桃茶会


背筋を伸ばし隙のない身のこなしでさらさらと回廊を渡り、朝廷三師の室へ琳麗は向かっていた。
手にはいつも通りにお茶請けの菓子などが入っている籠を持っている。
すると、ふわりと、芳しい香の薫りが漂った。
気配を感じ、横を振り向くと三十代後半ほどの男性が、明るく華やぐような笑顔で立っていた。


「やあ、こんにちは。今日も会えたね」

「晏樹様、こんにちは」


甘い微笑みに臆することなく琳麗も微笑んだ。晏樹―≠ニ呼ばれた男は、ふふっと笑うと琳麗が持っている籠を見た。


「今日は何を作ったのかな?」

「今日ですか? 今日は桃饅頭を作りましたの」

「へぇ、それは美味しそうだね」


最近、というかほぼ毎日だが回廊を歩いている時にこの彼と会うようになった。
官服を着崩した姿だが、それがまたよく似合っていた。佩玉も冠もつけていないが、それを許される立場なのだろうと琳麗は思った。
だが、垂れた目尻が甘い愛嬌をかもしていた為琳麗はあまり構えずにいてしまっていた。
初めて会った時は、ついついポカン…としてしまったが、次会った時に跪拝をしたら甘い笑顔で「そんなのしなくていいよ」と囁いたのだった。


「よろしかったらお持ちになります?」

「いいのかな? 霄太師たちのなんだろう」

「大丈夫ですよ、たくさん作りましたので」


琳麗は微笑むとその場に籠を置いて取り出そうとしたが、晏樹がややあってそれを制した。


「晏樹様?」

「せっかくだから、お茶もしたいな。よろしければだどね」


ちらっと庭院にある四阿を見て話す晏樹に琳麗は微笑した。


「はい、私でよければ」

「じゃあ、行こうか」


琳麗の手を引いて回廊から降りるとすぐそばにある四阿に入った。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



籠の中から、茶器を出して桃饅頭を懐紙に載せた。コポコポと湯呑みにお茶を注ぎ晏樹の前に差し出した。


「どうぞ」

「はい、ありがとう」


懐紙に載った薄桃色の桃形の饅頭に手を伸ばし、晏樹はぱくぱくと食べ始めた。


「うん、とても美味しいね。本物の桃も好きだけど、この桃饅頭も好きだな」


笑いながら話す晏樹はパッと桃を一つ取り出した。急に現れた桃に琳麗は「まあ!」と驚き笑った。


「すごいです!」

「ふふ、喜んでもらえるととても嬉しいよ。よかったら剥いてくれないかな」

「いいですよ」


差し出された桃を受け取り、琳麗は小刀で器用に剥いていく。晏樹は湯呑みを弄びながらそれを見ていた。


「ふーん、剥くのが上手なんだね。すぐにでもお嫁さんになれるね」

「そんなこと……それにお嫁さんだなんてまだまだです」

「そうかな? そんなこともないんじゃない?」


そんな会話をしながら剥いた桃を並べていくと、晏樹はそれを次々と平らげていく。


「というか……まだ結婚なんて考えてませんから」

「誰か想う人がいるとか? 妬けちゃうな」

「まあ! 晏樹様こそ誰かいないのですか?」

「うーん、そうだね。菜が上手で桃を綺麗に剥ける人がいいね」

「でしたら、女性の方は菜上手になりますね」


クスクス笑う琳麗に、晏樹はやや肩をすくめた。

 どうも通じていないようだ。

切り終えると琳麗は、晏樹の手が果汁で濡れているのに気付き手巾を出すと拭ってあげた。


「ああ、ありがとう。食べにくさと果汁で濡れなければ桃はいつでも食べていたいんだけどね」

「でしたら、どうぞ」


琳麗は剥いた桃を手に取ると、それを晏樹の口許へと運んだ。
突然のことに瞠目したが、クスッと笑うとそのまま琳麗に食べさせてもらった。


「やはり、こうやって食べさせてもらうのが一番美味しいね、ありがとう」

「いえ、お気になさらないで下さい」


にこにこと微笑を浮かべていると


「琳麗……か?」


名前を呼ばれ振り向くと劉輝の姿があった。


「まあ、主上。どうなさったのです?」

「いや、ちょっとな。そこにいるのは、晏樹殿か?」

「これは主上。ご機嫌麗しく存じます」


晏樹は声を掛けられると頭を下げ、優雅な仕種で劉輝に礼をしたのだった。


「いや、そんなに畏まらずとも……それより琳麗、さっき宋太傅が探していたぞ」

「えっ! きっと待ちくたびれたのですね」


劉輝は晏樹を制し、ちらりと琳麗を見た。すると晏樹はクスッと笑みを浮かべた。


「ごめんね、ありがとう。では、また。それでは主上御前失礼いたします」

「いいえ! ではまた」

「うむ」


晏樹は、ふわりと髪をなびかせながらそこを後にしたのだった。
琳麗が籠に茶器などを仕舞っていると、劉輝が降りてきたのだった。


「琳麗は、晏樹殿と知り合いなのか?」

「そう、ですね。最近知り合いましたので」

「そうか。ところで、この饅頭は琳麗が作ったのか?」


まだ箱に入っている桃饅頭をみて劉輝がつぶやいた。


「ええ、これから霄太師たちにと……劉輝様もいかがですか?」

「良いのか?」

「はい」


にっこり笑う琳麗に劉輝はウキウキとして、琳麗と回廊へと戻り歩き始めたのだった。
二人の会話(むしろ劉輝からの質問攻め)は秀麗に関してだったのは言うまでもないことだった。



END

for.李蓮様



あとがき

[李蓮様へ相互小説]

えーっと……このようなモノでよろしかったでしょうか?
リクエストは[晏樹夢]果たして晏樹夢なのかドッキドキしております。
言い訳的には……キャラが掴めていない為あやふやになってしまい申し訳ございません!
しかも最後はなぜか劉輝……予定では霄太師か宋太傅だったのに……あれ?
このようなのでよろしければお受け取り下さい!
ベシッと投げ返しても文句はいえないです。
当たり前ですが、李蓮様のみお持ち帰り可です。


2007/03/30

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蒼天の華
恋する蝶のように