恋してアマレット
「考えた事もない。今がいっぱいいっぱいで先の事なんか、よう考えれんよ」
「今がいっぱいいっぱいか……それでいいのかもしれないな」
思いがけずメッサーさんと会話をした。会話といっていいのか分からなかったけれども。
ちらり、と店内へと入り口に目をやる。
勘違いだったとはいえ、ハヤテとミラージュさんの事を疑ってしまった。疑うというよりは……なんだろうモヤモヤしてうまく言葉が出てこない。
ただ、このまま今夜はハヤテやミラージュさんの顔を見ることが出来ない気がしてならない。
「戻らないのか」
岩に背を預けてるメッサーさんが声を掛けてきた。
邪魔なのかもしれない。早く立ち去ってあげたいのに、二人がいる店内に入るのを躊躇してしまう。
「え、えっとぉぉ〜…」
言葉尻が小さくなっていると、パタパタと足音が聞こえた。
「フレフレ」
「マキナさん?」
「今日、ウチにおいで」
「レイナさん?」
「そうそ、フレフレは今日は私たちのお家にお泊まりしよ〜」
「な、なんね、急に?!」
「 いいから、いいから」
「3人で一緒に寝よう」
にこにこと笑顔で話してくるマキナとあまり表情を変えないがフレイアの手を取るレイナに、フレイアは困惑していた。
しかし、そんな困惑しているフレイアをよそに二人は店内に戻り、ミラージュに今日はお泊まりする旨を伝えた。
「って訳で、フレフレは今夜はウチに泊まるね」
「は、はぁ……」
ミラージュもいきなりの事で困惑していたが、真面目な質だからか「カナメさんに伝えておきます」と口を開いた。
横で聞いていたハヤテもいきなりどうしたと言わんばかりにフレイアを見ていたが、目があったフレイアはなんとなく、目を逸らしてしまった。
「カナカナには私からも連絡しておくから大丈夫。じゃあ、また明日ね」
「おやすみ」
ぐいぐいと背中を押されて、フレイアは慌てながらも「お、おやすみなさいぃ〜」と声をだして裸喰娘娘から出たのだった。
訳が分からないフレイアだったが、二人が両端に並び手を繋いでくれていることがなんだか温かくて、嬉しくて「うひひ」とハヤテ曰く気持ち悪い笑い方をしてしまった。
いきなり泊まるといっても着替えとかないから、一旦女子寮に戻らせて欲しいといえば、二人は快諾してくれた。
小さいバックに着替えなどを詰めて、部屋から出るとちょうどカナメが帰宅した。
「あら、マキナとレイナ?珍しいわね」
「あ、カナカナ〜。おかえり」
「おかえり」
「ただいま。あら、フレイア、どうしたの?その荷物」
「えっへへぇ〜。フレフレは今夜、私たちの家にお泊まりなんだよー」
「……あら、そうなの?」
「は、はいっ!」
「フレイアは当番終わったばかりだし、いいんじゃない?」
マキナの顔を見て察したカナメはウィンクしながら答えた。
「楽しんでらっしゃいね」
「ほいな!」
元気に出ていくフレイアの様子にカナメは手を振って見送った。
しかし、外に出れば今度はミラージュたちと鉢合わせしてしまった。
「ハヤテ…?」
ミラージュはともかく、なんでハヤテが女子寮の前にいるのか分からなかった。
「今から行くのですか?」
「フレフレの着替えとか必要だったから。ね、レイレイ」
「着替え、大事」
「…………」
「フレイア? なんか元気ねーな、どうした?」
黙ってしまったフレイアにハヤテは気になって話しかけたが、フレイアはへらりと笑ってみせた。
「ハヤテ、ミラージュさん送ってきたんやねぇ。偉い偉い」
「はぁ? 別にそんなんじゃねーよ」
「…「じゃあ、私たち行くから。今度こそおやすみ〜」」
「おやすみ」
「あ、お、おやすみなさいっ!」
何かを言おうとしたが、言葉がうまく出ない所でマキナがフレイアの背中を押して、進む事が出来た。
