求婚
夏の暑い頃
まだ秀麗が戸部で臨時の侍僮のまね事をしていた頃だった。夕食を食べていた燕青は、おもむろに話題にした。
「そーいやさー、琳麗姫さんってすげえモテるんだなー」
「なんだ、いきなり」
「何言ってるの? 燕青、姉様がモテるなんて今更よ」
「いや、今日府庫に行こうとしたらー琳麗姫さん見かけて声掛けようとしたんだ。
したら、どっかの官吏と話しててさー立ち聞きすんのも悪いと思って、そのまま引き返そうとしたんだけどよぉ」
話しながら燕青は、鴨料理に手を出した。
今日は四日に一度の食事会とあって、卓子には楸瑛と絳攸も座っていたのだった。
「……で、引き返そうしてどうしたんだ?」
「んぐ……ああ、結婚申し込まれてたぜ」
「「「「なにぃぃぃ〜〜!?」」」」
それには邵可も「おや」と反応した。
「それがしつこかったみたいで琳麗姫さん、すげー困ってたから声かけてなんとかその場しのいだけど、ありゃーまた来るな」
「……燕青、とりあえず、お前にしてはいいことをしたと言っておこう」
「お、おぉ……」
静蘭は燕青を見た後、絳攸の方へ顔を向けた。
「絳攸殿、後ほど燕青からその官吏の特徴をよく聞いておいて貰えますか?」
にっこりと、しかし笑っていない静蘭の瞳は絳攸に「調べてこい」と物語っていた。
「……あ、ああ……分かった」
絳攸は冷汗をかきながらその明日の命が怪しげな官吏に罵倒を浴びせていた。
(どこのどいつだが、知らんが……琳麗に手を出すなんて命を捨てたいのかっ!? しかし、この場合、黎深様にばれるのと静蘭にばれるのではどちらが……)
そう考えてみるがどちらも命の危険性があるのはみえみえだった。
色々考えを廻らせている絳攸に、楸瑛は肩をポンッと叩いたのだった。
「……絳攸、頑張って」
「…………ああ」
そのやり取りをみて、燕青は(早まったかなー)と思いながらご飯を掻っ込んでいたのだった。
傍らの秀麗は「姉様、どうするのかしら」などと呟いていた。
後日、とある官吏が琳麗を見ると怯えるように逃げていってしまい、#琳麗#は小首を傾げる日々が続いたのだった。
END
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