マーキング


※お遊び設定、現代パロです。


天高く蒼い蒼い空の下、本日、彩雲高校では文化祭が行われていた。
紅家の執事である静蘭は、主の邵可と彼のご息女たちの高校へとやって来たのだった。


「琳麗様のクラスと秀麗お嬢様のクラスは合同で喫茶店のようですね」

「そうなのかい、それは探す手間は省けていいね」


人込みに流されそうに危ういげに歩く主を苦笑しつつ、静蘭は頷いたのであった。
2クラス合同という事で彼女たちが割り当てられた教室は特別教室らしく広い。手にしたパンフレットをみると文化祭でも目玉らしい。
そこを目指していくと、見知った顔が何人かいた。彼らはこちらに近づいてくると主の邵可へとまず挨拶をした。


「邵可様」

「ようこそ、文化祭に」


二人ともこの学校の教員であるが、実は国でも有数の財閥の息子たちである。だが、既に跡取りは決まっていて家業を継ぐという立場ではないからこそ教員という職業なのかもしれない。


「これは李先生に藍先生。ご無沙汰しておりますね」


こう見えても静蘭が仕える主もまた大財閥の長子であったが、家業を継ぐ気はないのかそれを放棄して、妻と娘たちを連れて本家から出たのだった。
それでも財閥の長子とあろうものを庶民に落とす訳にはいかず、それなりの屋敷と召使を与えられた。
静蘭は、ちょっとした縁で邵可の屋敷に引き取られ、執事として働くようになった。だが、数年前に奥様が亡くなられてからは召使は静蘭を残していなくなり、執事というよりは普通に仲がよい家族として過ごしている。


「こんにちわ、李先生、藍先生」


にっこり、と笑みを浮かべると絳攸と楸瑛はほんの少し背筋を震わせた。


「やぁ、静蘭……。久しぶりだね」

「り、琳麗や秀麗のクラスに行くんだろ? ちょうど俺たちも見回りの途中で寄ろうとしていたんだ」

「では、ご一緒しましょう」


さぁさぁと邵可に促され、一同揃って教室に向かった。その教室の光景はなんても可愛いらしいものだった。


「お、せいらーん。邵可さんも来たのかー?」

「えっ? 静蘭? あ、父様も来たの?」

「げっ……」


手を振って来た青年とその背後から、屋敷のお嬢様の一人、秀麗と、同じクラスのタンタン君こと秦 蘇芳が顔を出した。
主の娘の一人、秀麗はにっこりと笑い歩み寄って来た。手を振って寄って来たのは、秀麗の担任である浪 燕青。自称、静蘭の親友である。


「見て見て、父様、静蘭! 似合うかしら?」


微かに頬を赤らめて言う秀麗に邵可も静蘭も驚きはしたものの、笑顔で答えた。


「うん、似合うよ。秀麗」

「ええ、可愛いらしいですよ」

「ありがとう!」


二人に褒められ秀麗は笑顔になった。確かに可愛い。上品そうな紺を基調とした清楚感を漂わせるそのメイド服姿は。英国風カフェなのだろうか、意外に繁盛している。

そう考えた矢先にもう一人のお嬢様の声がしたのだった。


「秀麗〜……って、来てたの? 父様、静蘭」


その声に振り向けば、静蘭は絶句した。秀麗と同じ恰好を想像していただけにもう一人のお嬢様――琳麗の姿は目を見開かせた。
服は同じなのに何故か琳麗のスカート丈が短い。いや、短すぎる。


