無邪気なはずだった君
「悪いのは私の方……」
そう呟いて、風に当たってくると言ってフレイアは出ていってしまった。
隣に座るミラージュが「フレイアさん、どうしたんでしょうか」と言ってきたが、それは俺も知りたかった。
「さぁな」
フレイアの考える事は分からない時だってある。
そんな事を考えていると、ワルキューレのマキナとレイナがフレイアを追いかけるように出ていった。
どうしたんだ、とミラージュを見るが彼女もそれを見ていた。
チャックを振り返れば、分からないとばかりに両手をあげ、肩を竦めていた。
最近はメッサーの事が心配で、あまりフレイアと話していなかった気がする。
そんな時、彼女たちが店内に戻ってくると、マキナがミラージュに話しかけた。
「ミラミラ、今夜はフレフレは私達と話があるの」
「そう、ガールズトーク」
「って訳で、フレフレは今夜はウチに泊まるね」
「は、はぁ……カナメさんに伝えておきます」
いきなりの話にミラージュも困惑していたが、キリッとした態度で受け答えていた。
ハヤテはどうしたんだとフレイアに訊こうとして、顔を見合わせたが、ふいっと顔を逸らされた。
「フ「カナカナには私からも連絡しておくから大丈夫。じゃあ、また明日ね」
「おやすみ」
「お、おやすみなさいぃ〜」
話しかけようとしたが、マキナとレイナがフレイアの背中を押して、出て行ってしまった。
チャックはしっかり「おやすみ〜」と唇をつきだして手を振っていた。
最後まで顔を逸らされたせいか、フレイアが気になってしまう。
「あ〜ぁ、俺も一緒に混ざりたかったなぁ〜」
「無理に決まってます」
「当たり前だろ」
チャックの言葉にミラージュは呆れ、ハヤテは少しぶっきらぼうに答えた。
「フレイアちゃん、なんか元気なかったけどどうしたんだろうな」
「……さぁな…」
「少し変でしたよね」
「………ダメだ、こりゃ」
「何がだよ」
「なんでもない」
やれやれと言った口調で頭を振るチャックにイラッとしていると、隣のミラージュが立ち上がった。
「私もそろそろ戻ります」
「おう、お疲れな」
「ハーヤーテー、ミラージュを送っていけよ?」
「「はぁ?」」
「はぁ?ってミラージュは女なんだし、遅いんだからな」
「別に私は大丈夫です」
ビシッとした態度のミラージュだが、チャックの言うことも一理ある。
もしかしたら、フレイアを見かけるかもしれない。
まぁ、マキナとレイナがどこに住んでいるかは知らないが、ミラージュは知ってるかもしれない。
「行くか、ミラージュ」
「は、ハヤテ、別に私は……」
「いいから行くぞ」
「は、はい…」
そういえば、最近はミラージュと行動をしていたことに気づいた。だが、あまりお喋りではない彼女とは無言で歩いていく。
女子寮の前まで来ると、フレイアたちが建物から出てきた。
「ハヤテ…?」
キョトンとした瞳が不意に曇った気がした。
隣のミラージュがフレイアに話しかければ、マキナとレイナが答えた。
「今から行くのですか?」
「フレフレの着替えとか必要だったから。ね、レイレイ」
「着替え、大事」
「…………」
黙っているフレイアが気になって、今度こそ話しかけた。
「フレイア? なんか元気ねーな、どうした?」
「ハヤテ、ミラージュさん送ってきたんやねぇ。偉い偉い」
どことなくぎこちない、へらりとした笑顔がむけられた。
ふひひといつもの気持ち悪い笑い方をするフレイアに違和感を覚えながらハヤテは口を開いた。
「はぁ? 別にそんなんじゃねーよ」
別にそんなではない。チャックに言われたからであって、ミラージュに関しては心配していなかった。
むしろワルキューレだけで帰った彼女たちが、フレイアが心配だった。
フレイアが顔を上げて、何かを言おうとしたがマキナがフレイアの押した。
「…「じゃあ、私たち行くから。今度こそおやすみ〜」」
「おやすみ」
「あ、お、おやすみなさいっ!」
顔を、目を合わさないままフレイアは、3人で歩いて行ってしまった。
フレイアの背中を見送りながら、ハヤテは元気がないように見えて、なんだか無性に腹が立った。
「では私もここで。……あ、あの、ありがとうございました……」
「……あ、ああ…気にすんなよ」
「ではまた明日」
「ああ、明日な」
ミラージュにそう告げて、ハヤテは踵を返した。
明日、明日になればなんとかなるだろう。
先程のフレイアの態度がちらつきながら、ハヤテは頭を掻きながら男子寮である裸喰娘娘へと戻ったのだった。
翌日、座学を受けた午前中、喉が渇いたので食堂へと足を向けた。
そこに林檎ジュースを嬉しそうに飲むフレイアを見つける。
銀河アップルの流通は止められたが、林檎は他にもある。林檎が大好きと公言しているフレイアには物足りないかもしれない。
でも嬉しそうにしているのを見ると、嬉しくなるのは何故だろうか。
「よ、フレイア」
「は、ハヤテっ!」
ぽん、と頭を軽く叩くとフレイアが顔をあげた。
その瞬間、あれ、とハヤテは思った。
目があったが、ついと目を逸らされる。頬がほんのり赤く染まっている。
それがなんだか艶めいていて、ハヤテは胸元を押さえた。
「わ、ワルキューレも休憩かっ…?」
「そ、そやよ。は、ハヤテは?」
「俺は、喉渇いたから」
「そ、そうなんか……。じゃ、じゃあまだレッスンあるから行くねっ!」
パタパタと隣を通りすぎるフレイアを見送りりながら、ハヤテはドキドキとする胸を押さえていた。
END
2016/06/04