先程と同じように、マキナとレイナに挟まれ、フレイアは彼女たちの家に向かった。
その後ろ姿を眺めたハヤテは、なんだかフレイアに元気がないように見えたのだった。
二人が一緒に暮らしているというのは、前にカナメに教えてもらっていた。
それらしい建物に案内されて、通された部屋で3人は寝る格好になった。
フレイアはなぜ、この二人が泊まりを決行したのは正直分からなかった。
ただ、ここにはハヤテもミラージュもいない。それだけだった。
ここ数日、二人の噂を聞いて、二人っきりに遭遇して、全てはヴァール化しそうになるメッサーの為であったのに、疑って、恥ずかしくて情けなくなった。
「フレフレ、はい」
「アポジュー!」
不意にマキナから渡された飲み物にフレイアはすぐに反応を示した。
「銀河アップルのじゃないけど、美味しいはず」
レイナも小さく微笑を浮かべ、フレイアが嬉しそうに飲むのを見つめていた。
マキナとレイナは顔を見合わせると、小さく頷いた。
「ハヤハヤとミラミラ、付き合ってなかったんだね」
「通い妻でもなかった」
「っ!」
飲んでいたアップルジュースが噎せたのか、フレイアは咳き込んでしまった。
「なっ、なにを言っと「気にしてたでしょう?」……うぐ」
「バレバレ」
「……あれは…その……、私が悪いねん…勝手に勘違いしてたから……」
「でも最初に誤解を招くような事をいった私達も悪い」
「うん。勝手に想像しちゃダメだよね」
「フレイアは、あの二人を見てどう思ったの?」
フレイアが二人を気にしていたことは二人も気づいていた。元気が少しなかったことも。
「………ルンが、ムズムズして………苦しかった…です」
怖くて、誰かに聞いて欲しかった。
しゅんとうなだれるフレイアと、青くなるルンにマキナたちは顔を見合わせるとフレイアの頭を撫でた。
「フレフレは恋してるんだね」
「……こ、恋っ!?」
「無自覚」
「ふ、ふぇぇええ?」
「別に悪い事じゃないんだよ?」
「で、でもでも……。ハヤテは地球人で私はウィンダミア人だから……」
──ウィンダミア人は30年程しか生きられないそうだな………不安にならないのか、自分の未来が──
先程のメッサーの言葉が蘇る。
人生30年──それでも悲観したことはなかった。
フレイアたち、ウィンダミア人にはそれが普通の事で気にしたりしなかった。
地球人の寿命はその倍だと聞いた時はなんて長寿な民族なんだろうかと思ったが、羨ましいとは考えたことはない。
だけど……。
──ハヤテは地球人で、私はウィンダミア人だから──
自分のいった言葉が胸に刺さる。
「フレフレ…」「フレイア…」
「………気づきたく、なかった……」
頬に熱い滴を感じる。ハタハタと零れる涙を拭おうとすれば、「擦っちゃダメだよ、フレフレ」とマキナから声がかかり、「おしぼり」といつの間にかレイナが濡らしたタオルを持ってきた。
冷たいタオルが熱い涙を吸い込み、タオルは温くなっていく。
「……気づきたく、なかったんよ…」
そう呟いたフレイアはタオルを押し付けたまま、眠りについてしまった。
マキナとレイナはしまったと思った。
感情──恋情に関しては二人もそれほど経験がない。今は互いが大事であるが、メカニックやハッキングも楽しい。
ワルキューレメンバーで一番年下の妹分。故郷との戦争にも関わらず、頑張っている。
戦争が続く限り、彼女は故郷には戻ることは出来ないだろう。戻りたくても、敵方からは裏切り者と罵られ、本部からはスパイ容疑をかけられ。
無論、短い間だが彼女がスパイだなんてことは微塵にも思っていない。
幸せになって欲しいと思う。
眠ってしまったフレイアを挟むように川の字に並び、マキナとレイナはフレイアの手を握った。
彼女が幸せになるように、と。
END
2016/06/03