「うぉぉー!」
「ウシワカすげぇ…」
「…相変わらず、表情筋が変わらないなぁ…」
「名前さん、ウシワカ知ってるんすか?」
「北一の時から、嫌と言うほどね…」
「すげぇ…」
そんな会話をしていると、烏養が話題に加わった。ごそごそとポケットを漁れば、何やら手書きのメモ。敵チームのリサーチらしい。先ほど話題に上がっていた白鳥沢、和久谷南、伊達工業、それから青葉城西。烏養なりに調べたらしい。
「俺的今年の4強だ。と言ってみたものの、上ばっか見てると足すくわれることになる」
その瞬間、空気がピリッとしまる。そんな中勢いよく体育館の引き戸が開くと、武田が息を乱して入ってきた。どうやらインターハイ予選の組み合わせが出たらしい。澤村に紙が渡ると、全員が小さな紙に釘付けとなる。烏野はAブロックで、勝ち進めば伊達工と当たるらしい。それからさらに勝ち進めば、シードの青葉城西と当たる。名前はぐっと拳を握った。
インターハイ予選までに各々が力をつけていった。そして名前も清水と一緒に、ある事を進めていたのだ。予選前日の練習後、澤村が切り上げようと声をかけるのを、武田が遮る。
「名字さんと清水さんから」
「……激励とか、そういうの…得意じゃないので…」
「潔子とね、用意してたんだ」
「名前お願い」
「OK」
名前が先に体育館の2階に上がれば、黒い布の塊を武田が代わりに名前に渡す。清水がその後に続いて上がり、二人でそれを広げれば、ばさりと音を立てて勢いよく書かれた【飛べ】が映える横断幕が広がった。
「ほら、潔子」
「…が、がんばれ」
「潔子からの激励だよ!頑張らなきゃね!」
1年以外は涙を流しながらも、「勝つぞ!」と気合いを入れる。明日はついにインターハイ宮城県予選の幕が上がるのだ。
武田の運転により、A・Bブロックの試合会場入りすれば、ライバル校達に出会す。初めて名前はこの空気に触れたのだ。今までベンチは決まって清水にお願いし、観客席から静かに応援していたためだ。だが今回は違う。手元にあるのは、トレーナーを意味するトと書かれたシールが手元にあった。それは選手登録の際に、烏養と武田が名前をベンチに入れるための策であった。
「名前とベンチ入れるの嬉しい」
「私も!」
清水と道具を準備していると、観客席から声がかかった。それは紛れもなく、聞き間違えるはずのない声だった。
「やっほートビオちゃん、チビちゃん!元気に変人コンビやってる?」
「大王様っ…」
シードのため、観客席からの視察だろう。影山と日向にちょっかいをかけた後、ひらりと手が振られれば、及川と視線が絡まった。それを隠すように名前はアップを手伝いに行く。そして始まる、常波との第一試合。
「烏野ー、ファイ!オーッ!」
円陣により全員の士気が高まる。名前の思考も試合を始めれば、思うことはただひとつ。「一発目は龍!」そう呟いたと同時に、影山から田中へとトスが上がった。ワンタッチを取りコートに落ちたボールを見れば、すかさずみんなで声を出す。リベロ西谷の見事なレシーブ(本人はたいそう悔しがっていたが)、東峰が打つ強力なアタックも決まり、順調な滑り出しだ。そして、小さな背中も「俺がいるぞ」とウズウズしている。背中に翼があるかと思わせるように飛ぶ日向に、ふわりとトスが上がる。誰しもが今「飛んだ」と声が出ただろう。
「見よ古兵、烏野の復活だ!」
名前も日向同様にウズウズしていた。隣で一緒に喜ぶ清水が、武田が、烏養がいる。タイムアウトでメンバーのケアを行い、声をかける。敵チームを視察し、共有する。全てベンチにいるからこそできることなのだ。
「岩ちゃん、名前が楽しそうだ」
「おめぇ、ちゃんと烏野見てろよ。名前ばっかみてっと、目ん玉刺すぞ」
「ひどいっ!」
岩泉はそんなことを言いながらも、及川がそれはそれは優しい瞳で名前を見ているもので、それ以上は何も言わなかった。当の本人達は、全く気がついていないのだが。
