一行メール

っポイ!

私には年上の彼氏がいたりする。
2コ上の彼は現在17歳。高校2年生の青春を謳歌していて、彼女の私といえば、中学3年生、灰色の受験生。
だからかな、最近はどうもすれ違いが多い。
受験大変だろう、と気を遣っているのか会うことも電話することもずいぶん減った気がする。
メールを見た後、パチンっと携帯を折りたたみ、遥はハァとため息をついた。

「どうしたのん? メール、彼氏からのラブメールじゃなかったのぉ?」

ガバッと抱きついてきた久々留に私は思わず前のめりになった。

「んー、今度の休み、ガッコの友達と約束あるんだってさ」

「なになに〜? デート断られちゃったわけ?」

「うーん、デートって訳じゃないんだけどね……」

遥は微苦笑してみせた。

「あーぁ、でも遥はいいわよね〜彼氏がいてさ。私も彼氏欲しい〜。みんなの好みのタイプってどんな感じ?」

久々留が聞くとみんなはキャッキャッと笑いながら、話していた。
ただ一人、雛姫だけは話のタイミングが掴めなくて、しょんぼりすると真に引っ付いてしまった。真と目が合い互いに微苦笑した。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕方、遥は自分の腕時計と見た。

「5時すぎか……そろそろ帰ろうかな」

買い物と駅前通りにある書店に参考書などを選びに来たのに、ついつい小説コーナーで新刊を眺めてしまって時間をかなり使ってしまった。
新しい本に心を奪われながら、ハードカバーは嵩張るんだよね、と悩んでいたのだ。
とりあえずは目当てだった参考書を手にして、書店を出た。
この時間はまだ明るく、空が綺麗でなんだか嬉しくなる。もうすぐ夏になるのもあって、日が長くなるせいかもしれないけど。
そんな風に考えながら歩いていると、両手に大きな紙袋を持った、幼なじみがいた。

「……万ちゃん…?」

声音に気付いたのか、彼は振り向いた。

「あっら、遥じゃん。今帰り?」

足を止め、待っているので遥は少し足早で隣に並んだ。

「万ちゃんこそどうしたの? すごい沢山だね」

紙袋の中身はパズルの箱がいっぱい入っていた。

「相変わらず、好きなんだね。パズル」

「ま、ね。遥は何やってたの?……デートの帰り、とか…?」

後半、少し声が変わってしまったが、遥は首をふりながら、書店の紙袋を見せた。

「ううん、買い物。本屋に行ってたの。参考書とかを買いにね」

「へぇ、もう勉強してんだ。偉いじゃん」

「ん〜、でも偉くもないって。とりあえず、って感じかな? 万ちゃんこそ勉強してるのぉ〜?」

「してるって、一応ね」

「余裕だね〜〜さっすが万ちゃん」

クスクスと笑う遥の姿に万里は眼を細めた。

「そういや平ちゃんは? 珍しいね、一緒じゃないなんて」

「それが平のヤツさ、待ち合わせしたのに来なくてさ、悲しいのなんのって」

ヨヨヨ…と泣き真似をする万里に遥はクスクスとまた笑う。
我が幼なじみながら相変わらずだ。

そんな様子を眺めながら、万里は思う。
いつからだろう──こんな風に外で──しかも知り合いがいない場所でしか話さなくなったのは。
学校では日下くん、天野くんと一線を引かれ、外では万ちゃん、平ちゃんと呼ばれる。
何があったかは理解していた、ただ教えてもらえなかったことに今でも胸が痛む。

『学校では名前で呼ばないで。私も名前で呼ばないから』

顔を逸らされて言われた言葉に、平はもちろん怒った。だが和兄が説得したのか、勃然としながら「分かった」と答えて、もう4年。
大体の理由は分かっていたけど、自分が出れば余計に傷つくのを知っていて、ガキだった自分に腹が立った。
守りたいのに、守れない。しまいには、その役目もどっかの誰かに奪われた。
悔しかった。彼女の隣にいつもいたいと思っていたのに、遠回しな守ることしかしなかった自分が。

「────ぁ…」

不意に放たれた声に隣の遥を見る。どこか一点を見ている視線を追って万里は、もう一度遥を見た。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