「り、琳麗、様……」

「おや、琳麗も可愛いね」


驚く静蘭を余所に彼女の父は別段気にも留めず、その姿を褒めていた。


「そう? ありがとう。でもスカートがね〜」


苦笑する琳麗に顔を赤くしながらそっぽ向いた状態で、絳攸が訊いた。


「なっ、なんでお前だけそんなにスカートが短いんだ!!」

「まあまあ、絳攸。いいじゃないか」

「よくないっ! 昨日は普通だったろ!」

「えっと……」


なんて言うべきか戸惑っていると燕青が口を挟んだ。


「あー、なんかさ、朝来たら琳麗嬢ちゃんのスカートが汚されててな、仕方ないからって切っちまったんだよ」

「は? そんな報告は聞いてないぞ」

「あれ? どっかですれ違ったのか? まっ、いっか」


いやよくないだろ。とツッコミたくなった。今ここで琳麗のスカートを切った奴を見つけたら唯ではすまない。
そんな殺気を感じた楸瑛たちの背中に冷たいものが流れる。だが、そんな静蘭の服がつんつんと引っ張られた。


「どう? 静蘭、似合う?」

「えっ、あ、はい。よく似合ってますが……スカート、短すぎます」

「あー、でも仕方ないわ」


ふふっと見上げてくる琳麗に静蘭は、ぐっと言葉がつまる。似合うに決まっているのだが、やはりスカートが短すぎる。そこだけがなんとも言えない。
もし、これが自分一人とだけでいる状態ならば別になんともないが、こうも大勢の輩(特に男)に見られてしまうのは腹立たしい。
ギロリ、と今この場にいる楸瑛たちを睨みつけた。「さっさとどこかへ行け」と物語る双眸に意味を汲み取った彼らは見回りへと戻った。
さて、この人の姿をどうしようか。そんなことを思っていると、秀麗が話し掛けてきた。


「姉様、これから休憩でしょ? 父様と静蘭を案内したら?」

「そうね。父様、静蘭、一緒に観て回りましょう」

「おや、秀麗は行かないのかい?」

「私、今から当番だから」


そう話す秀麗を見て邵可はふむ、と考えた後


「私は少し疲れたから琳麗、静蘭を案内してあげてくれないかい? せっかくだし。そこまで私に付き合わせるのもなんだしね」

「え、旦那様」

「そうね、じゃあ。姉様、静蘭と見て回ってね」

「あ、ついでに宣伝して来てなー」


秀麗と燕青に背中を押され、二人はなし崩しに教室を後にした。


「ま、これでなんとかなるかもな」


燕青の言葉に秀麗だけが小首を傾げた。彼女はただ純粋に彼らを送り出したに過ぎなかった。それに燕青は苦笑した。親友が彼女に惚れ込んでいるのを知っていたから。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「静蘭? どうしたの?」


隣を歩く青年に琳麗は不思議そうに見上げた。


「……その恰好、なんとかならないのか」


先程とは口調が違うが、琳麗はさして気にしてはいない。実は父以外には隠しているが二人は恋人同士である。


「うーん、一応今日はこの恰好って決まってるし……作ったやつだから代えがないんだよね」


苦笑する恋人に静蘭は手で額を覆う。なんてことだ。そして、すれ違う害虫たちの視線がすべて琳麗の脚へといくのが腹立たしい。
ニタニタと笑う輩にギロリと威嚇をした。そして、いつまでもそんな脚を惜しみ無く出す琳麗にだんだんと腹を立てた。
嫉妬だと分かっていても、この怒りは治まりようがない。ぐいっと琳麗の手を引き、人気のない場所を探した。


「せ、静蘭!?」


名前を呼ぶ彼女を無視して、辿り着いたのは校舎の裏にある木々のところだった。
校舎裏ということもあり、お祭りの喧騒もあまり聞こえない。
とん、と木に琳麗を押し付けるとそのまま強引に口付けをする。


「ん、…せ、…らん……」


口唇の合間から零れる名前に静蘭は、目を開いた。真っ赤に染めた頬が、強引にしたにも関わらず応えてくれる琳麗に口の端が上がる。
ようやく口唇を離せば、肩で息をしていた。だが、視界に入るスカート丈に静蘭はやはりムッとする。ふむ、と一考してからいきなり屈んだ。


