03
自分の世話焼きを呪いたくなった麗らかな春の日でした。
(なーんで、私こんなとこにいるんだろう?)
そんな風に考えて、両隣に立つ羽林軍大将軍二人をちらっと見る。そして、目の前に列ぶ精練された武官。
「いいかー、おめえら! これからコイツがお前らの世話するからな。だが、なるべく自分でやるんだぞ」
「…………わかったな」
滅多に喋らない黒大将軍にまで言われ、武官たちは両大将軍に挟まれている小さな、でも麗しい男の子を見た。
小首を傾げそうになりながらも彼等は「ウスッ!」と漢らしく返事をした。
「……管 葉流です……が、頑張ります…?」
若葉はなぜこんなことになったのかと、天を仰いだのであった。
男装させられ、なぜ羽林軍の武官の世話をしなくてはならないのだ。
(これもかれもみーんな、あの呑んだくれ親父と、この二人のせいよね!)
キッと白大将軍を睨めば、ニヤリ、と笑われた。──なんか腹立つなー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
思い出せば、あれは外出から帰った時のこと。屋敷はやたらと騒がしい上に、酒臭かったのだ。
(まーた、あんの親父は……)
なんだってこんなに酒の匂いがする屋敷にいなくてはならんのだ、侍女さんたちが可哀相だ!
代わりに文句を言ってやろうと、バンっ!と扉を開ければ虎がいました。
「っ!?」
「なんだぁ? 若葉、扉は静かに開けやがれ、うるせぇな」
「誰だ、この嬢ちゃんは」
「…………」
なぜ、ここに羽林軍の大将軍が二人揃っているんだ?
「……飛翔…」
「なんだぁ?」
「何、してるのかなー?」
俯いて話す若葉に飛翔は酒瓶片手にそのまま叭飲みしていやがる。そして、その周りには阿呆なくらいの酒瓶酒樽の山……。
「見てわかんねえのか? 酒盛りだ、酒盛り。久々に会ったからよぉ、飲み比べしてんだ」
あっはっはっと笑う酔いどれ親父に腹が立つ!そして、なにより散らかった部屋に腹が立った。
「あんたねーっ! せっかく掃除をして、空気を入れ換えてすっきりさわやかーな、部屋にしておいたのに、何してんのよっ!!」
胸倉を掴み、一気に文句を言い放つ。若葉が出掛ける前までは、侍女さんたちと部屋を綺麗にし、綺麗な空気にしておいたのだ。
帰ったら、さぞかし気持ちいいだろうと思って……それなのに…。
綺麗に掃除した風呂の一番風呂を横取りされた気分だ……。
「あぁ? また掃除すればいいじゃねぇか、それよりあいつらの事は判るのか?」
後半の部分はそれとなく小声で聞いてきたので、若葉はちらりと豪快に呑んでいる白大将軍と、対称的にチビチビと静かに呑んでいる黒大将軍の二人を見て頷いた。
「羽林軍の大将さんたちでしょ……でも、三人が飲み交わす程仲が良いのは知らなかったけど?」
「ふーん、まぁいいか。おーい、二人とも紹介するわ、俺の養い子の若葉だ」
「お前ぇの養い子だぁ? 飲み比べは出来るのか?」
「…………未成年なんで」
つか、なぜすぐに飲み比べになるんだ?訳がわからん。
「なんだ、つまんねぇな!」
「…………」
つまんなくて悪かったな!そう思いながら、転がっている空の酒瓶を手始めにゴミやなんかを片っ端から片付けていった。
無言でテキパキと瓶だのなんだのを片付けていると、なにやら飛翔と白大将軍がひそひそ話している、なんだ?
