見をしている、よくわからない二人連れの、前触れのないスキンシップは一部の注目を浴びて、ほとんどにはそのまま無視された。
 見ているようで見ていないし、見ていないようで見ている。ますます明日からが怖い。
 胸元に埋まった顔がふふ、と笑う。
 満足気な声音は幼くて、まだ中学生だと思い出す。
 抱きしめ返そうにも、腕までしっかり押さえられていて出来ない。
 棒立ちでされるがままになっていると、ぽそりとしたつぶやきが聞こえた。

「もう、拙僧のもんだ……」

 ぞくりとするほど艶を帯びた、吐息とともに喉奥からあふれ出たような声だった。
 好きだ、と言われたときと同じ。心臓を、脳を、めちゃくちゃに引っかき回す、痛いほど純粋な甘い言葉。
 まだ中学生、まだ子供ー繰り返し言い聞かせて、乱れ狂う頭の中を鎮めにかかる。
 人がいる場所でよかった、腕が自由じゃなくてよかった、目が隠れていてよかった。
 そうでなければ、きっと。

2021/04/22


BACK
作文TOP/総合TOP