第17話

天に舞う蝶

絳攸さんは何やらあの美貌の君に用があるらしく、家人に取り次ぎをしていた。
しかし、秀麗ちゃんのいる室へ向かおうとしたら、家人に違う室へ案内されていった。
ついていくのもどうか、と思い秀麗ちゃんがいる室へと来ると、あの美貌の君が室から出て来た。

「……あ」

「…………」

「あ、すみません。塞いじゃって」

サッと横に避けると、美貌の君は「いや」と言ってさらり、と流れる髪を靡かせて絳攸が案内された室の方へと歩いていった。

「……やっぱ、男にしとくの勿体ないな〜」

ボソッと呟き、室に入ると中には大量の草が散らばっていた。

「そこの庭院で、浪 燕青が賊に追い掛け回されているのだ」

聞こえてきた言葉に、蝶子は目を見開いた。そして耳をすませば、何やら怒号や悲鳴が聞こえている。
翔琳の言葉に秀麗も驚きを隠せないようである。

「は、はぁ!? 何やってんのよ? あ、蝶子さん! 燕青、暴れてるって本当!?」

燕青と一緒にいたと思われる蝶子の姿を見つけ、秀麗は近寄って来た。

「あー……なんか、色々仕掛けを作っていたけど……」

なんとなく、燕青の他に劉輝や楸瑛さん、静蘭さんの存在を話していいのか微妙な気持ちになる。
秀麗の様子から見ても、今夜、劉輝が「夜這い」をしてくるというのは知らなかったみたいだ。
もしかして本当に妻問婚なのかもしれない。確かに夜這いだわ!
ふむふむと、何かに感慨深く頷いていると、秀麗が驚愕しているのに気付いた。

「な、ななな何言ってんですか。こ、これ、私の見間違いじゃなければ」

「どうかしたの? 秀麗ちゃん」

「えっ、あっ、だっ」

「秀麗ちゃん? 落ち着いて?」

何かを手に持ちながら、ふるふると震えている。

「? なにそれ?」

彼女の手にある不思議な形の物に蝶子は小首を傾げた。
金色でいったいなんなのか、カラクリ玩具のような、装飾品?のようなわからない物であった。
しかし、秀麗にはそれが聞こえないのか、「それ」を凝視して声を上げたのだった。

「なんでこれをあの子がもってるわけ!?」

その言葉に蝶子と葉医師は顔を見合わせ、小首を傾げたのだった。
外からはまだ怒声やらが聞こえてくる。その中に混じって聞き覚えのある声がとんでもない事を叫んでいるのに気付き、蝶子はくっくっと笑いを堪えた。

「どうかしたの? 蝶子さん」

さっきの金色の物体をきっちり持ったまま、聞いてくる秀麗に蝶子は苦笑をする。
先程から微かに聞こえる「夜這いーっ!」に笑えてしまうのだ。あれはどう考えても、蝶子の幼なじみであり、この国の王である紫 劉輝である。

(よっぽど悔しかったのかしら?)

秀麗を見て、蝶子はぷくくっと笑うしかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


うつらうつらとしている頃、外の騒ぎはなにやら静かになっていたのに、蝶子は気付いた。

(……今、何時なんだろ…)

いつもなら自分が身につけていた腕時計があり、だいたいの時間は把握出来ていたが、今日に限って時計を忘れてきたようだ。

「……くはぁ…」

欠伸をしていると、トントンと扉がノックされている。秀麗はまだ続き部屋にいる曜春のそばにいるし、と思い、立ち上がると扉を開いた。
そこにはなにやらボロボロに汚れている美形集団+熊がいた。でもさっきの美貌の君のせいで感動などなかった。

「…………えーっ……と…」

「蝶子っ!」

「ぐぇっ!」

劉輝が私を見るなり、ギュッと抱き着いてきた為、やや苦しい。

「ど、どしたの? 劉輝……」

「…………」

「どうしたんだ?」

しばらく前から部屋に来た絳攸さんも面々のボロボロの姿に驚いていた。
室に来た時はやや疲れていたように見えたが、ずいぶん長く話していたようだ。──彼女は絳攸が未だに方向音痴だという事には気付いていなかった。

「……は」

「歯?」

「腹が空いた……のだ……」

へなへなと蝶子の肩に手をかけ、崩れるような劉輝に蝶子はポリポリと頬をかいた。
他の面々を見てみると、同じなのか苦笑しながらこちらを見ている。

「…………えー、っと…」

どうしたらいいのかと考えていると、続き部屋から秀麗が顔を出した。

「どうかしたの? 蝶子さ──!? な、ななななんでアンタがいるのよ──っ!?」

劉輝の顔を見て、秀麗が叫んだのは言うまでもなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


秀麗は驚き、怒り、呆れながらも劉輝や静蘭さん達に懇願され、あの美貌の君(結局名前は教えて貰えず)に頼み、早朝とも呼べない時間に庖厨を借りた。
それは空腹な彼らにご飯を作る為に。手伝いをしようと思いながらも、ガスやレンジがないのはつくづく不便だな〜と感じたのだった。

「……秀麗ちゃんってやっぱりすごいねぇ〜」

「え?」

「だってガスやレンジないのに料理出来るなんて、感心しちゃうわ」

「……がす? れんじ?」

「ん、ああ、あまり気にしないで。これ、運ぶねぇ〜」

出来上がった饅頭などを持ち、蝶子は劉輝たちがいる室へと向かった。

「お待たせ〜」

テーブルにトントントンと料理を並べると、わらわらと皆さんが集まってきた。
秀麗ちゃんもやって来て、みんな一斉に食べ始める。勢いよく食べてるのは燕青と翔琳くん。
楸瑛さんと絳攸さんは黙々と食べている。劉輝は秀麗ちゃんにせがんでいる模様……ふと、蝶子は静蘭を見た。
さっき、劉輝が言った言葉が引っ掛かったのを思い出す。

『──兄…』

確かにそう言った。
そして、劉輝と静蘭の顔を見比べる。

(…………やっぱり、似ている…?)

琴線に引っ掛かるものがある。もしかして、と思う節がある。
劉輝の静蘭さんに対する発言を思い出し、じーっと見ていると、視線に気付いたのか静蘭が蝶子を見た。

「どうかしましたか? 蝶子さん」

「……ん〜…何て言うか、静蘭さんって昔、どこかで会ったことないですか?」

途端に劉輝、楸瑛、絳攸が慌てた。

「そ、そんな訳ないだろう!」

「んー……そうだろうけど、どっかで会ったことあるような気がするんだよね…」

「気のせいですよ」

にっこり、と。しかもあっさり否定されるとなんだか踏み込めない気がする。
まるで、そんな話はするなと言わんばかりに。
もともとそんなに気にしない蝶子は、ふーん。とだけで秀麗と一緒に傷だらけの彼らに傷薬を塗ってあげたのだった。




To be Continued


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