その時、あのムカつく笑みに気付くべきだった。
まさか、こんなことになろうとは……誰が思うかってんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そんじゃあ、早速働いてもらうか」
「……はい」
白大将軍に連れられてやって来たのは、羽林軍の官舎である。
そう私はこの羽林軍の掃除のおばさんである。若いし男装してるけど。
あの散らかった部屋を片付けていくのを見て、これはいいと思ったらしい。
飛翔には勝手に話しを付けた上に、あんの酔いどれ親父「面白そうたがら快諾しといた」とかぬかしやがった。
「……自分、女なのにここ(外朝)にいていいのかしら」
「男の恰好してるから平気だろ」
「そりゃ、そうだけど……普通バレるだろ……」
いくら女顔の男が多い(特に紫家辺りで)からって、私はこれでも校内美少女コンテストに選ばれるくらいだぞ(グランプリはとったことないけど)
やれやれと肩が落ちる。なんとも虚しいな。なんて官舎の中に入れば、臭い……。
「…………最悪…」
室内を見渡しでボソリと言う若葉に、さすがの白大将軍もボリボリと頭をかく。
洗濯物や酒類が山のようにあちこちに落ちている。
「一人で無理なら、誰か呼ぶか?」
「当たり前。まずはこの洗濯物を外に出さなくちゃね」
腕まくりをし、襷掛けをする。白大将軍が助っ人を呼びに言ってる間に落ちている洗濯物を拾い、外へ放り出してやった。
暫くして、やって来たのは意外にも小柄な青年であった。
「葉流さん、大丈夫ですか? 手伝いますよ」
「あー、ありがとう。えーっと……」
やって来た青年を眺め、見た事があるような、ないような……誰だっけ?なんて見ていると、彼は微笑して自己紹介をしてくれた。
「俺は皐 韓升です。大変だけどやってくれると助かるから、よろしく」
「……あー、うん頑張るよ、」
面倒だけどね、と心の中で呟いた。そしてまじまじと顔を見る。そういや、いたっけな、と思いながら、山のような洗濯物をザッシュザッシュと洗っていった。
洗濯機もないのに、面倒臭い。ついでに本当に臭い。何が悲しくて褌なんかを洗わなくちゃいけないんだ、こんのやろぉ。
始めは上着とかしかなかったのに次々と出て来た洗濯物を洗っているうちに気付いた。
思わずギャッと悲鳴をあげてしまったのは仕方ないことだった。
怒りパワーに任せ、もう何枚も洗っていたのに気付いた時、もう違う意味で吹っ切れた。
今度、嫌がらせにあんの親父の褌に花柄刺繍でもしてやる。
ふっふっふっ……と目を据わらせながら笑う若葉に皐武官が呆然としているのには気付かなかったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
天気もよく、風もある日だったので干された物はパタパタと風にさらされていく。
「よっし、洗濯終わりっ!」
皐武官に手伝ってもらったおかげでなかなか早く終わることは出来た。洗濯は。
次は……官舎内の掃除である。
「……まずは酒樽がより多くありそうな右羽林軍官舎からやるか!」
どちらも大酒呑みだが、性格上白大将軍の方がありそうだ、意味もなく武官に飲み比べをしていそうだし。
室に入れば、足の踏み場はどこだ?という感じに大小様々な酒樽が落ちている。
辛うじて、獣道ならぬ酒樽道を歩きガッチャガッチャと瓶や樽を集めていく。
台車らしきものを借りては何回も往復して、やっと床から酒瓶が無くなった。
「……やった、やったよ! 私、エライッ!」
若葉は両手を上げて万歳をした。続けて、同じように左羽林軍の官舎を片付けたのである。
「あー……やっっっっと、終わったぁぁ……」
ぐったりとしながらも額の汗を拭う。隣にいた皐武官も一仕事終えて、ホッとし、二人は達成感を味わった。
この時、若葉はある事を忘れていた。ここにいることである事に巻き込まれることを。
「じゃ、私この最後のゴミ棄てて来るねから」
「あ、はい。お疲れ様でした。俺も戻りますね」
「うん、ありがとう! 頑張ってねぇ」
女言葉になりながらも、なぜか皐武官は気にもせず、稽古場の方へ行ったのを見送った。
若葉は首をゴキゴキと鳴らし、台車に手を掛けようとして、背後から声をかけられた。
「おや、君は? 何をしているんだい?」
妙なエロボイスに若葉は嫌な予感がした。
そうだ、ここは「羽林軍」でしかも「左羽林軍」の官舎である。
そろーっと振り向けば、そこには藍色の服を着た人がいた。
(…………見つかってはいけない人と会ってしまったわ…)
自分の言った事が意味不明だと分からない若葉であった。
(最悪ーっっ!!)
To be Continued