「風間さん、名前さんに付き合ってること秘密にしようって言ったんでしょ?それはつまり、これを目の当たりにするって事ですよ」
サイドエフェクトにより迅には早々にバレていた真実との関係について
ボーダー内の人間に秘密にすることを提案したのは、他でもない自分だった。
自分は隊長の身であるし、彼女との関係を公にする事によって
気を遣われたり、冷やかされたりする事を避けたかったからだ(主には冷やかされる事)。
それで万事上手くいくと思っていたが、現実はどうだ。
付き合って数か月、彼女との関係は良好。
だが、彼女がこんなに人気者だとは、聞いていない。
「名前さん飯連れて行ってくださいよ。今からどうスか」
「あっちょっと!ずるい!俺も!」
「米屋も駿も食べ盛りだからなあ...あんまり高いお店は連れて行けないよ。あと今日はダメ」
「えぇ〜〜?」
なんて繰り広げられていると思ったら、出水も現れて彼女は囲まれる始末。
仕事を理由に少しでも話せたらと思っていたが入る隙も無い状況である。
「........」
「不満そうな顔だね、風間さん」
「...それは、良い気はしないものだろう」
「まあそうだけど。元々名前さんの周りはあんな感じでしたよ」
そうなのか。
同期として長らくやってきて、彼女への恋心に気付いてからは
どうもそれを抱えたままなのが性分に合わないようで、早々に伝えてしまったのだった。
なので、正直彼女の普段の様子にそこまで意識を向けた事が無かったのだ。
思い返してみれば、太刀川辺りも良く構っていたような気もしなくもない。
良くも悪くも、彼女の周りにはいつも人がいるのだ。
自分と同じように、彼女の人柄に惹きつけられた人間が。
「可愛い彼女があんな感じじゃ気が気じゃないですよねえ。牽制くらいしておいても良いんじゃないですか?」
「.........」
「意外と、潔く言えるのも気持ち良いもんですよ。きっと」
迅と別れてスマホに視線を落とすと「今日は一緒に帰れそう?」という彼女からのメッセージと、
二つ返事する自分の昼頃のやり取りが目に入る。
「米屋、出水、緑川」
3人に囲まれて狼狽えていた彼女の背後から声をかける。
「........風間さん」
「ここはC級隊員もいる場だ。上級隊員として恥ずかしくない振舞いを頼むぞ」
「...ハイ」
縮こまる3人。悪いがこれは本題ではない。
「あと悪いが、」
「彼女は今日も明日も明後日も、空いていない」
「........?」
彼女に近づき、軽く腰を引き寄せる。
どうやら恋愛をすると、らしくない自分にも出会えるらしい。
「俺との約束で埋まっている。諦めてくれ」
俺の言葉に3人はポカンと口を開けた後、勘の良い出水が「あっそういうこと?マジか」と早くも冷や汗をかき出している。
慌て出す3人の姿は見ものであるし、今の自分が中々に悪い顔をしている自覚はある。
「えっ風間さんマジっすか......」
「さあな。想像に任せる」
「..............」
「名前、行くぞ」
「あ、うん...みんな!またね!」
俺の心は意外にも晴れやかだった。
背後から悪態を突かれているのも聞こえているが、柄にも無く浮かれた今の心持ちでは全くもって気にならない。
「...風間、良かったの?」
建物を出て人目が少なくなった辺りで、嬉しいような恥ずかしいような、
感情の入り混じった表情で彼女が問うた。
「ああ。これであいつらも少しは弁えるだろう」
「...出水たちとのご飯は、また別の機会にする。先輩らしいこともしないとだし」
「......その時は俺も行くから教えてくれ。それより」
「?」
ほぼ変わらない高さにある、彼女の顔を覗き込む。
瞳が煌めいているのは、夜空の星が映っているせいかもしれない。
「もう、名前で呼んでも良いんだぞ?」
ちか、と目のなかの星が揺れる。
「.......蒼也」
どこか甘さを含んだ声が耳を溶かす。
きゅう、と自分の手のひらが控え目に握られて
とろりと心臓に甘ったるいシロップでも掛けられたような気持ちになった。
「...帰ろう、名前」
彼女が自分の恋人だと公言できる。
迅、確かにこれは、存外悪くないかもしれない。