誰も知らない
私には5歳から、同じ年の幼なじみが2人いる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昼休み、次の家庭科の準備で持ってきたチェックのエプロンをバックから出していると、教室の入り口付近でガヤガヤと騒ぎ声が聞こえた。
『かーのじょっ! 昼休みだぜ、一緒にサッカーしない?』
『ダーメダメ! 彼女、次は家庭科だから』
『準備忙しいよねぇ』
男子三人がポンポンと彼を叩きながら矢継ぎ早に喋っている。
『──おい、オレの着てるのがセーラーに見えるかよ。この三つ子』
『おやおや、これは自覚のない。その強烈に華奢っぽい肩幅』
『かわいっポイ、ツラ』
『加えて全国の中学三年男子平均身長をハルかに下回った上背』
『天野 平! きさまにセーラー服なぞ、てんで必須アイテムではないわ』
三つ子と呼ばれたが三つ子ではない三島、馬場、鹿須賀はわーははははは、と笑いながら女っポイ、カマっぽい、ニブっポイと彼に言ってはならない言葉を連呼していた。
半泣きになりながら、その彼──女の子顔負けの天野 平は『ポイポイ、うるせえんだよっっ』と蹴りを入れていた。
「遥ー、どうかした? 早く家庭科室行こう」
「あ、うん。今行く」
クラスメートの久々留に声を掛けられ、私、小早川 遥は返事をしてバックを机の横に掛けると廊下で待つ友達のもとへ行った。
教室から出る際に視線を感じて、振り向けば同じクラスの日下 万里くんがこっちを見ていた。
目が合うとパチンとウィンクされたが、彼女は普通に笑って教室から出たのだった。
「遥〜、作ったカップケーキどうするのよ?」
「え、どうするって?」
「彼氏にあげないの? 年上の!」
後ろから抱き着きながら歩く久々留に、遥は考えながら答えた。
「んー、でも今日は会わないし、自分で食べるよ」
「もぉ〜遥ったら、せっかくの手作りを彼氏に渡さないなんてぇ〜! ウチらなんて渡す相手もいないのに〜」
その返事に抱き着いていた久々留が、いやんいやんという風に言うと、ニッケこと新竹が抗議をした。
「ちょっと、ククルー!ひとくくりにしないでよ」
「ニッケったら、上げる相手いるの?」
「うっ…いないけどさ〜」
「みんな、というか大半は日下くんみたいだよね〜」
「日下くん、今日は胸やけするかもね。でも、私も日下くんにあげよっかな〜」
周りの女子を見れば、みなラッピングなどを持ち、誰にあげる?などと話していたが、大方決まって『日下万里くん』という名前が出ていた。
「競争率高いからね〜」
「でも他の男子にあげるよりはマシよー」
キャハハハと笑いながら彼女たちははしゃいでいた。
それを見ながら、遥は作ったカップケーキはどうしようかと悩んだのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
放課後。
当番だった為、家庭科室の片付けを済ませ、荷物を取りに教室へと向かう途中で声を掛けられた。
「遥」
「あれ、真、ヒナ。どうしたの?」
廊下で会ったのは同じクラスの友達、竹刀を片手に持つ剣道部の相模 真と、ちょっと引っ込み思案な一ノ瀬 雛姫だった。
「教室に忘れ物をしてな。遥は……ああ、当番か」
「うん。疲れたよ」
「お疲れ」
「お、お疲れ様……遥ちゃん……」
そんな会話をして教室へ近づく途中、顔を真っ赤にした隣のクラスの坂下さんが通り過ぎていった。
「なんだ?」
「さあ……?」
三人揃ってなんだろ、と思いながら近くまで行くと理由が分かった。
教室のところで男子三人が騒いでいたのだ。
『うるせえっっ! いくらバスケが背の伸びるスポーツでもおまえだけは入れんぞッ!』
『頼まれたってゴメンだねッ! 勝手に他人の15年を定規なんかで計りやがって!』
『そーだ。平のこと知りたきゃ、オレに聞きゃおもしれぇ事教えてやんのに』