ピッ、ピピーッとホイッスルが会場に響き渡れば、試合終了を意味する。烏野は、常波に2-0で勝利した。コートを後にする時、澤村が友達である、常波の池尻から「俺達の分も勝てよ!」と託されていた。スポーツには勝ち敗けがある。もちろん引き分けになることもあるが、その後必ず勝ち敗けが決まる。負けたらそこでゲームオーバーなのだ。電源を切ったり、セーブポイントまで戻る、なんてことはできない。バレーボールはインターハイが必ずしも3年生最後の試合ではないが、進学や就職活動のために春高に参加しない3年生も少なくない。グッと突きつけられる現実に、名前はまず1つの勝利を噛み締めた。
勝利校は立て続けに2試合目を控えているが、コート整備を挟む小休憩が間に入る。次の相手は、東峰にトラウマを植え付けた、最強の鉄壁。伊達工が相手だ。烏養からスタメンが発表された後、日向と影山はボールに触れていた。そしてそこに菅原が向かうのを名前は見逃さなかった。
「スガ。大丈夫だよ…絶対次も勝つんだから」
「なんだよ名前に見られてたのか」
「ちょっと気になったから…」
「大丈夫だべ。絶対勝つ」
コート整備が終わり、試合前のウォーミングアップが行われた。西谷がローリングサンダーアゲインとかなんかよくわからないが、「背中は俺が護ってやるぜ」なんてカッコイイ台詞で鼓舞すると、試合開始の笛がなる。目の前に並ぶ伊達工は、並んでいるだけでも相当な圧を感じるほどである。1点を日向が先取した際のリードブロックの迫力は力強く、アタッカーの気持ちになればそれはもう震え上がるほどだ。名前は「うげっ」っと声を出すと、清水がくすりと笑った。やはり流石の鉄壁で、東峰に次いで田中もブロックに捕まる。それでも日向、影山は笑い、変人速攻を次々と決めて行く。
「っしゃああああ!」
「っシ!!」
「ナイス!翔陽!ナイストス飛雄!」
日向・影山の変人速攻が決まるほど、日向にブロックのマークがつく。そうすれば自ずと道は開く。
「旭!行けぇぇぇ!」
日向の「持ってこぉぉぉい!」と共に、東峰に切り開かれた道。ズドンとコートに響く音は、東峰のバックアタックが見事に決まった瞬間だった。その後田中も決めていき伊達工から1セット先取した。コートチェンジの合間に、名前と清水はテキパキとケアを行う。
「さっき、繋心君と話したんだけど、ローテを2つ回そうと思う」
「日向と眉なし7番の、がっつりマッチアップをずらす」
「当たり前だけど、ローテを回すことによって、全員にマークが行く」
「…日向にばっかり頼っていられないです。ちゃんとエースらしい働きしてみます」
「旭、ホント頼りにしてるからね!大丈夫、旭なら」
「おう、名前に言われたら余計に頑張らないとな」
そうしてローテーションを2つ回して2セット目が始まれば、双方点を取り合う接戦となる。相変わらずのリードブロックに、東峰が捕まり出す。22-24で迎えたマッチポイント、東峰のスパイクが3枚ブロックに弾かれた。後ろに跳ねたボールを、守護神西谷が上げると東峰が「レフト!」と呼ぶ。ネット際の押し合いに負けたボールが足元へ落ちようとした時、西谷の足によってあげられたボール。ドワっと会場が湧く。
「もう一本!何度でも!飛雄、決まるまで!」
ふわりと上げられた、ネットから少し離した高めのトス。助走をつけて打たれたそれは、鉄壁を弾いて向こう側に落ちた。
「やった…潔子…やったよ!」
ハイタッチして喜びを分かち合う。そしてみんなを暖かく迎えれば、隣のコートから聞こえる声援。
「青城…」
「王者もダークホースも全部食って、全国に行くのは青城だよ」
観客席から青城の初戦を見る。この試合を勝ち抜いたチームが、次の対戦相手となる。名前はまじまじと青城の試合を見ていた。じっと見つめる先には、白と黒のサポーター。近くできゃーきゃーと声援とはまた別の声が酷くうるさい。隣にいた清水は名前の眉間にできた皺を突くと、「怖い顔になってる」と優しく呟いた。
「セッターって、指揮者なんだよ…。チームそれぞれ、音がある。公式試合で徹のセットアップ、久々に見たなぁ…やっぱり、かっこいい…。はっ!」
「明日は敵だよ」
「そうだね。勝たなきゃね」
青城は難なく勝ちを納めたのを見届けてバスで帰路に着く。バス内でぐったりしているチームメンバーを見届けてから、名前はスマートフォンを取り出した。
18.【明日の対戦を楽しみにしています】