「せ、静蘭!?」


嵐のようなキスが過ぎたかと思えば、いきなり屈む年上の恋人に琳麗はぎょっとした。


「あまり、動かないで下さいね」

「へ? やっ……!」


見上げてくる静蘭を不思議に思い、小首を傾げたら太腿を撫でられた。あまりのことにぴくんと反応してしまう。そして、生温かい柔らかな感触に、チリッとした感覚に琳麗は真っ赤になった。
下を見れば紫銀の色の髪が見えて、何をしているのかが目に入る。


「せ、せせせ静蘭っ……!」


名前を呼べば、にっこりとした笑顔で「なんでしょう?」と見上げて来た。
二人きりの時の敬語もどきは静蘭が怒っているか、何かを企んでいる時ぐらいだ。


「な、なにして……」

「なにって、マーキングですよ」

「まっ……ええっ!?」


見れば目立つところに鬱血の痕。一瞬ぶつけたのかとも思われなくもないが……琳麗は真っ赤になった。
流石にこんな痕をつけられてしまっては、このまま脚を出しておける訳もなかった。


ふるふると真っ赤になりながら震える恋人に静蘭は満足そうに笑った。
いくら彼女でもこのままでいるはずはないだろう。もし、このままでいたとしてもこのマーキングが牽制となる。


「さ、そろそろ行きましょうか?」

「〜〜〜〜」


着替えるにしても、結局はこの状態で移動しなくてはならない。琳麗は静蘭から上着を奪うとそれを腰に巻き付けた。


「着替えるから、これ貸しててね!」


そうして、制服を置いてある更衣室へと走っていったのを見て静蘭はくっくっと笑いながらその後を追ったのだった。
予定通り、彼女を膝丈の制服へと着替えさせたのだった。



ちなみに琳麗と静蘭がいなくなった後、実は静蘭の実弟である劉輝が久々に会える兄を捜しに来た。その時会った静蘭はすこぶる機嫌がよかったらしい。



END




なにか思いたって衝動的に書いてしまいました。
ぶっちゃけ前半どーでもいいし。
何を書きたかったかと言えば、脚にマーキングですかね。それだけが書きたかったのです。で、せっかくだから3周年記念の時に書いてみました。
最後は尻切れトンボで、はい。なんつーか、阿呆ですいません。

しかも使いもしないのに設定とか考えたり(笑)


◇夢主(琳麗)
彩雲国高校二年生
同じクラスには龍蓮と劉輝がいる。

◇秀麗
彩雲国高校一年生
同じクラスに留年しているタンタンと、ライバルの清雅、友達の珀明がいる。

◇静蘭
琳麗、秀麗の家の執事。だが、他に使用人がいない為、普通の家族のような扱い。ちなみに琳麗とは恋人同士だったりする。
腹違いの弟、劉輝を可愛がっている。

◇劉輝
彩雲国高校二年生
琳麗とは同じクラス。秀麗に恋心を抱いている。
家出をした腹違いの兄がいてふさぎ込みだったが、思わぬ再会で心踊る。
普通に龍蓮とは仲がよい。

◇楸瑛
彩雲国高校教員
女生徒から圧倒的人気を誇るが、弟・龍蓮に振り回される。そのせいか、劉輝みたいのが本物の弟だったらと常に思っている。

◇絳攸
彩雲国高校教員
楸瑛とは同期で腐れ縁。実は琳麗、秀麗とは従兄弟だが秀麗はそれは知らない。
女嫌いだが、楸瑛とセットでモテモテ。

◇燕青
彩雲国高校教員、秀麗のクラス担任。
静蘭の自称親友であるが、若い頃、静蘭と共に恐れられていた人物?

◇邵可
琳麗、秀麗の父。
昔、怪我をしていた静蘭を拾い、家出した為に家には帰りたくないという彼を普通に受け入れた。
琳麗と付き合っているのを知り、(静蘭が本当の息子になる日が楽しみ)と思った人



訳の分からないネタでした。基本は変わってません。
設定考えるのが好きなだけのおおざっぱなメモでした。

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