狐じゃないけど

 なんでも出てきそうなカバンから高そうな折りたたみ傘が出てきたのを『らしいな』と眺めていたら盛大なため息をつかれた。
「お前は天気予報とか……見ねえな……」
「見ねぇし持たねぇな」
 見たところで家を出る瞬間、いかにも降りそうな空模様でなければ持つ気はない。濡れたって乾くし、出来る限り身軽でいたい。
 まして今日はそれはそれは綺麗な青空なのだ。天気雨に濡れてなお、突きぬけるように。
 恋人は仕事柄、濡れるわけにはいかないのだろう。毎朝時間をかけてセットする髪型のためにも。
「隣で濡れ鼠になってるのを放置してると外聞が悪い」
 だから入れ、と高そうで、デカい、黒い傘を差し出される。
 ぱらぱらとした弱いシャワーのような雨だ。濡れ鼠なんてもんにはとてもならない。
 傘をさす人もまばらで、獄の了見が狭いなんて言うやつの方がよっぽどだ。
「このていどの雨、どうってことねえよ」
「訂正する。俺が嫌なんだよ」
 だから入れ、と空却がすっぽり隠れるように傘を傾けられる。
 獄はいつだって全身を隙なくかためていて、今日だって嫌味なほど洒落た装いで、小さな雨粒が散った肩や髪だって、その全てが極上品なのだ。
「……そんでてめえが濡れ鼠になってりゃ世話ねえなあ」
 三全世界で一番イイトオコから水が滴ったら無敵になってしまう。今だって無敗なのに。
 仕方ないので仲良く相合傘としゃれ込むことにする。
 なんとなく悔しくてぴったりと身を寄せてやったら、そこまでしろとは言ってない、と悩ましげな顔をしていた。

2021/04/30


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