「ウシワカすげぇ…」
「…相変わらず、表情筋が変わらないなぁ…」
「名前さん、ウシワカ知ってるんすか?」
「北一の時から、嫌と言うほどね…」
「すげぇ…」
そんな会話をしていると、烏養が話題に加わった。ごそごそとポケットを漁れば、何やら手書きのメモ。敵チームのリサーチらしい。先ほど話題に上がっていた白鳥沢、和久谷南、伊達工業、それから青葉城西。烏養なりに調べたらしい。
「俺的今年の4強だ。と言ってみたものの、上ばっか見てると足すくわれることになる」
その瞬間、空気がピリッとしまる。そんな中勢いよく体育館の引き戸が開くと、武田が息を乱して入ってきた。どうやらインターハイ予選の組み合わせが出たらしい。澤村に紙が渡ると、全員が小さな紙に釘付けとなる。烏野はAブロックで、勝ち進めば伊達工と当たるらしい。それからさらに勝ち進めば、シードの青葉城西と当たる。名前はぐっと拳を握った。
インターハイ予選までに各々が力をつけていった。そして名前も清水と一緒に、ある事を進めていたのだ。予選前日の練習後、澤村が切り上げようと声をかけるのを、武田が遮る。
「名字さんと清水さんから」
「……激励とか、そういうの…得意じゃないので…」
「潔子とね、用意してたんだ」
「名前お願い」
「OK」
名前が先に体育館の2階に上がれば、黒い布の塊を武田が代わりに名前に渡す。清水がその後に続いて上がり、二人でそれを広げれば、ばさりと音を立てて勢いよく書かれた【飛べ】が映える横断幕が広がった。
「ほら、潔子」
「…が、がんばれ」
「潔子からの激励だよ!頑張らなきゃね!」
1年以外は涙を流しながらも、「勝つぞ!」と気合いを入れる。明日はついにインターハイ宮城県予選の幕が上がるのだ。
武田の運転により、A・Bブロックの試合会場入りすれば、ライバル校達に出会す。初めて名前はこの空気に触れたのだ。今までベンチは決まって清水にお願いし、観客席から静かに応援していたためだ。だが今回は違う。手元にあるのは、トレーナーを意味するトと書かれたシールが手元にあった。それは選手登録の際に、烏養と武田が名前をベンチに入れるための策であった。
「名前とベンチ入れるの嬉しい」
「私も!」
清水と道具を準備していると、観客席から声がかかった。それは紛れもなく、聞き間違えるはずのない声だった。
「やっほートビオちゃん、チビちゃん!元気に変人コンビやってる?」
「大王様っ…」
シードのため、観客席からの視察だろう。影山と日向にちょっかいをかけた後、ひらりと手が振られれば、及川と視線が絡まった。それを隠すように名前はアップを手伝いに行く。そして始まる、常波との第一試合。
「烏野ー、ファイ!オーッ!」
円陣により全員の士気が高まる。名前の思考も試合を始めれば、思うことはただひとつ。「一発目は龍!」そう呟いたと同時に、影山から田中へとトスが上がった。ワンタッチを取りコートに落ちたボールを見れば、すかさずみんなで声を出す。リベロ西谷の見事なレシーブ(本人はたいそう悔しがっていたが)、東峰が打つ強力なアタックも決まり、順調な滑り出しだ。そして、小さな背中も「俺がいるぞ」とウズウズしている。背中に翼があるかと思わせるように飛ぶ日向に、ふわりとトスが上がる。誰しもが今「飛んだ」と声が出ただろう。
「見よ古兵、烏野の復活だ!」
名前も日向同様にウズウズしていた。隣で一緒に喜ぶ清水が、武田が、烏養がいる。タイムアウトでメンバーのケアを行い、声をかける。敵チームを視察し、共有する。全てベンチにいるからこそできることなのだ。
「岩ちゃん、名前が楽しそうだ」
「おめぇ、ちゃんと烏野見てろよ。名前ばっかみてっと、目ん玉刺すぞ」
「ひどいっ!」
岩泉はそんなことを言いながらも、及川がそれはそれは優しい瞳で名前を見ているもので、それ以上は何も言わなかった。当の本人達は、全く気がついていないのだが。