『知りたかねーわいっっ!』
騒いでいるのは、同じクラスの天野 平と日下 万里そして三年C組の花島田 英達だった。
ぎゃいぎゃいと騒ぐ姿に真が喝を入れた。
「うるさいっ! 男のくせに放課後口ゲンカとは見苦しい! サッサと帰ればいいだろう!?」
「マッ、真さんッ!」
「あら、相模 機嫌悪いの?」
彼らが会話をしてる間に遥は教室に入り、まとめて置いたバックを持つと廊下へ出た。
日下くんがヒナに何か言ったのか、真っ赤になって真の後ろに隠れていた。
「ホーラ、そんな事ないって一ノ瀬さんは言ってるぜ」
「ふん」
「それより、オレに何か言いたくて残ってたんじゃないの? 今日はまだ受け付けするよ。おまえらうちのクラスだし、トクベツ」
にっこり笑いながら、両手を出しているが、それを「ば―――か」と一瞥して真は歩いて行った。
ヒナがそれに慌てて追い掛けて来て、入り口のところで私と会うと
「またな、遥。お前も変なのに絡まれないうちに帰るんだな」
「よかったら、小早川も受け付けるよ」
真の言葉に彼らを見ると、にこにこと笑いながら手を振られた。
「…………そだね、もう帰るよ、じゃあね」
「ああ、また明日な」
「あ、ば、バイバイっ…遥ちゃん」
「うん。またね、二人とも。──じゃあ、バイバイ、天野くんたち」
とりあえず、彼らにも挨拶して遥は廊下を歩き出した。
その姿を天野と日下はジッと見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自宅への道をしばらく歩いていると、バタバタと走ってくる音がして振り向くと、彼らがいた。
「遥─っ!」
「……どうしたの? 天野くん、日下くん」
息せき切らながら走ってきた二人に言った途端、天野くんが顔をしかめた。
「そんな風に呼ぶのやめろってば!」
「まあ、まあ、平。落ち着けって!」
「…………」
遥はそんな二人を見て、辺りを見回してから、ハァ、とため息をついた。
「誰もいないから大丈夫だよ」
「そう……ごめんね。平ちゃん」
それでも平はやや顔をそっぽ向けたままだった。
遥はぽりぽりと頬をかくと、ごそごそとバックを漁り
「これあげるから、機嫌直して、ね?」
バックから出てきたのは袋に入ったカップケーキだった。
菓子好きな平はそれを見て、ううっとなりながらも、受け取った。
「こ、今回だけだからなー」
そんな風に言いながら平は遥からカップケーキを受け取り、ほくほくと嬉しそうにしていた。
「口に合えばいいけどね」
「でもさ、遥。これ彼氏サンに渡さなくていーわけ?」
万里が何故か怒っているのかそんな風に聞いてきた。が隣の平ちゃんは既に袋からカップケーキを出し、噛んでいた。
「えっ」
「んー、別にいいよ。あっちはなんだか忙しいみたいでしばらく会えないって言ってたし。だから、平ちゃん、食べていいよ」
彼氏という単語に止まっていた平ちゃんだったけど、遥がそう話すとホッとしたのかガツガツ食べていた。
「……俺にはくれないの? 遥」
「万ちゃんは他にいっぱい貰ったから、充分じゃないの?」
しょげた風に見下ろしてくる万里に遥は首を傾げた。
見れば両手の紙袋にはいっぱいのラッピングの山。
「オレは遥から貰いたいんだけど」
「欲張りだね、万ちゃん」
「というか遥が作ったの食べたい」
「? そんなに好きだったっけ? 別にいいけど」
そういうなり万ちゃんは平ちゃんが持っていたカップケーキの袋を取り上げた。5個入っていたのに、残り1個になっていた。
「なんだよ、万里っ! オレが遥から貰ったんだぞー」
「オレも貰っていいんだってさ。最後の1個くらい寄越せよ、平」
ぎゃあぎゃあ、と騒ぐ二人が遥の十年来の幼なじみであった。そんな二人を見て、遥は微笑したのだった。
それをみた万里の頬が少し緩んだのは、誰も知らない。
To be Continued