街通りを歩き、駅前を通っていると視界に見知った顔が入った。
そして、声が洩れた。

「────ぁ…」

目に入るのは、紺のブレザーと見知った彼の姿。──そして見知らぬ女の子の姿。
仲良く手を繋ぎ──どころじゃなく腕を組んでいる、恋人のように。
隣の万ちゃんも何かを察したらしい、こういう所は流石だなんて思う。
あっちもこちらに気付き、彼の顔が驚いていたが、そばにいた女の子は彼に抱きつき、見せ付けてきた。まるで────彼は貰ったわよ。と。
その瞬間、隣にいた万ちゃんが動いたのを咄嗟に上着を引っ張った。

「…………いい、から…」

「っでも!」

万ちゃんが何か言いたげなのを横で見上げて、悔しそうな顔を見て微苦笑してしまった。
そして、もう一度彼らの方を見る。彼と目が合うと、遥は口元を動かした。

『……さよなら』

それに気付いたのか、彼はこちらに来ようとするが、傍らの彼女がそうはさせないようにしていた。
万里は隣の遥を眺めながら、彼女が拳を握り締めているのが分かった。

「……遥…」

「……行こ、万ちゃん…」

くるりとこちらを向いて、袖を取られた。くいっと引っ張られて家路へと向かう。

「ちょっ、遥」

『遥っ!』

後ろから呼ぶ遥の彼の声に万里は振り向くも、遥は決して振り向こうとはしなかった。
万里は遥と彼を見ながら、ニヤリと笑い、バイバイと手を振った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


てくてくと歩く家までの道で、遥はなんともいえない気持ちになっていた。
ムカムカしているのか、それとも悲しくているのか、分からない感情がぐるぐると回る。
不意に暖かい温もりが右手に触れた。

「いつまでも握っていたら、痛いでしょ。あ〜ぁ」

「…っ万ちゃん…」

手を開かされれば、掌に爪の食い込みが少し血を滲ませていた。
それを万里は顔を近付けて、ペロッと舐めた。

「ばばば万ちゃんっっ!!」

バッと手を離し、遥は流石に真っ赤になった。
万里はニヤリと顔を歪ませて、「消〜毒」と言い切った。

「そんな消毒要りませんっ!」

顔を真っ赤にしたまま怒る遥に、万里はポンと頭を撫でた。

「怒りたいなら怒ればいいさ」

「……万ちゃん…」

慰めなんだと気付くと、目頭が熱くなり、鼻がツンとなる。

「……あ、りがと…」

「どういたしまして」

ぐっと堪えていたのがツゥーと頬に流れるのを感じた。
終わりにしたのは自分なのに泣くなんて情けない。
撫でてくる万ちゃんの手が暖かくて、優しくて、遥は幼なじみに甘えた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜、彼から電話があった。
言い訳と謝りの言葉、そしてさよならだった。
私の事を好きだと言ってくれたのは嘘はないと言ってくれて、それだけ聞けてよかったと思う。
電話を切った後、それでも何かを無くしたような虚無感が広がる。
こんな時は、パン作りだ。
遥は何かあるとパン生地を叩いてスッキリするストレス解消がある。
姉である藍がパティシエのせいもあって、菓子作りとパン作りも出来るようになっていた。
両親も姉もまだ帰ってこない。今夜も遅いんだろうと思うとキッチンへと降りていった。
ビタンビタンと生地に混沌とした気持ちをぶつけていると、聞き慣れたメール着信音。
手を拭いて、携帯を見ればさっき醜態を見せた幼なじみからのメール。

『パン出来たらちょうだいねv』

たった一行のメールだったけど、遥は思わず笑ってしまった。
そして、メールを打ち始めた。

『万ちゃんさえ良かったら食べてね。遥』

送信ボタンを押しながら、遥は日下家に向かって「ありがとう」と呟いた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メールの着信音が聞こえ、万里はメールを開いた。
大切な幼なじみで、大事な女の子。
彼女が泣く姿は見たくない。まして他の男に泣かされるのは腸が煮え繰り返そうになった。
それでも、喜んでしまった自分に嫌悪してしまいそうになる。
彼氏と別れた遥。誰のモノでもない彼女に少なからず嬉しくなってしまった。
万里はメールを見つめながら携帯に口吻けする。

「……好きだよ、遥」

ベランダから遥の家を見ながら呟いた。



To be Continued


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