ピッ、ピピーッとホイッスルが会場に響き渡れば、試合終了を意味する。烏野は、常波に2-0で勝利した。コートを後にする時、澤村が友達である、常波の池尻から「俺達の分も勝てよ!」と託されていた。スポーツには勝ち敗けがある。もちろん引き分けになることもあるが、その後必ず勝ち敗けが決まる。負けたらそこでゲームオーバーなのだ。電源を切ったり、セーブポイントまで戻る、なんてことはできない。バレーボールはインターハイが必ずしも3年生最後の試合ではないが、進学や就職活動のために春高に参加しない3年生も少なくない。グッと突きつけられる現実に、名前はまず1つの勝利を噛み締めた。
勝利校は立て続けに2試合目を控えているが、コート整備を挟む小休憩が間に入る。次の相手は、東峰にトラウマを植え付けた、最強の鉄壁。伊達工が相手だ。烏養からスタメンが発表された後、日向と影山はボールに触れていた。そしてそこに菅原が向かうのを名前は見逃さなかった。
「スガ。大丈夫だよ…絶対次も勝つんだから」
「なんだよ名前に見られてたのか」
「ちょっと気になったから…」
「大丈夫だべ。絶対勝つ」
コート整備が終わり、試合前のウォーミングアップが行われた。西谷がローリングサンダーアゲインとかなんかよくわからないが、「背中は俺が護ってやるぜ」なんてカッコイイ台詞で鼓舞すると、試合開始の笛がなる。目の前に並ぶ伊達工は、並んでいるだけでも相当な圧を感じるほどである。1点を日向が先取した際のリードブロックの迫力は力強く、アタッカーの気持ちになればそれはもう震え上がるほどだ。名前は「うげっ」っと声を出すと、清水がくすりと笑った。やはり流石の鉄壁で、東峰に次いで田中もブロックに捕まる。それでも日向、影山は笑い、変人速攻を次々と決めて行く。
「っしゃああああ!」
「っシ!!」
「ナイス!翔陽!ナイストス飛雄!」
日向・影山の変人速攻が決まるほど、日向にブロックのマークがつく。そうすれば自ずと道は開く。
「旭!行けぇぇぇ!」
日向の「持ってこぉぉぉい!」と共に、東峰に切り開かれた道。ズドンとコートに響く音は、東峰のバックアタックが見事に決まった瞬間だった。その後田中も決めていき伊達工から1セット先取した。コートチェンジの合間に、名前と清水はテキパキとケアを行う。
「さっき、繋心君と話したんだけど、ローテを2つ回そうと思う」
「日向と眉なし7番の、がっつりマッチアップをずらす」
「当たり前だけど、ローテを回すことによって、全員にマークが行く」
「…日向にばっかり頼っていられないです。ちゃんとエースらしい働きしてみます」
「旭、ホント頼りにしてるからね!大丈夫、旭なら」
「おう、名前に言われたら余計に頑張らないとな」
そうしてローテーションを2つ回して2セット目が始まれば、双方点を取り合う接戦となる。相変わらずのリードブロックに、東峰が捕まり出す。22-24で迎えたマッチポイント、東峰のスパイクが3枚ブロックに弾かれた。後ろに跳ねたボールを、守護神西谷が上げると東峰が「レフト!」と呼ぶ。ネット際の押し合いに負けたボールが足元へ落ちようとした時、西谷の足によってあげられたボール。ドワっと会場が湧く。
「もう一本!何度でも!飛雄、決まるまで!」
ふわりと上げられた、ネットから少し離した高めのトス。助走をつけて打たれたそれは、鉄壁を弾いて向こう側に落ちた。
「やった…潔子…やったよ!」
ハイタッチして喜びを分かち合う。そしてみんなを暖かく迎えれば、隣のコートから聞こえる声援。
「青城…」
「王者もダークホースも全部食って、全国に行くのは青城だよ」
観客席から青城の初戦を見る。この試合を勝ち抜いたチームが、次の対戦相手となる。名前はまじまじと青城の試合を見ていた。じっと見つめる先には、白と黒のサポーター。近くできゃーきゃーと声援とはまた別の声が酷くうるさい。隣にいた清水は名前の眉間にできた皺を突くと、「怖い顔になってる」と優しく呟いた。
「セッターって、指揮者なんだよ…。チームそれぞれ、音がある。公式試合で徹のセットアップ、久々に見たなぁ…やっぱり、かっこいい…。はっ!」
「明日は敵だよ」
「そうだね。勝たなきゃね」
青城は難なく勝ちを納めたのを見届けてバスで帰路に着く。バス内でぐったりしているチームメンバーを見届けてから、名前はスマートフォンを取り出した。
18.【明日の対戦を楽しみにしています】