恋愛熱中病


「あら、静蘭は今日お休みなの?」


朝餉も終わり、邵可はすでに出仕して、秀麗はとある賃仕事に行ってしまった後で静蘭は告げたのだった。


「ええ、ですからお手伝い致しますよ」


洗濯物を干し終わり、琳麗は葉医師の診療所で手伝いの予定があるのでそれに付き添うという静蘭に琳麗は頷いた。


「うーん、そうね。来てくれると助かるわ。あと買い物もあるし」

「今日は葉医師の所だけでしたね、そろそろ参りましょうか」

「そうね、行きましょう」


二人は葉医師の診療所へと向かったのだった。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



静蘭がそこで見たものはこめかみに青筋を立てるような光景だった。


「琳麗ちゃーん、怪我しちゃったんだよ〜手当てして〜」

「大丈夫ですか? 血が出てますが、これなら消毒すればすぐ治りますよ」


ほんのかすり傷程度の手を出し、琳麗に手当てしてもらう者、または


「琳麗ちゃん、俺、腹が痛いんだけど摩ってもらえないか…」


または…


「琳麗さん、俺頭が重いんだけど熱でもあるのかな……計ってくれないかな」


それぞれ病状を口に出すがどうみても、どこも悪そうに見えないのである。
そして、外を見ていると男ばかりが走って診療所にやって来る。
静蘭は額を覆い、琳麗の傍に行った。


「……琳麗様、手伝います」

「静蘭」

「こんなにたくさんではお疲れになるでしょう?」

「大丈夫よ」


琳麗に熱を計ってもらっていた男は、目の前に急に現れた美青年にポカンとした。
愛しの琳麗に耳打ちをする美青年に男は眉を潜めた。

クスクスと微笑し、「静蘭」と親しげに呼ぶ琳麗に男はムッとした。


「じゃあ、お願い出来るかしら? 私、旻おばさんの様子みて来るわ」

「はい。お任せ下さい」

「えっ、琳麗さん?」

「ごめんなさい。静蘭、あとお願いね」


椅子から立ち上がり、奥にある施術室へと行こうとしていた。
奥では貧血を起こした旻おばさんが横になっていたのだ。血の道ということなので、琳麗が様子見に行くのだが、それを知らない男は琳麗の手を掴んだ。


「琳麗さん! まずは俺を診てくれよ…」

「えっ、あの、熱はないようですし……」

「そんな訳ねえよ、こんなに頭ふらふらだしよぉ〜」


琳麗の腕を掴んで男は彼女を引っ張った。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「きゃっ……」


ぐいっと腕をとられ、琳麗は体勢を崩した。
このままでは目の前の男性にぶつかってしまう!と目をつぶり衝撃に備えた。
しかし、それは訪れず腕ではないところを掴まれている感触があった。


「……あれ?」


そーっと目を開くと、掴まれていた腕は離され、見れば腰に手が巻き付いていた。
ぎょっ!として辺りを見ると目の前の男性はなぜか青ざめ、周りにいた男性たちも顔面蒼白ていう感じだった。
みんなが見ている自分の後ろが気になり、バッと振り向くと静蘭の爽やかな笑顔があった(琳麗談)
そして、琳麗はある事に気付いた。それは静蘭が背後から琳麗の腰を抱き寄せているという今の体勢。


「せ、静蘭っ!」

「大丈夫ですか? 琳麗様」


間近にある端正な顔に驚いた。琳麗はほんのりと頬を染めたのだった。


「う、うん。……大丈夫…えと、離して?」

「はい。琳麗様、旻おばさんの容態はいいのですか?」


ゆっくりと優しく解放され、琳麗は静蘭を見上げると、にっこり笑みを浮かべてそう言った。


「あ、そうだったわ。……でも、」


ちらりとたった今、看て欲しいと言った男性をみると、静蘭が口を開いた。


「大丈夫です。こちらは私がみますから、琳麗様は旻おばさんを」

「……じゃあ、今度こそお願いね。あの、私の代わりに静蘭がおりますから……」


そう笑顔でいうと琳麗は奥へと入っていったのだった。その後、男性たちがどうなったのかは葉医師しか知らぬことだった。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



診察が終わり、二人は葉医師に「終わったから帰っていいぞ」と言われ、診療所を後にした。
夕餉の材料を買うべく、二人は歩いていた。


「今日は静蘭がいて助かったわ。いつもならもっと時間かかるの」


ふふっと笑う琳麗だったが、静蘭は笑顔を出しつつ内心はため息をついていた。

最近、よからぬ噂を聞き付けた。どうやらまたどこぞの男が、琳麗にちょっかいを出しているという。
それは決まって自分が付いていかない賃仕事先や葉医師の診療所に来るという。
それを聞き、一緒に行けば、あの有様には肩を落としかねない。
とりあえず、脅しをかけ追っ払うのには成功したものの……そんな事を考え、隣をみるとにこにこと笑っている琳麗がいた。


(……なんて無防備なんだ…)


いったい何人、何十人虜にすればいいのだろう?
本人は無自覚だから仕方ないといっても……。

はあっ…と静蘭はため息をつくしかない。


「どうしたの? 静蘭、疲れちゃった?」

「あ、いえ……」


ため息が聞こえたのだろう。琳麗は心配そうに見上げた。


「診療所で風邪とか移ってないといいのだけれど……」


呟き、額に伸ばしてきた手を取り静蘭は訊いた。


「私が、風邪を引いたら看て下さいますか?」

「もちろんよ! 完治するまでちゃんと看るわよ? えっ、本当に風邪とか移っちゃったの!?」

「いえ、風邪ではありませんが……そうですね、熱に侵されているかもしれません」

「ええっ!?」


慌てる琳麗の手を口に持っていき、静蘭は口付けをした。


「せ、せせせ静蘭っ!?」


真っ赤になる琳麗に微笑し、耳元でそっと囁いた。


『あなたへの熱は引くことはありませんよ』





END

for.蒼水ハル様



あとがき

蒼水ハル様へ相互記念小説です。
連載夢主と静蘭夢……というので書かせて頂きました。
が、ななななんですかーっ?
この訳わからん話はっ!orz
本当に申し訳ございません!ハル様、こんな駄作で申し訳ございません。
要らぬならペイッ!と投げて下さい……。
蒼水ハル様のみお持ち帰り可です


では、お読み頂いた方もありがとうございました。


2007/05/22

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蒼天の華
恋する蝶のように